もう怪我が治ってもいいころなのに、なぜ、腫れと痛みが引かないの!?(複合性局所疼痛症候群/CRPS)

あるとき怪我をして、固定をした後、ギプスも取れて、
いざリハビリを始めるというときに、腫れが引かず、痛みも以前より痛くなってしまうことがあります。

これは決して治療の進め方が悪かったとか、その他治療自体に問題があるわけではないのです。

この疾患は、神経を通じてさまざまな症状を呈する疾患なのです。

なかなか聞きなれない病名ですので、イメージがわかないと思いますので、
さっそく以下で例を見ていただきたいと思います。

こちらの写真は、42歳の女性です。

骨折後、歩くと痛いということで来院されました。

骨折したのは右足の第2趾の部分です。(赤丸印のところです。)

しかし、受傷したのは半年前です。

骨折はとっくの昔に治っているのに、なぜいつまでも痛いのかということで、来院されました。

両足を比べてみると、左足と右足の色が全体的に違います。

また、骨折した場所とはまったく関係のない場所が腫れていることがわかります。
(赤矢印のところです。)

何でこのようなことになったのか、もう一度骨折時から振り返ってみましょう。

別の病院で撮られた半年前に骨折した時のレントゲンを見てみると、このレントゲンでは右足の第2趾は確かに折れています。

しかし、このレントゲンを見る限りでは、2週間ぐらい固定して、その後しっかり趾を動かすリハビリをすれば、ちゃんと治っていたのではないかと思います。

当院に来られた時に、レントゲンを撮ってみると、赤い丸で囲んだところは、骨折した形跡がわからないぐらい治っています。

しかし、左右の足の骨を比べてみると、左足の青色矢印のところと、右足の赤色矢印のところでは、レントゲン写真に写った骨の写り方に違いがあります。

右足の骨は薄く写っていて、あたかも骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の人の骨のように見えます。
つまり、骨萎縮(こついしゅく)が起こっています。

どうして、骨折した場所とは関係ないところで、こんなことが起こってしまったのでしょうか?

この疾患がおこるメカニズムを以下で考えてみましょう。

問診でわかったことですが、
ご本人曰く、「初診時に診てもらった別の病院では、体重をかけないように指導されただけで、
リハビリの方法や、自宅での過ごし方の指導はなかった。」そうです。

そのため、ご本人も体重をかけてはいけないと思い、
右足に体重をかけることを極力避けられたそうです。

実はこの「体重をかけなさすぎたこと」が問題だったのです。

また、「骨折部分をかばいすぎて、痛みに敏感になりすぎていた」という2つの要素が考えられました。

上記の方のように、
①何らかの怪我が引き金になったり、あるいは動かさない時期がきっかけになっていて、
②引き起こされた事柄とは不釣り合いな持続した痛みや過敏な痛みがあり、
疼痛(とうつう)部位に浮腫(ふしゅ)(むくみ)や、皮膚血流の変化があり、
④以上のような症状を当然伴うべき疾患がない。
①~④のようなことがあるならば、「CRPS」を疑います。

CRPSの疾患名について

CRPSとはComplex Regional Pain Syndromeの略です。

Complexの意味は複雑に症状が混ざり合っている状態をいいます。
Regionalとは、最初に発生した部位を超えてより広い範囲での現象を意味します。
Painとは、痛みを意味します。
Syndromeとは、症候群という意味です。

名前の通り、複雑な要因が絡み合って引き起こされる疾患なのです。

過去を振り返ると、この疾患名は交感神経の関与が疼痛を引き起こす一因であると考えられ、
RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼ばれていました。

しかし、自律神経のお薬や、ブロック注射などによっても疼痛(とうつう)が取れない例もあることがわかり、
現在のCRPSという疾患名が提唱されるようになりました。

CRPSの発生のメカニズム

では、CRPSはどのようにして生じてくるのでしょうか?

正常な感覚器と感覚神経の関係

正常な状態では、皮膚からの感覚は知覚神経を介して、後根神経節(こうこんしんけいせつ)というターミナルを経て脊髄後角(せきずいこうかく)に至ります。
交感神経も、安定して発汗や血流など皮膚の状態をコントロールしています。

CRPSになったときの感覚器と感覚神経の関係

ところが、外傷によって損傷された神経は、歯車が狂い始めます。

①まず、交感神経では新たに神経内で繊維が発芽し、後根神経節へ影響を及ぼします。

②ターミナルである後根神経節では混乱が生じ、本来存在しないαアドレナリン受容体がが活性化してしまいます。

③このαアドレナリン受容体は知覚神経に作用して、本来大したことのない痛みの情報を、けがをしたかのような刺激として脊髄へ送ってしまうので、過敏な感覚がどんどん中枢神経へと送り込まれます。

④また、脊髄後角では触覚をつかさどる神経が芽を伸ばします。

⑤芽を伸ばした先に侵入したエリアで、違う神経とも連絡を取るようになります。

それで、皮膚に触っただけという刺激なのに、「痛み」として大きく増幅されて、中枢神経へ送られてしまいます。

以上のようなメカニズムでCRPSが発生するのではないかといわれています。

また、どうして、CRPSでは痛みが繰り返し発生したり、持続するのでしょうか?

その理由を図示したのが下の図です。

CRPSの痛みが長く続く理由

怪我などで侵害刺激が発生すると、知覚神経が興奮し、脊髄を介して脳に信号が送られます。

それと同時に、痛み刺激が運動神経や交感神経を興奮させ、局所の筋肉の緊張や、血流障害がおこります。

それが組織の酸素を少なくし、さらに発痛物質が作られます。

それがまた知覚神経を刺激し、痛みの悪循環が起こるのです。

こういうプロセスが痛みが続く理由であるといわれています。

では、この疾患の診断基準はどのようになっているのでしょうか?

