鎖骨骨折の治療 〜高齢者編〜
鎖骨骨折は高齢者の方でもよく見られます。
高齢の方が、転倒して肩をぶつけた場合、鎖骨骨折になる事があります。
若い方々と違うのは、骨質が弱くなっているので、骨折した部分は小さな骨片を伴う場合が多く、
骨片間がはっきりと開いている骨折型が見られます。
基本的な治療の方針としては、手術は行いません。
理由としては、高齢の方の手術による負担を避けた方がいいと思っているからです。
また、手術となれば、入院などで体力的低下なども懸念されますので、なるべく手術は行わない方がいいと思っているからです。
その根拠となる考え方は、下の図の黄色に塗ってある部分で説明してある通りです。

この図は、10代の方の鎖骨骨折をイメージしたものです。
この年代では、若年である程、骨膜が非常に厚く、鎖骨が折れたとしても、周囲の骨膜が守るため、折れるというよりも、柔軟性があるため、若木が曲がるような形で骨折します。
この場合、治療法は、クラビクルバンドのみで固定するだけでも、厚い骨膜によって守られているので、それによって骨折部分が安定し、十分骨癒合が期待できます。

この図は、10代後半から20代前半の年代の方をイメージした図です。
この年代では、コンタクトスポーツなどによる受傷が多く見られるので、外力が大きく、変形の度合いも大きくなります。
しかし、骨膜は比較的厚いので、見た目は変形が著しくても、骨膜の連続性のおかげで、骨が完全に離れていない場合が多くみられます。
この場合、治療法は、変形がそれ以上大きくならないように、整復後ギプス固定を行いますが、早い段階でクラビクルバンドへ移行します。
そうすることで、十分に骨癒合が期待できます。

この図は、20代後半から40代ぐらいの方の鎖骨骨折をイメージしたものです。
交通事故や、仕事上での事故によって外力が大きくなっているので、単純な折れ方ではない場合が多くみられます。
できるだけこの図のように、元の形に近い状態に整復を試みますが、完全に元の形にもどることはなかなか難しくなります。
この場合、治療法は、整復後の骨折部ができるだけ寄るようにしたいので、仕事上不便さはあるかもしれませんが、ギプス固定を行います。
骨癒合に時間はかかりますが、癒合の可能性は高く、たとえ変形していても、機能的な障害は残りません。

この図は、60代以上の方の鎖骨骨折をイメージしたものです。
転倒によるぐらいの衝撃で、折れてしまうことが多くみられます。
骨そのものの強度が低くなっているうえ、骨膜も薄いので、骨折した部分で骨片間の開きも大きくなることが多くみられます。
骨癒合を目指すうえで、骨膜の連続性もたたれていることも考えられるので、できるだけ骨を寄せて固定を行います。
しかしながら、固定する苦痛が大きいので、状況に応じた固定を行います。
骨癒合には相当時間がかかりますが、機能的な障害は残りません。
高齢者の方に対する鎖骨骨折の固定療法の実際
高齢の方にとって、固定をするということは日常生活でかなり不自由なことになります。
また、あまり固定期間が長いと、他の関節まで拘縮してしまう恐れがあります。
当院では、主に以下のような治療方法を行っております。

上の写真のようなギプスを用いた固定は痛みのある最初の1週間から10日程度です。
その後は、骨折部も安定して痛みも和らいでくるので、クラビクルバンド(下の写真)と三角巾を用いた固定に変えます。

高齢者の方にとって、固定バンドの付け外しは、難しいこともあると思いますので、
当院スタッフが、バンドの付け外しや調整などをサポートさせていただきます。
〜症例1〜

68歳の女性です。左肩の痛みを訴えて来院されました。
2日前の朝、バイクで段差に乗り上げ、転倒し、左肩を地面にぶつけ受傷されたそうです。
近隣の整骨院へ行き、骨折を疑い、当院へ紹介となりました。
左のレントゲンは初診時のものです。
赤色矢印で示す鎖骨の中央部分で骨折が確認できました。

治療としては、痛みが強かったので、ギプス固定を選択しました。
骨折部の断端を少しでも近づけるため、胸を張った状態で徒手整復を行い、そのままの姿勢でギプスの固定を行いました。
こちらのレントゲンはギプス固定を行ってから撮ったものです。
断端部が近づいていることがわかります。

