整形外科の外来で、レントゲン写真などをとって検査をしたのちに、よく耳にするのが、
「投球を中止してください」とか「もうボールを投げるのはやめなさい」といった指導があって、
混乱されるお子さんやご家族の方も多いのではないかと思います。
確かに野球肘の多くは、根本的な骨性の異常が見当たらない場合も多く、
一時的に投球を休むことで、ボールを投げられるようになります。
しかし、ここで気をつけなければならないことは、単に痛みが取れるのを待って、休んだだけでは、
再びボールを投げ始めると、故障がまた起こる可能性があるという事です。
当院では、障害が再び発生しないように、「再発防止プログラム」をもとにリハビリテーションを行っています。
投球再開に向けてのプログラム
下の図は、当院で行っている肘の障害がおこってから投球再開に向けてのプロトコルです。
肘の障害の程度や、疾患にもよりますが、おおむね以下のような流れで行っています。
当院では、障害が発見できた場合、状態によって投球を休止する期間を、まずお伝えします。
しかし、それだけにはとどまりません。
休止している間から並行して、患部外のトレーニングを行ったり、ビデオ撮影を行ってフォームチェックなどを行います。
痛みをとるだけの治療に終わらず、患者さんの将来を考得て、再発しないように、上記のことすべてを治療と考えて行っています。
治療の実際
上記で示した投球再開までの道のりは、約2ヵ月あります。
その間に、取り組んでいる具体的な内容を一部ご紹介いたします。
患部外トレーニング
ゴムチューブを使った肩周囲の筋肉群を鍛えるトレーニングです。
肘以外の部分として、肩関節のトレーニングをする目的は、
投球ができない間も、なるべく筋肉を落とさないようにするためです。
左の写真以外にも、色々な方法があります。
左の写真は、体幹のトレーニングに加え、
腕を上げる運動連鎖を意識したトレーニングです。
投球を休止している間、体の柔軟性を維持するとともに、
体幹トレーニングを行います。
左の写真は肩甲骨の安定化を図るためのトレーニングです。
実際に投球を始めるにあたって、肘に極力負担をかけないためにも、肩甲骨の動きがと安定性が大切だからです。
各種ストレッチング
肩関節後方部を伸ばすストレッチです。
肩と床の間にタオルを入れて、肩甲骨の動きを制限して行う事がポイントです。
広背筋を伸ばすストレッチです。
反対側の腋の下あたりに枕などを入れ、支点を作り、
より伸ばしやすいようにして行う事がポイントです。
以上の、トレーニングやストレッチはほんの一部です。
当院では、まず患者さんにマンツーマン指導をさせていただいて、
そのうえで、プリントをお渡しして、ご自分でもおうちでやっていただけるように指導させていただいています。
それと同時に、障害予防につながる体の使い方を習得していただけるように、投球指導教室を並行して行います。
骨盤の回転運動を意識した投球理論
上の写真は足を踏み出して、下半身の力を骨盤を介して体幹から肩・肘・手と伝えていく途中を示した写真です。
当院では、投球指導の際には、この写真にあるように、踏み出した足を軸として、しっかり体重をのせ、
骨盤を回転させてくるという事が重要なポイントだと考えています。
その考え方は、以下の図の様です。
骨盤の回転運動と、下半身による並進運動をうまく融合して、
運動連鎖をスムーズにし、肘や肩に負担のない投球を目指すことが重要です。
実際に投球指導していて、ほとんどの野球少年はこの骨盤運動がうまくできていないことが多く見受けられます。
怪我をした患者さんによく見受けられるのは、骨盤の回転をうまく使えずに、
その代償動作として、体を前へ大きく倒す前屈動作でボールを投げている場合が多く見受けられます
そうすると、ボールにエネルギーがうまく伝えられず、肘や肩に障害を引き起こします。
以下で、実際に骨盤の回転動作がスムーズにできている例と、体幹の前屈で投球している例をご覧いただきたいと思います
踏み出した足を軸に骨盤を回転している例
軸足を中心に回転させ、体幹を前屈している例
以上のような、治療を当院では行っております。
投球休止期間であっても、総ての運動を中止するのではなく、
投球中止期間でも行える患部外のトレーニングや、投球指導(体の使い方)を行っています。
野球に関する障害などでお困りの方は、当院までご相談いただければと思います。