CRPSの診断基準

診断基準は、これまでにいろいろな歴史を経て診断基準も様変わりしてきています。

現在では、上記のような診断基準が用いられています。

では、その診断基準を踏まえて、次の症例を見てみましょう。

46歳の女性です。

2か月前から左足の親指の付け根に痛みがあり、
当院を受診される前に、4件の整形外科を受診されましたが、
関節リウマチなどと言われたり、神経精神的なものなので、心療内科へ行くように勧められたり、原因がはっきり分からず、ネット検索で当院を知り、来院されました。

左右の足を比べてみると、足の色が違うことが明らかにわかります。

左足は腱の浮出し方がわからないぐらい全体的に腫れています。

ご本人の訴えでは、親指の付け根の関節が動かしにくい、また、ご自身で痛みが付け根以外にも、いろんな所がいつまでも痛い、という表現をされていました。

先の基準に照らし合わせてみると、赤色の四角で囲んだ部分が該当することになり、CRPSと判断されることになりました。


初診時から5日後の写真です。

初診時に比べて、皮膚の色調が改善していることがわかります。

また、腫れも引いてきています。

初診から約1ヶ月後の写真です。

左右の足の違いがほとんどわからないぐらいにまで回復してきました。

腫れもほとんどありません。

このように、CRPSと判断をきちんとして、適切な処置を行うことで、1か月足らずで回復しました。

CRPS を発見するためのわかりやすい基準としては、
以下の4つの主な兆候があります。
疼痛(とうつう)、②腫脹(しゅちょう)、③関節拘縮(こうしゅく)、④皮膚変色

また、時間の経過とともに、
疼痛(とうつう)の増強、②末梢の循環不全、③発汗異常、④皮膚温の変動、⑤レントゲンに見る骨萎縮、⑥皮膚の栄養障害
などが見受けられます。

では、このCRPSの痛みの悪循環を断ち切るにはどのような治療があるのでしょうか?

以下で、自宅でもできるリハビリをご紹介します。

温冷交代浴

もともとは、しもやけなどの治療に用いられてきた自律神経の強化を促す治療法の一つです。

CRPSの自律神経のアンバランスを元に戻し、痛みを軽減させる効果があります。

その方法は以下の図のように行います。

まず、心地よく感じる程度(38度~40度ぐらい)の温水に患部を3分間つけます。

次に、極端に冷たくない程度の冷水(10度ぐらい)に患部を30秒ぐらいつけます。

これを4~5回繰り返して、痛みが緩和したら温水で終了します。

このとき、2回目以降に温水に浸しているときに、ゆっくりと関節を動かし、こわばった筋肉をゆるめるようにします。

ときには、温水につけているときに患部をマッサージしたりするのも良いことです。

これらを症状が強い時には1日に4回ほど行いますが、1~2回でも十分に効果があるといわれています。

大切なのは、この一連の繰返しを温水で始めて、温水で終わることです。

これがCRPSにとって大切なリハビリとなります。

では、以下で症例をご紹介します。

53歳の女性です。

左足の痛みと、歩行が困難であるという訴えで来院されました。

半年前に新しいサンダルをはいてから足が痛くなったそうです。

時には強く腫れ、歩けないこともあったそうです。

それから2カ月ぐらいして、腫れと痛みが続くということで、近くの整形外科医院や、某大学病院の整形外科、さらには膠原(こうげん)病科を受診されました。

しかし、よくわからないといわれ、さらに症状が変わらないということで、当院に御来院になりました。

当院初診時の写真では、左足が右足に比べて全体的に腫れています。

足の裏を見ても、左足が全体的に腫れていて、×印の部分に強い圧痛を認めました。

レントゲンを撮ってみると、明らかな骨の外傷を疑う映像はありませんでした。

しかし、足の骨は全体的に骨粗鬆(こつそしょう)化(萎縮)が見られました。

左右の足の動きを比べてみると、明らかに左の動きが悪いとわかります。

足首を上にあげる動作をしても、左の足の方に強い緊張が見られます。

初診時の処置としては、足の裏の圧痛部位と、足の緊張の原因である足根洞(そっこんどう)部位に注射を行いました。

すると、翌日には歩行が軽くなっていました。

痛みが楽になったことを確かめて、さらに、足底板も処方しました。

また、お家で温冷交代浴をしていただくように指導しました。

初診から1ヶ月後の写真です。

左右の足の運動制限は、さほど目立たなくなりました。

皮膚の腫れも、ほとんどわからないくらいまで軽減してきました。

痛みも軽減して、問題なく歩くこともできるようになりました。

初診から2か月経過した時点のレントゲンです。

当初見られた骨萎縮像は改善していました。

このように初診時に痛みの原因をいち早く取り除くことで、体重を足にかけることができるように回復し、骨への刺激が元に戻ることで、骨の状態も元通りになりました。

CRPSの治療のポイントは、早期診断、早期治療にあります。

来院されたときに、完全にそうだとは確定診断に至らなかったとしても、
異常な疼痛、皮膚の色調変化、著明な腫脹、骨萎縮などからCRPSの前段階ではないかと考え、
たとえ過大に診断していたとしても、未然に進行を食い止めるように努めることで、状態が改善していきます。

また、患者さん側へのアドバイスとしても、
徐々に改善していくことをお話しして、精神的なストレスの軽減を図ることで、
さらに症状が改善していくものと考えています。

今は痛くて辛い症状も、根気よくリハビリをすることで改善していく疾患なので、
上記のような症状に心当たりのある方は、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めします!

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