認知症高齢者に対する機能訓練の効果とQOLへの影響について

2017年11月3~4日に行われました、日本柔道整復接骨医学会学術大会大阪大会において、
口頭発表を行った演題を以下でご紹介します。

今回の発表のテーマは、認知症高齢者の方々に運動を行うことでどのような身体機能の変化がかるのか、
その結果、日常生活活動や生活の質(Quality Of Life)にどのような影響があったのかを考えていきました。

また、運動することで認知機能にどのような影響があるのかについて調査しました。

対象

2010年4月から2017年7月までに1年以上デイサービスの利用を継続できた認知症の利用者さん19名を対象としました。

男性が4名、女性が15名、79〜97歳(平均年齢85.2歳)の方たちです。
介護度の内訳は以下の通りです。

介護度人数
要支援21
要介護113
要介護23
要介護31
要介護41

認知症高齢者の日常生活の自立度レベルでは、以下の通りでした。

ランクⅠ何らかの認知症を有するが、日常生活上はほぼ自立している。7名
ランクⅡaたびたび道に迷う、買い物や事務、金銭管理でミスが目立つ。5名
ランクⅡb服薬管理ができない。電話や訪問者との対応や、一人で留守番ができない。7名
方法
評価項目
身体機能の評価

1.敏捷性

2.歩行能力

3.立位バランス

4.下肢筋力

5.片脚起立時間

以上5つの項目で評価しました。

日常生活活動の評価

以下のアンケートを取って調査致しました。はい/いいえで答えて頂く形になっています。

活動内容




1バスや電車を使って、一人で外出が出来ますか?
2日用品の買い物が出来ますか?
3自分で食事の用意が出来ますか?
4請求書の支払いが出来てますか?
5銀行預金・郵便貯金の出し入れが自分で出来ますか?
6年金など、書類が書けますか?




7新聞を読んでいますか?
8本や雑誌を読んでいますか?
9健康についての記事や番組に関心がありますか?




10友達の家を尋ねることが出来ますか?
11家族や友達の相談に乗ることがありますか?
12病人(怪我人)を見舞うことが出来ますか?
13若い人に自分から話しかけることが出来ますか?

運動開始時点で「はい」と答えた項目のうち、1年後にはどの項目が維持できて、どの項目が出来ていないかを集計し、生活の自立度を評価。

認知機能の評価

本人との直接面談、家族との電話による認知機能についての調査を行いました。
該当する選択肢にチェックを付けて頂く質問方式です。

見当識
日時分かる・時々分かる・分からない
場所や人分かる・時々分かる・分からない
記銘・記憶
短期憶えている・不確か・忘れる事が多い
長期憶えている・不確か・忘れる事が多い
判断能力
簡単な内容できる・意見を求める・できない
複雑な内容できる・意見を求める・できない
周辺症状(幻覚・妄想・易怒・意欲低下等)
ある・なし

運動を開始した時点と1年後の時点での点数の比較。

採点方式は以下の通りです。

分かる/憶えている/できる…2
時々わかる/不確か/意見を求める…1
分からない/忘れる事が多い/できない…0
周辺症状 ある…0点/ない…1
合計 13点満点

結果
身体機能の変化

19人の方のテストの結果を集計致しました。
身体機能の変化1

※定められた距離を歩くのに掛かった時間です。

敏捷性は、ステップを踏める回数が増え、歩行能力はスピードが速くなっていました。

立位バランスは、より遠くまでてを伸ばして、バランスがとれるという結果でした。

身体機能の変化2

下肢筋力も、片脚起立時間も現状維持ができていました。

日常生活の自立度

活動内容「はい」と答えた方
運動前→1年後




1バスや電車を使って、一人で外出が出来ますか?7名
(36.8%)
7名
(36.8%)
2日用品の買い物が出来ますか?9名
(47.3%)
9名
(47.3%)
3自分で食事の用意が出来ますか?7名
(63%)
7名
(63%)
4請求書の支払いが出来てますか?8名
(42.1%)
8名
(42.1%)
5銀行預金・郵便貯金の出し入れが自分で出来ますか?7名
(36.8%)
7名
(36.8%)
6年金など、書類が書けますか?8名
(47.3%)
7名
(36.8%)




7新聞を読んでいますか?14名
(73.6%)
14名
(73.6%)
8本や雑誌を読んでいますか?11名
(52.6%)
11名
(52.6%)
9健康についての記事や番組に関心がありますか?13名
(68%)
13名
(68%)




10友達の家を尋ねることが出来ますか?7名
(36.8%)
4名
(21%)
11家族や友達の相談に乗ることがありますか?8名
(42.1%)
1名
(5.2%)
12病人(怪我人)を見舞うことが出来ますか?10名
(52.6%)
8名
(42.1%)
13若い人に自分から話しかけることが出来ますか?12名
(63%)
9名
(47.3%)

 