こちらの写真は、ギプス固定後の外観写真です。
ギプス固定で胸を張り、骨折側の上肢は三角巾で提肘を行いました。

こちらのレントゲンは、1週間後のものです。
痛みが引いていたので、ギプスから、クラビクルバンドに変更しました。
クラビクルバンドに変えても、骨折部分の安定性は保たれていました。

受傷後2ヵ月のレントゲン写真です。
患部を押さえても痛みは無く、腕を動かしても骨折部での違和感はありませんでした。

受傷後4カ月のレントゲン画像です。
赤色矢印で示した部分に、うっすらと仮骨が確認され、骨癒合していると判断しました。

こちらの写真は受傷後4カ月の外観写真です。
肩関節の可動域の制限はほとんどなく、肩も挙上できるため、日常生活でも受傷前と変わらず、快適に過ごしておられます。

〜症例2〜

70歳女性、自宅で転倒して、受傷されました。
受傷直後、来院時はこちらの写真のように、骨折部分が完全に離れてしまっています。
ケガの状態としては、手術か保存か微妙なところでした。
患者さん御自身も手術には抵抗がおありのようでしたので、固定療法でクラビクルバンドを使って治療することになりました。

上の写真と同じ、初診時のレントゲンです。
角度を変えて撮っています。
このように角度を変え、多方向から見ることで、骨折状態がより具体的にわかります。
若い人の骨折とは違って、高齢者は骨がもろくなっていますので、ちょっとした事で骨が折れてしまいます。
ですので、角度を変えてレントゲンを撮ることで、小さな骨片に分かれて骨折していないか確認します。

受傷後3ヶ月の時点でのレントゲンです。
今までの若い患者さんのレントゲン写真と比べていただくとよく分かると思いますが、仮骨(橋渡しになる骨)が形成されていません。
やはり、高齢者は骨の形成に時間がかかるということが分かります。
しかし、根気良く治療を続け、経過観察をしました。

受傷後9ヶ月のレントゲン写真です。
骨折部分の骨と骨の隙間がなくなっていることがわかります。
つまり、ちゃんと新しい骨が形成されて、骨折部分がくっついたことがわかります。

上の写真と同じ時点で、腕を上げて撮ったレントゲンです。
腕を上げても、鎖骨が腕の動きについてきていることが分かります。
つまり、ちゃんと骨がくっついたということがわかります。
この例から、高齢者でも、時間はかかりますが、手術しなくても骨癒合が可能であるということがわかります。

3年後のレントゲン写真です。
完全に骨癒合ができています。
まったく日常生活にも問題なく、過ごしておられます。

〜症例3〜

83歳の女性です。右肩の痛みを訴えて来院されました。
自宅の花壇を手入れしていて、転倒されたそうです。
左のレントゲンは初診時のものです。
赤色矢印で示す鎖骨中央部で部分で骨折が確認できました。
治療は、ご高齢でお一人暮らしという事だったので、ギプス固定ではなく、初めからクラビクルバンドと三角巾の固定を選択しました。

こちらのレントゲンは2ヶ月後のものです。
痛みは多少ありましたが、クラビクルバンドでも生活上不便を訴えておられたので、この時点でクラビクルバンドを除去しました。
レントゲンではまだ骨癒合は認められません。

こちらのレントゲンは4ヶ月後のものです。
まだ患部は骨癒合に至っていませんでしたが、日常生活で腕を上げたり重たいものを持ったりすることは避けていただいて、経過を観察することにしました。

受傷後9カ月のレントゲンです。
赤色矢印で示した部分にうっすらと仮骨が確認できました。
この時点で、骨折部は完全に埋まってはいないものの、時間がかかりましたが、癒合したと判断しました。

こちらの写真は受傷後9か月の外観写真です。
肩の挙上も、日常生活を送る上では、不便なく行えるという事で、患者さんも満足しておられました。

こちらの写真は受傷後約1年のレントゲンです。
仮骨形成が明瞭に見られ、骨折部断端は連続性ができています。
日常生活上も、まったく問題なく過ごしておられます。
高齢の方の鎖骨骨折の治療は固定をするとしても、なるべく日常生活に支障をきたさないように配慮する必要があります。
また、骨粗鬆症などもあり、骨癒合をするには時間がかかるということも踏まえて、
固定期間をいつまでにするのか、迷う事もあります。
しかし、今回ご紹介した方々のように、長期間のフォローアップをすることで、
最終的には骨癒合が得られています。
したがって、時間はかかりますが、鎖骨骨折は手術をしなくても固定療法で治りますので、
治療方針でお困りの場合には、当院へご相談ください。