手首が痛くて回せない!(遠位橈尺関節掌側脱臼)

手首の外傷の中で、手のつき方で手関節の骨が脱臼することがあります。
多くは、尺骨(手首の外側の骨)が手の甲側に脱臼するのですが、稀に手のひら側に脱臼する事もあります。
この疾患は、受傷直後から手のひらを返す動作ができなくなりますが、
骨折とは違い元の位置に戻す整復動作を行うことによって元通りに動かせるようになる疾患です。
このページでは「遠位橈尺関節掌側脱臼」についてどういう疾患であるか、
またどういう経過で治っていったのかご説明していきたいと思います。
遠位橈尺関節掌側脱臼とは
遠位橈尺関節掌側脱臼とは、下の写真のように受傷直後から手関節が変形し、手をこの状態で動かせなくなります。

上のレントゲン写真では、右手の尺骨(赤矢印で示した部分)が手のひら側にずれて脱臼しています。
実際に外観からは、尺骨が手首の下に突出して手関節が腫れて変形しているように見えます。
手関節の骨折と脱臼の外観
手関節で生じる骨折の中で、比較的頻度の多い橈骨遠位端骨折の外観と、遠位橈尺関節掌側脱臼の外観を比べてみます。
橈骨遠位端骨折の場合

手関節の手前でくの字に変形して、
腫脹がみられます。
遠位橈尺関節掌側脱臼の場合

手関節の部分で尺骨が脱臼しているため、あたかも腫れているかのようにみえます。
手関節の仕組みはこうなっています
下の図は、手関節を背側から見た図です。

橈骨と尺骨の間で構成されるのが「遠位橈尺関節」で、それにまたがって付着しているものが三角線維軟骨(TFCC)です。
これらの組織は、手のひらを上に返したり、下に向けたりする動作(以下、前腕の回外・回内)が
スムーズに行えるように役立っています。
一旦、遠位橈尺関節が脱臼してしまうと、前腕の回内外動作ができなくなります。
下の図は、上の図で示した赤の点線の位置で輪切りにしている図で、
遠位橈尺関節の脱臼方向を示しています。

橈骨の関節面に対して尺骨が①、④のように完全に逸脱しているものを「完全脱臼」と称し、
②、③のように部分的に逸脱しているものを「亜脱臼」と称します。
今回、④の掌側脱臼についてご紹介していきたいと思います。
遠位橈尺関節掌側脱臼はどうして起こるのか?
下の図は、橈骨と尺骨の正常の位置関係を示しています。

上の図のように、遠位橈尺関節は、尺骨が橈骨の関節面に対して回転運動(赤矢印)したり、
スライド運動(黄色矢印)したりします。
同時に、遠位橈尺関節の動きを円滑にする役割を持つ組織には、掌側尺骨手根靭帯があります。

上の図は、掌側尺骨手根靭帯を示した図です。
図の通り、3方向に跨り強靭な組織であり、遠位橈尺関節を支持しています。
ですので、遠位橈尺関節が脱臼するということはこの掌側尺骨手根靭帯が断裂していることを意味します。
さらに遠位橈尺関節掌側脱臼では、以下の合併症が見られます。

尺骨が掌側に完全脱臼した際にTFCCは損傷されずに、尺骨茎状突起部で骨折が生じます。

尺骨が掌側に完全脱臼した際にTFCCの一部が損傷します。
治療はどうするか?
まず徒手整復動作を行います。
①

肘関節90°屈曲位で手を下方に牽引します。
②

牽引の力は緩めずに手関節を尺屈します。
③

尺屈をさせながら前腕を回内操作を加えていきます。
④

最後に尺骨頭を背側へ圧迫して整復します。
遠位橈尺関節脱臼の治療は、即座に徒手整復を行い整復位を保つことができればギプス固定を6週間行います。
固定肢位は、肘関節90°屈曲位、前腕回内位もしくは中間位で行います。
しかし、受傷後3週間以上経ってしまうと徒手整復が困難となってしまうため手術療法が選択されます。
以下で、実際の症例をご覧頂きたいと思います。

27歳の女性です。
右手関節の痛みを訴えて来院されました。
受診日の前日に友人と口論になり、
右手関節を回外強制されて受傷されました。
左の外観写真は、初診時のものです。
左手関節に比べて赤色矢印で示した右手関節が
腫れているように見えます。
また、右手関節は回内動作が痛みのために
全くできない状態でした。

左のレントゲン画像は初診時のものです。
赤色矢印で示している部分は、
外観で腫れているように見えていた箇所と同じ部位です。
レントゲン画像を撮ることによって尺骨が
掌側に脱臼していることがわかりました。

左のレントゲン画像は別の角度から撮影したものです。
赤丸印で示した尺骨茎状突起部に骨折が認められました。
今回は、尺骨茎状突起骨折を合併した
遠位橈尺関節掌側脱臼であったことがわかりました。
直後に、尺骨頭を背側に押し込むように徒手整復を行いました。

左の写真は、整復後の外観です。
赤色矢印で示した尺骨頭は、
もとの位置に整復され手関節の形状が
もとに戻っているのがわかります。

左のレントゲン画像は整復後のものです。
赤色矢印で示した尺骨頭は整復されています。
健側と比較して、左右差がなくなっていることがわかります。
整復後、肘関節90°屈曲位、前腕中間位でギプス固定を
6週間行いました。

左のレントゲン画像は、受傷6週間後のものです。
ギプス除去後は再脱臼することなく前腕の回内外ができました。
しかし、可動域制限があったため可動域訓練を行いました。

左の外観は、可動域訓練後の写真です。
手関節掌背屈、および前腕回内外の可動域が回復し、
日常生活で支障はありませんでした。
その後は、お仕事にも支障なく復帰されました。
以上のように、遠位橈尺関節掌側脱臼は早期発見、早期治療ができれば保存療法が可能です。
転倒時に手をつくことで発生する怪我には様々な疾患がありますが、
急に手関節が動かせなくなる事態が起こった場合は、お近くの整形外科の受診をお勧めします。