2018年11月29日 / 最終更新日時 : 2019年10月22日 佐野古東整形外科 上肢の疾患 ボクサーズナックル (Boxer’s knuckl)こぶしを握ると、カクンとなって痛い! 手の疾患として多いのは、指先、もしくは手首の疾患でが、こぶしを握り締めた状態で、怪我をした場合、こぶしの頂点のところで、生じる怪我もあります。これは、パンチ動作でこぶしの山の部分で強い外力がかかった場合、関節の周囲で腱や関節包が傷つく場合があります。こういった疾患のことを「Boxer’s knuckle」と言います。この疾患は、指の伸筋腱脱臼と良く似ていますので、その違いなどについてこのページで述べていきたいと思います。 Boxer's knucklの外観 上の写真は、Boxer’s knucklの方の外観です。ペンの先で示している部分は、本来は伸筋腱が中手骨の上を通って行くのですが、赤点線で示したように、本来の位置から少しずれてしまっています。少しわかりづらいので、別の角度から見てみましょう。 同じ方の手を上から見た写真です。ペン先で示した部分が少し腫れていることがわかります。その原因は、指りこぶしを作ろうとした際に、伸筋腱が本来の位置から逸脱してしまっているからです。それを繰り返しているうちに、関節周囲が痛みを伴って炎症を起こして来るために腫れてしまったからです。別の患者さんのものですが、以下の動画は腱が本来の位置に収まらず、脱臼してしまっているものです。 その状態を示したものが、下の図になります。 握りこぶしを作った状態では、伸筋腱は中手骨頭の上で収まるのですが、右の図のように、中手骨頭の周囲の組織が傷ついてしまった場合、伸筋腱は本来の位置にとどまる事が出来ずにずれてしまいます。このような状態はどうして起こるのでしょうか?それについてご説明したいと思います。 Boxer's knucklの受傷機転 受傷機転は、ボクサーが相手のあご先をヒットした時、相手のあごの骨と、自分の中手骨頭の間にある伸筋腱と関節包に衝撃が加わるため、Boxer’s knacklを発生すると言われています。 Boxer's knucklの病態 下の図は、指を横から見たものですが、水色の点線の部分で輪切りにしたものが、下の四角で囲んだ図になります。 指のMP関節部は、中手骨の周りに関節包が存在し、さらにその上には、sagittal bandという軟部組織があります。sagittal bandには浅層と深層があり、それぞれが緊張を保つことで伸筋腱が正しい位置にくるようになっています。Boxer’s knucklは、これらの伸展機構が破たんすることで起こる疾患です。病態としては、sagittal bandが断裂した状態であり、関節包まで至った損傷であると考えられています。 伸筋腱脱臼とBoxer's knucklの違い 伸筋腱脱臼の場合 上の図は、伸筋腱が脱臼した状態を示しています。握りこぶしを作った状態では、sagittal bandが緊張しますが、一部が損傷すると、緊張を失い、図のように伸筋腱は脱臼した状態になります。 Boxer’s knucklの場合 一方、Boxer’s knucklは関節包まで損傷しているので、伸筋腱は完全に脱臼してしまい、周囲の組織も完全に緊張が失われてしまいます。ですので、Boxer’s knucklは、多くの場合は治療として、関節包の修復も含めた手術が必要となります。では、以下で実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。 17歳、高校3年生の男性です。剣道部に所属していて、2週間前に練習で竹刀が右小指の付け根に強くぶつかってから、痛みと弾発現象が出現したそうです。弾発現象の消失がないため、手術を行う事になりました。 左の写真は手術前の所見です。赤矢印で示した部分は逸脱した伸筋腱です。白く見える丸い部分は中手骨頭です。 左の写真は、断裂した関節包を縫合し終えたものです。術後に伸筋腱が脱臼していないことを確認できました。 術後は、患部の腫れと、痛みが落ち着く2~3週間後までは、左の写真のような装具で固定して患部を保護します。固定除去後は、握りこぶしを作るための指の動きを獲得するために、リハビリを行います。 Boxer’s knucklは、MP関節部で痛む場合、このような疾患があると頭に入れていれば、見逃すことはあまりありません。上の症例で示したような縫い合わせるだけで修復が可能な場合もあれば、受傷から時間がたっていると、手術しても修復が難しいケースも出てきます。単にこぶしの先を打撲したと判断しないで、指の曲げ伸ばしの際に違和感があった場合には、早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。 関連する参考資料 Facebooktwitter