踵骨後部滑液包炎

踵の後ろの方が痛くなる疾患の一つに「踵骨後部滑液包炎(しょうこつこうぶかつえきほうえん)」があります。

上の図にあるように、アキレス腱と、踵骨の間にあるクッションの役割をする滑液包の炎症です。

上の図は、足を上にしたり、下にしたりしたときの踵骨後部滑液包の様子をあらわしたものです。

足を上にあげたとき(背屈時)はアキレス腱と踵の間で挟まれ、圧縮されます。

逆に、足を下にしたとき(底屈時)には、逆にゆとりができてきます。

このように、足首を頻繁に動かすことで炎症を起こした状態がこの「踵骨後部滑液包炎(しょうこつこうぶかつえきほうえん)」です。

この疾患を診断するには、エコー検査が有効です。

患部の状態をエコーでみると、以下のようになります。

以上のように、炎症を起こした部分ではアキレス腱と踵骨の間に黒く水がたまったような映像が見えます。

実際の症例

では、以下で実際の症例を御覧いただきたいと思います。

14歳の男性、剣道部員です。

4~5日前から急に左のアキレス腱の痛みが生じたため、来院されました。 

よく見ると、アキレス腱自体の腫れや熱感などはなく、

くるぶしの後ろから、踵の後ろにかけて腫れが認められました。

今回の痛みの原因は、剣道の練習で裸足の状態で足を底・背屈することを繰り返すことで、

生じた滑液包炎であると判断しました。

エコーを撮って左右の踵の後ろの滑液包の状態を確認したところ、左の滑液包が腫れていることがわかりました。

治療として、クラブを休止して、経過を見ることにしました。

通常は靴にヒールパッドを入れる処置を行いますが、この患者さんの場合は、剣道をしておられてこの状態になったということで、原因となった運動を中止して、回復を待ちました。

ところで、踵骨後部滑液包炎のなかにも難治性のものがあります。

下の写真は踵の後ろの腫れを示した写真ですが、
下の写真の疾患は踵骨後部滑液包炎ではありますが、
踵骨の隆起の部分に原因があって生じた滑液包炎なのです。

上の図は、踵骨の形状を示したものです。

赤丸で囲んだ部分のように、正常型に比べて若干隆起が大きく、棘状に出っ張っている形状の踵骨の場合、
この骨のとがった部分とアキレス腱がすれて周囲の炎症がおこり痛みが生じる場合があります。

これを「ハグランド病」と言います。

以下で、実際の症例をご紹介します。

7年前に当院で右足の踵骨隆起を切除して、踵の痛みが軽快したのですが、今度は反対側の左側が痛くなったので、再び相談しに来院されました。

上の写真は現在痛みのない方の足です。 

こちらは、症状のある左足ですが、赤矢印で示したところが腫れているのがわかります。

左右を比較すると、左側の皮膚が腫れて赤く変わっています。

赤色矢印の先で示した部分がアキレス腱の踵骨隆起の境界部分になります。 

右足の踵には、とがった部分が見えません。

青丸で囲んだ部分にあった隆起部分を切除しています。

こちらは術後の経過もよく、痛みもないとおっしゃっていました。

左足の踵には赤色の丸で囲んだ部分にとがった骨が見えています。

また、赤色矢印の先にぼんやりと白く丸い影が見えています。
この白い影はアキレス腱の一部分が骨化しているのを表しています。

さらに、その結果、アキレス腱と皮膚の間で炎症をおこし、緑色の矢印で示した部分に腫れが見えます。

エコーを撮ってみると、左足は赤色の丸で囲んだ部分に突起が見えます。

右足には青色で囲んだ部分には突起が見えず、周囲も腫れていません。

別の角度からエコーを見ると、赤い○で囲んだ部分には白い塊が見えます。
これが骨化した部分です。

青色の○で囲んだ部分には何も変化は見られません。 

結局この方は手術で滑液包と踵骨の隆起部分を切除されました。

もともと、7年前にも右足で同じ手術をされているのですが、今回は左足を手術されました。 

この写真は、術後1カ月のものです。

赤色矢印の先に隆起部分がありません。

痛みもなく、問題なく歩くことができるようになりました。 

外観上も、赤色矢印の先で示した部分の腫れも引いて、問題が無くなったことがわかります。

踵の後ろ側が痛い場合、
単なる踵骨後部滑液包炎の場合と、
ハグランド病の場合の2つの病気が考えられます。

いずれも、初期治療はヒールパッドを使った処置を行うケースが多いのですが、
ハグランド病の場合、効果が見られない場合には、手術に至るケースもあります。

踵の後部に痛みがある場合には、早く痛みをとるためにも、
一度整形外科へ行かれることをお勧めします。

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