スポーツ選手の足部でみられる痛みの中で、
骨が原因とされる疾患として疲労骨折があります。
疲労骨折が生じる原因の多くは使いすぎによるもので、
下肢では脛骨や中足骨に多くみられます。
このページでご紹介する『立方骨疲労骨折』は非常に稀な骨折です。
今回は、当院を受診された患者さんの事例をもとに、
どういった疾患なのかを説明していきます。
立方骨はどこにあるの?
上の図は、足を外側からみた図です。
立方骨は踵骨と第5、第4中足骨の間に位置しています。
それぞれに関節が形成されていますが可動性はほとんどありません。
上の図は、足部を上からみたものです。
赤く囲んである骨が立方骨で
緑のラインのところで輪切りにした図が右のものになります。
前から第4、第5中足骨に挟まれ、後ろからは踵骨に挟まれています。
立方骨疲労骨折はどのようにして生じるのか?
立方骨疲労骨折は、ランニングなどの繰り返す動作が発生の原因となりますが、
立方骨にどのようなストレスがかかって発生するのかについては、
以下のような発生機序が述べられています。
左の図は、立方骨と長腓骨筋腱の位置関係を示したものです。
長腓骨筋腱は、立方骨の下部をくぐります。(赤丸印の部分)
運動中の足関節底屈と足部外反時に長腓骨筋腱によって、立方骨にストレスがかかることにより疲労骨折が生じると考えられています。
左の図は、足関節が底屈した場面を示しています。
ランニングの蹴り出し動作の際には、踵骨と第4、第5中足骨に囲まれた立方骨に圧迫力がかかるものと考えられます。
左の図のように、可動性の少ない関節面で囲まれた立方骨は、度重なるストレスによって疲労骨折が生じると考えられています。
左の写真は、着地した際の足部の位置を示しています。
左写真のように、足部が内側に倒れるような動き(回内)や、右写真のように、外側に体重をかけるストレスも原因になると考えられています。
以下で、当院に来院された患者さんの例を紹介します。
14歳の女性です。
陸上部に所属されています。
右足の痛みを訴えって来院されました。
3週間前に長距離走後に痛みが生じたため、近隣の整骨院を受診し治療を開始されていました。
左の写真は、初診時のレントゲン写真です。
痛みを訴える箇所は限局していませんでした。
また、赤枠で囲んだ部分には、画像上で骨折を疑う所見は見られませんでした。
実は、当院を受診する前に、他院でMRIを撮影しておられました。
その所見から、立方骨の輝度変化が確認できました。
別の角度からみた画像では、立方骨の前方・底側に輝度変化を認めましたので、前方・底側に生じた疲労骨折と診断しました。
冠状面での画像所見から、底側に輝度変化が認められるため、ランニングの蹴り出し動作の際に、踵骨と第4、第5中足骨に囲まれた立方骨に圧迫力がかかって生じたのではないかと考えられました。
治療としては、練習の休止のみで経過を見ることにしました。
左の写真は、初診から1ヶ月後のレントゲン写真です。
初診時と比較しても特に変化は見られませんでした。
この時点で、立方骨に圧痛はなかったため練習への参加を許可しました。
足部外側の痛みを主訴として、来院された場合
初診時にレントゲン写真を撮っても異常所見を認めないので、
立方骨疲労骨折と確定診断に至ることが少ないと思われます。
また、第5中足骨基部骨折(Jones骨折)のように、
痛みを訴える箇所が似ている疾患もあります。
そこで、MRIを撮影することで鑑別も可能となり、
早期診断ができるため、
早期に治療を開始することができます。
スポーツ選手の足部外側の痛みが長引く場合は、
MRI撮影をしてみてはいかがでしょうか。