活動内容
手段的自立
1.バスや電車を使って、一人で外出が出来ますか?
運動前
7名
(36.8%)
1年後
7名
(36.8%)
2.日用品の買い物が出来ますか?
運動前
9名
(47.3%)
1年後
9名
(47.3%)
3.自分で食事の用意が出来ますか?
運動前
7名
(63%)
1年後
7名
(63%)
4.請求書の支払いが出来てますか?
運動前
8名
(42.1%)
1年後
8名
(42.1%)
5.銀行預金・郵便貯金の出し入れが自分で出来ますか?
運動前
7名
(36.8%)
1年後
7名
(36.8%)
6.年金など、書類が書けますか?
運動前
8名
(47.3%)
1年後
7名
(36.8%)
知的能動性
7.新聞を読んでいますか?
運動前
14名
(73.6%)
1年後
14名
(73.6%)
8.本や雑誌を読んでいますか?
運動前
11名
(52.6%)
1年前
11名
(52.6%)
9.健康についての記事や番組に関心がありますか?
運動前
13名
(68%)
1年前
13名
(68%)
社会的役割
10.友達の家を尋ねることが出来ますか?
運動前
7名
(36.8%)
1年後
4名
(21%)
11.家族や友達の相談に乗ることがありますか?
運動前
8名
(42.1%)
1年後
1名
(5.2%)
12.病人(怪我人)を見舞うことが出来ますか?
運動前
10名
(52.6%)
1年後
8名
(42.1%)
13.若い人に自分から話しかけることが出来ますか?
運動前
12名
(63%)
1年後
9名
(47.3%)

日常生活では、手段的自立では、6項目中、5項目が1年後もできていました。

知的能動性では、3項目すべてが1年後もできていました。

しかし、社会的役割については4項目のすべてが1年後には活動性の低下が見られました。

認知機能の変化

全体
項目別

左から日時・場所/人・短期・簡単・複雑のデータになります。

認知機能は、1年後の調査でほぼ維持ができていましたが、
各項目別で見た場合には、場所や、人の認識、簡単な動作の遂行は1年後に少し下がっていました。

また、短期記憶は、元々低い値でしたが、1年後も少し低下する結果でした。

実際に利用されている利用者さんの様子
〜84際の女性の場合〜

84才の女性の方です。

介護度は要介護1です。

日常生活の自立度ランクはⅠです。

当デイサービスを1年前からご利用中で、週に2回こちらで運動を行っていただいています。

集合住宅で、一人暮らしですが、近所の付き合いはできておられます。

買い物は、以前から自分でできておられますが、最近になって通院と服薬管理ができなくなりつつありました。

利用開始から1年後の調査結果では、歩行能力が維持できて、下肢筋力が向上していました。

日常生活活動と、認知機能も維持ができていました。

この写真は、こちらで行っておられるトレーニングメニューの一つです。 

脚力の強化を目的に、レッグプレスマシンを行っておられます。

歩く力をつけていただくために、ウオーキングマシーン上で実際の歩行を想定した訓練をしていただいています。 

認知機能の低下を防止するために、脳トレーニングとして、パズルゲームをしていただいています。

パズルを解くスピードも、難易度も双方共に向上されています。

〜79際の女性の場合〜

79才の女性の方です。

介護度は要介護1です。

日常生活自立度はランクⅡbです。

当デイサービスを1年前からご利用の方です。

1年前より、ご家族と同居をされています。

日中はご家族が運営されている会社でボランティアをしつつ、
こちらを週に2回ご利用いただいています。 

本年、8月頃に転倒され第1腰椎圧迫骨折の診断でした。

約2ヶ月の入院の後、再びご家族との生活が再開できましたが、
日中はボランティアへの参加がなくなり、ご自宅で横になっておられることが増えました。

転倒して、入院されてから、今まで通りのことができつらくなり、
デイサービスへ来る日と場所を忘れてしまわれました。

ところが、退院後、デイサービスを再開されてから、
他の利用者さんの名前が出て来るようになりました。

利用開始から1年後の調査結果では、下肢筋力は維持できていましたが、
日常生活の活動量は減っていました。

認知機能の評価も、低下していました。 

実際にこちらへ来られて、行っている運動は、歩くことをウオーキングマシーン上でしていただきました。

ただ、一人で黙々と歩き続けるのではなくて、仲の良い他の利用者さんとともに、おしゃべりをしながら楽しく歩いていただくようにしました。 

考察

認知症高齢者さんは運動を行うことで、日常生活の行動が改善し、
社交性が向上して、自律神経機能面も向上するといわれています。

今回の結果から、身体機能の面では歩行能力、バランス能力、敏捷性の数値が上がっていました。

また、下肢筋力と、片脚起立時間の数値が維持できていました。

このように、デイサービスで定期的に行う有酸素運動や筋力トレーニングは
認知症高齢者の方々の身体能力を維持向上させるということがわかりました。

さらに、日用品の買い物や、一人で外出できるなどの手段的自立や、
興味や学習の意欲につながる知的能動性が維持できたことは、
認知症高齢者の方々にとって、日常生活上の活動が向上したということになると思います。

社会的役割については、高齢の方は閉じこもる傾向になりがちですが、デイサービスを利用していただくことで、
お仲間の方とのつながり保てて、それによって良い影響が出ていることがわかりました。

認知機能への効果については、総合的には1年後も維持できていました。

それは、マシントレーニングや、ウオーキングは下肢の筋肉の刺激となり、その信号は大脳の運動連合野へ伝わり、
波及効果として、前頭連合野を刺激する効果があるものと思われます。

しかし、認知機能の項目に分けて評価してみると、場所や人の認識、
短期記憶、簡単な動作の遂行が難しくなっておられました。

その理由は、転倒をきっかけに入院することとなり、認知機能が低下してしまったものと考えています。

一旦低下した認知機能を元に戻すというのは、なかなか難しいことですが、
少しでも悪化を防ぐには、今までできていた本人の行動をあまり奪わずにできることを促していく訓練が必要だと思います。

まとめ

認知症高齢者の方に対して、機能訓練を行うことにより、身体機能が改善し、
結果として日常生活の維持と認知機能の低下を防止することになると思います。