ドケルバン病 (親指の狭窄性腱鞘炎)

以下のグラフは当院での手術件数です

手首の周りにある指を動かす筋(腱)が炎症をおこし痛みが出ることがあります。

このページでは、よく見られる親指のつけ根の腱鞘炎である「デカルバン病」について御説明します。

ドケルバン病が起こるのは下の絵の斜線がかかった部分です。

ちょうど親指の下の手首のあたりに痛みや腫れが生じます。

どうして、この辺りが痛くなるのかということについて説明したものが、上の図です。

上の図の赤い丸で囲んだ部分は2つの親指の動きに関与する腱が腱鞘と呼ばれるトンネルの中を走っています。

それぞれの腱は独立していますが、赤い丸の部分は第一区画と呼ばれる一つのユニットになっています。

親指を動かす動作が多くなると、第一区画の中で腱鞘炎を起こしてしまうのです。

これが「ドケルバン病」の病態です。

第1区画と呼ばれるトンネルの中を拡大したものが図です。

この区画の中では、滑膜腱鞘と呼ばれるトンネルの中を短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が走っています。

短母指伸筋腱は隔壁と呼ばれるさらに小さいトンネルの中で閉じ込められているのがわかります。

この隔壁はある人やない人もいて、個人差があります。

炎症によって、この隔壁が肥厚すると、短母指伸筋腱の周りのトンネルの空間がさらに狭くなるので、

腱の滑走が妨げられることになります。

それで、この部分に痛みや腫れが生じます。

炎症が起こっている状態を表したものが上の図です。

腱鞘が肥厚したり、腱の表面が傷んだりしだすと、

腱鞘がさらにきつく締めつけるようになって、腱の滑走を妨げます。

では、どんな人がよくこの疾患になるのでしょうか?

ドケルバン病になりやすいのは下の図のような方です。

では、どんな姿勢の時に痛くなるのでしょうか?

以下のような検査を行って、症状を誘発します。

親指を握りこんで手首を下に引きます。

すると、ドケルバン病ならば、赤丸の部分に痛みが生じます。

手首を下に向けて親指を前後に動かすと、赤丸部分に痛みが生じる場合、ドケルバン病と判断されます。

この状態の手を上に向けてみると、ちょうど赤ちゃんを抱っこして、頭を支えた時とほぼ同じ形になります。

赤ちゃんを抱っこした女性が、手首の赤丸部分が傷む場合、この疾患である可能性が高いといえます。

ドケルバン病の治療

ドケルバン病は大きく分けて2つの治療方法があります。

一つ目は、親指の動きを制限する装具療法と、痛みのある個所に注射を行う方法です。

有効なのが上の写真のように、装具を装着し、手の安静を図ることです。

装具は患者さんの手に合わせて、リハビリスタッフがすぐにおつくりします!

取り外しができるので、日中どうしてもつけられないという方は、

夜、お休みになるときだけつけていただければ結構です。

この装具を2~3週間つけていたくことで、症状はかなり改善します。

炎症をおこしている部分に炎症止めの注射をすることで、痛みを和らげます。

二つ目は、短母指伸筋腱の腱鞘を切開する手術療法です。

手術療法は、装具療法や注射による治療を継続しても、症状の改善が見られない方などに適応されます。

また、職業柄、手を使う事が多くて、手の安静を図ることが困難な場合には、

手術療法を第一選択とされる方もあります。

当院で行っている手術療法は、皮下腱鞘切開術です。

この手術の特徴は、日帰りで行う事ができ、手術時間は数分程度で、傷も小さくて済みます。

以下で、手術のイメージ動画をご覧いただきたいと思います。

以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。

では、実際の患者さんを見てみましょう。

29歳の女性、2週間ほど前より右手首の痛みがでたということで来院されました。

出産後5か月ということで、赤ちゃんの世話などで、お家でよく手を使われているようです。

左右を比べて見ると、左手は完全に親指が伸びて、親指の筋も伸びていますが、

右手は親指が完全に伸びず、赤矢印の先で示した部分が腫れています。

エコーを撮ってみると、腱の周りには炎症を疑う黒い影(赤色矢印の先)が見えて、

腫れている部分での炎症が確認できました。

装具を装着することで、症状は改善しました。

次は、51歳の女性です。

左手の手首の痛みを訴えて来院されました。

赤矢印で示した部分が明らかに腫れていて、腱の形もわかりづらくなっていました。

別の角度から見てみると、手の関節はさほど腫れていませんでした。

第1区画だけの炎症と判断し、ドケルバン病と判断しました。

取り外し可能な装具をおつくりして、手の安静を図りました。

安静をはかることで、痛みが和らぎ、リハビリの必要も無くなりました。

痛みが長く続き、注射や固定療法をしても症状が改善されず、

何度も再発するような場合には、手術に至る場合もあります。

手術は、締め付けている腱鞘を切開して、腱の通りをスムーズにすることが狙いです。

手術は特殊な細いメスで腱鞘だけを切り開きます。

メスが細いので、手術時の傷はほんの小さな穴だけです。

ですので、縫う必要もありません。

手術後すぐに親指を動かして、腱がスムーズに動くことを確認します。

手術に要する時間も5分ぐらいです。

手術後、しばらく休養していただき、その後、お家に帰っていただきます。

手術になった患者さんの症例を御覧いただきたいと思います。

57歳の男性。

手を使うお仕事で、長くこの疾患に悩んでおられたので、手術になりました。

こちらは手術後の写真です。

手術の跡が手首に黒い点状になって見えています。

術前

画面中ほどに腱鞘の肥厚があり、腱が窮屈な状態になっているのがわかります。

術後

術後は腱が上へ移動して、腱鞘からの圧迫がとれ、ゆとりができているのがわかります。

ドケルバン病に対する皮下腱鞘切開術

38歳の男性です。

1か月前から、親指を伸ばすのと、外へ開くときに右手首に痛みが生じたそうです。

近くの病院で、2回痛み止めの注射を受けたそうですが、痛みが変わらないので、当院を受診されました。

仕事上、パソコン入力が多く、痛みのため、非常につらいそうです。

こちらの写真は、患部をイメージした図を患者さんの手の上に描いています。

手関節の第1区画の周辺が腫れていることがわかります。

レントゲンでは、左右の手を比べてみることによって、

右手関節橈側の腱鞘の肥厚によって、皮膚と骨との間が広がっていることが確認できました。

エコーをとってみると、
健側と比べると、患側の腱周囲に炎症を疑う所見があり、腱鞘肥厚を認めました。

皮下腱鞘切開術後のエコー画像

エコーで示したように、圧迫されていた腱が、腱鞘を開放されたために、圧迫を受けなくなり、

骨の床面から浮き上がってくることがわかります。

そして、痛みが消失します。

この方は、初診から3週間後に手術をなさって、術後2週間後にはお仕事に復帰されました。

ドケルバン病に対する皮下腱鞘切開術の動画
手術当日
手術翌日

傷も小さく、縫合しませんので、術後早期に日常生活に復帰できます。

上の動画でもわかるように、痛みもなく、スムーズに手首を動かすことができています。

当院での手術適応に関する考え方や、データについては以下を御覧ください。

ドケルバン病はほとんどが固定療法や注射で改善します。

しかし、お仕事上の都合や、患者さんご自身のニーズに応じて手術適応になる場合もあります。

こういった症状がある場合には、我慢せずに、すぐに整形外科へお越しください!

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