前十字靱帯損傷②(前十字靱帯損傷の 診断と合併症)

膝関節の靭帯損傷の中でも、前十字靱帯損傷では、治療として、ほとんどの場合、再建術を選択します。

足関節や、膝の内側側副靭帯などではギプス固定を行って靭帯が修復するのを待つ保存療法が一般的によく用いられていますが、
前十字靱帯の損傷においては、保存療法が一般的な治療となりえないのには、それなりに理由があります。

このページでは、前十字靱帯が損傷された膝では、どういったことが起こっているのか、その症状について見ていただき、
診断についてもご説明したいと思います。

前十字靱帯損傷と内側側副靭帯損傷の違い

下の図は膝関節を支える靭帯を示しています。

内側側副靭帯は関節の内側を支える役割があるため、大腿骨と脛骨の橋渡しのような形状で膝の内側を走っています。

主に、断裂する部分は青丸印で示した大腿骨付着部です。

この靭帯は関節包と密着していて、付着部は血行も良いため、固定療法で修復が期待できます。

一方、前十字靱帯は関節内に存在する靭帯なので、一旦切れてしまうと、緩んだままの状態が続き、
たとえ固定療法をしたとしても、断裂した端は大腿骨と接触していないため、血行が途絶えてしまいます。

すると、前十字靱帯はどんどん収縮し、本来持っている機能を失うことになります。

したがって、放置していると、いろいろな支障が発生します。

前十字靱帯がないと、どんな支障が発生するのか?

1、半月板損傷

膝を支えていた前十字靱帯が損傷した状態で膝の曲げ伸ばしを繰り返し行うと、
下の図のように、膝関節がうまくかみ合わない状態となり、
半月板を傷つけてしまう結果となります。

上の図の状態をMRI画像で見たものが下の写真です。

2、変形性膝関節症

上の写真は前十字靱帯損傷を放置していた結果、変形性関節症になってしまった方のレントゲンです。

右の膝(青丸)は、年齢なりの膝の状態ですが、
左の膝(赤丸)は、右膝に比べて膝の間の隙間がなくなっていることがわかります。

これは前十字靱帯が無いことによって、膝の動揺性が続き、半月板や軟骨が摩耗し、
変形性膝関節症の進行が健側に比べて進んでしまった結果なのです。

前十字靱帯損傷を放置していると、上の写真のような障害を引き起こす原因になってしまいます。

再建すると、これだけ違いが出てきます!

下の図と写真で、実際の前十字靱帯がどのようになっているのかご説明したいと思います。

正常な前十字靱帯は大腿骨に向かってしっかりと緊張を保った状態で存在しています(右上の写真)。

しかし、一旦切れてしまうと、靭帯の断裂端はモップの先のようにささくれだって、緊張を失います(左下の写真)。
この状態になると、膝を支えることが難しくなります。

そこで、別の部位から靭帯の移植をする手術を行うと、元の健常な靭帯と同じような緊張が再びもどります(右下の写真)。
このように前十字靱帯の緊張が戻ると、きちんと膝を支えることができるようになります。

前十字靱帯損傷を発見するポイント

前十字靱帯が損傷されると、最初は腫れが出て、膝の中に血腫がたまります。

膝の腫れがひどい場合には、血腫を抜くことで、膝の中の圧が下がり、痛みを和らげます。

徒手検査法

前十字靱帯の断裂を確認する徒手検査法の代表的なものが以下の2つです。

下の図は、なぜこういった徒手検査法を行うのかということを、図示したものです。

健側では、脛骨を前方へ引き出す力をかけても、前十字靱帯が緊張を保っているので、

検査をしている手に弦が張ったような手ごたえを感じます。

ところが、患側では、前十字靱帯が断裂しているので、徒手で動かしたときに靭帯の緊張が感じられなくなり、

心もち脛骨が前方へ移動する感覚があります。

これらのことを実際に行っているのが下の2つの徒手検査です。

1、Luchmann(ラックマン)テスト

患側

健側

2、前方引き出しテスト

患側

健側

健側と患側を比較すると、患側の脛の骨が前方へより大きく出てくる事がわかります。

また、レントゲン画像で、前十字靱帯損傷が判明する場合もあります。

通常、靭帯はレントゲンでは写りませんが、以下のような場合は、前十字靱帯損傷を起こしていることがわかります。

前十字靱帯損傷を受傷したときに、同時に脛骨の一部の骨が剥離骨折を起こしている場合があります。

この骨折をSegond骨折といいます。

この骨折は、前十字靱帯が断裂して、通常の膝関節の動きではありえないような外力が加わり、
外側の関節包の一部が脛骨の端を引っ張った結果生じます。

したがって、この骨折が起こっている場合には、高頻度で前十字靱帯損傷が合併しています。

以下は、実際のSegond骨折のレントゲン写真です。

わかりにくいのですが、拡大写真のピンク色矢印の先に、剥離した骨片が写っています。

以上のような検査を行って、さらに確定診断を行うためにMRI撮影を行います。

MRI撮影は、前十字靱帯損傷の有無を確認するだけでなく、
他の靭帯や半月板など、膝関節の状態を確認するのにも有用です。

以下は、膝関節を側面から見たMRI写真です。

左の写真の正常な前十字靱帯(青丸印)は脛骨から大腿骨に向かって、緊張した状態で右斜め上に走行していることがわかります。

それに比べ、右上の前十字靱帯損傷を起こした写真(赤丸印の中)では、緊張がなくなり、前十字靱帯がたるんでいます。

右下のMRI画像では、前十字靱帯(赤丸印の中)がさらに緊張を失い、

横たわるようになって、靭帯自体も細くなっていることがわかります。

このほかにも、MRIで以下のようなことも確認できます。

上の写真の赤丸で囲った部分は膝関節の外側です。

前十字靱帯が損傷したと同時に、膝関節の膝崩れ現象が起こり、大腿骨の外側と脛骨の外側がぶつかり、
骨挫傷が生じていることがわかります。

さらに赤色矢印の部分では、軟骨下骨で骨髄内での変化が生じていることもわかります。

また、半月板も同時に損傷しているかどうか確認することもできます。

このように、前十字靱帯が損傷することで、膝関節の中の環境が大幅に様変わりし、
その結果、色々な支障が発生してきます。

ですので、受傷時に半月板損傷だけだと思っていても、膝が崩れる現象などが起こる場合には、
MRI撮影を行い、きちんと確定診断することをお勧めいたします。

きちんと確定診断をして前十字靱帯損傷の有無を確認することで、
適切な治療へと進むことができます。

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