高いところから落ちて足を強打したとか、出かけ先で足を踏み外してかかとを強く打ったなど、
強い衝撃をかかとに受けたとき踵骨骨折が生じます。
踵骨骨折はギプス固定をすることで治るのですが、
踵骨の持っている特徴的な問題があり、
注意して治療していかないと後遺症を残すこともあるので、
注意して治療する必要があります。
このページでは、踵骨骨折の治療の実際や、
踵骨骨折の治療に対するポイントについて見て頂きたいと思います。
上の図の赤丸で囲んだ部分が踵骨です。
踵骨の上には距骨がのり、前には立方骨が存在し、
足の中でも体重を支える重要な働きがある骨です。
踵骨と、距骨の間で形成される距踵関節(上の図の赤丸部分)は足関節の動きを左右する上で重要な関節です。
距骨の後縁と踵骨の突起の部分を結ぶ角度は踵骨骨折による変形の程度を左右します。
踵骨骨折の場合、受傷時の力は距骨を通じて上から真っ二つになるような力がかかります。
そして、壊れた踵骨はさまざまな形に変形しますが、
変形の度合いを表す角度はどんどん小さく示されます。
ですので、踵骨骨折を治す上では、
できるだけ正常な角度に戻すことが重要になります。
また、踵骨が折れる場合、
主に下の図のような折れ方になる場合が多いのです。
踵骨骨折の形
アキレス腱が強く引っ張り折れてしまう場合。
口を開いたように真横に割れてしまう場合。
距踵関節部分に骨折線が入り、さらに細かく砕けている場合。
上の図の中でも、骨折片が多いものほど踵骨はつぶれやすくなり、
原型に戻りにくい傾向にあります。
踵骨骨折の治療の進め方
踵骨骨折の治療は、下の写真のように、まず手技で骨折部分を元に戻すことを試みます。
(このとき、麻酔をかけて、患者さんが痛くないようにして行っています。)
手技の狙いは、かみこんでずれたかかとの骨を引っ張りあげることによって、骨を元の位置に戻します。
骨を元に戻したことを確認してからギプスを巻き、2~3週間体重をかけないようにします。
3週以降、徐々に体重がかけられるように、ギプスにヒールをつけます。
しかし、踵骨に体重がかからないように工夫して、ヒールの位置を踵骨より前に設定します。
こうやって、ゆるみが生じたらギプスを繰り返し巻きなおし、
完全にギプスが取れるのは約6~8週間になります。
その後、足底板に切り替えて、かかとにかかる負担を軽減しつつ、
足に体重がかけられるように治療を続けます。
踵骨骨折治療の難しいところ
踵骨は歩くときに一番体重がかかる骨です。
この部分を治療する難しさは、
①骨折部分を治すためには元に戻した形を崩さないために体重をできるだけかけたくない。
②長期にわたって体重をかけないでいると、骨は一次的にスカスカになってしまう。
という相反する事態に対して、どう対処するかという点です。
上の図は踵骨を真横に切ったものです。
踵骨はスポンジ状になっていて、中を血流が流れることで、骨としての硬い質を保っています。
ところが、体重をかけずにいると、血流が少なくなり、骨の質が悪くなるという、踵骨特有の問題がります。
(これを骨萎縮といいます。)
骨萎縮した骨も、いずれは元に戻りますが、時間がかかります。
ですので、踵骨骨折が治ってもいつまでも痛いというのには、こういうことも関係していると思われます。
以下で、実際の治療について御覧頂たいと思います。
右足
左足
25歳、男性、山登りの途中、岩の上に飛び降りたとき両踵を岩にぶつけて受傷されました。
左のレントゲン画像のように左右の踵を撮影し、比較します。
横から撮ったレントゲンでは左足の踵だけに骨折線が見られました。(赤色矢印の先)
この時点では右足の踵には異常が見受けられませんでした。
踵を縦からレントゲンを撮ってみると、
踵の形状は左右とも同じように保たれていて、明らかな変形は見られませんでした。
左の踵に骨折線があったため、
CTを撮って、
距踵関節面に骨折線が入っていないか確認しました。
画像から、関節面に線は入っていましたが、
骨にはすれが無く、安定していたので、
ギプス固定を4週間続けました。
右足
左足
ギプス固定を行って4週間後のレントゲン写真です。
左足の骨折線はかなり薄くなって骨癒合が確認できました。
しかし、右側にも今まで見えなかった骨折線が白く出てきていて、実は骨折していたのだとわかりました。
このように、受傷直後には骨折線が見受けられない倍いにも、
骨折している場合があるので、踵骨骨折の場合は、2~3週間後にもう一度確認することが大切です。
次は63歳の女性です。
家の階段を登っていて、滑って転落し、受傷されました。
レントゲン写真を撮ると、踵の骨が上下に割れています。
骨のずれを手技で治し、
ギプス固定を4週間行いました。
初診から2ヶ月のレントゲン写真です。
骨折した骨は完全に埋まって癒合していました。
次は59歳の男性です。
当日朝、脚立から転落し、受傷されました。
初診時のレントゲン写真では、
左の踵の骨が割れてずれていました。
踵を縦方向からレントゲン写真で見てみると、
若干くの字型に曲がっています。
しかし、細かく砕けているわけではないので、
整復手技を行って、ギプス固定を行いました。
初診時から1ヶ月のレントゲン写真です。
骨折部分が埋まってきて、
骨折が治ってきつつあることがわかります。
初診時から3ヵ月後のレントゲン写真です。
完全に骨折部分が埋まって、
骨折が治ったっことが確認できました。
歩くのに問題が無い程度まで回復されました。
縦方向からレントゲン写真を撮って確認しましたが、
縦方向から見ても、
踵がまっすぐになっていて、
安定性が保たれていることがわかります。
次は60 代男性です。
踵の骨折で右足も以前当院で受診されていました。
それは完治したのですが、
今度は左足の踵を骨折され、来院されました。
レントゲン写真を撮ってみると、
左足の踵に骨折線を認め、踵骨骨折と診断しました。
しかし、粉砕されていないので、
まずは整復手技を行い、
整復後、ギプス固定を行うことにしました。
左の写真は整復手技を行った後、
レントゲンで確認したものです。
整復手技を行い、ギプス固定をした後、
このように再びレントゲン写真を撮って、
骨がきちんとした形に戻って固定できているか確認します。
固定後1ヶ月のレントゲン写真です。
踵骨の形も保たれていて、
骨折線も薄くなってきているので、
経過は良好です。
このように、踵骨骨折は固定期間が長くなるので、
できるだけ体重をかける時期はレントゲン写真を見て、
骨が崩れていないか確認して、
骨が崩れていないことを確認した後、
ギプスを巻きなおします。
踵骨骨折の治療は、形を崩さずに骨を癒合させることと、
非荷重によって骨が弱くなることから守るという、
相反する2つの事項をバランスをとりながら行う必要があります。
ここがこの治療の難しいところなのです。
粉砕型の骨折では手術療法がなされることもあります。
しかし、当院では手技によって形を整えた後にギプス固定を行うことによって
骨癒合をさせることを旨としています。
転落したり、強く踵を打って踵が痛むときには、
骨折を疑い、早い目に整形外科を受診される事をお勧めします。