2018年11月27日 / 最終更新日時 : 2019年10月22日 佐野古東整形外科 上肢の疾患 短母指外転筋付着部炎及び母指内転筋付着部炎(鋏を使うと親指の付け根が痛い! ) 手の使い過ぎによる指の痛みは、つい「腱鞘炎」と思いこんでしまうかもしれません。しかし、今回ご紹介する「短母指外転筋・母指内転筋付着部炎」は手の使い過ぎによって、筋肉の付け根が痛くなる病気です。特に、理容・美容師さんや、現場仕事の方に多く見られます。このページでは、腱鞘炎による痛みとの違いなど、実際に症例をご覧いただき、詳しくご説明していきたいと思います。 短母指外転筋・母指内転筋とは? 短母指外転筋と短母指内転筋は手の中にある筋肉です。下の図は、短母指外転筋と母指内転筋がどこにあるかを示したものです。 短母指外転筋は、第1中手骨頭橈側種子骨を介して母指の基節骨底に筋肉がついており、母指を屈曲させたり、掌側外転(鋏を使用するときに指を使う動きです)をする作用があります。短母指内転筋は第1中手骨頭尺側種子骨を介して母指基節骨底に筋肉がついており、親指を内転する(親指と人差し指の間で物を挟む動きや物をつかむ動作)をする作用があります。どちらの筋肉も、物をつまんだり、手を使うときによくつかわれる筋肉です。 短母指外転筋・母指内転筋付着部炎の症状 以下の図で示すように、短母指外転筋と母指内転筋はそれぞれ痛みを訴える場所が少し違います。 短母指外転筋付着部炎では、赤×印で示した部分に痛みを訴え、圧痛もこの場所にみられます。母指内転筋付着部炎では青×印で示した部分に痛みを訴え、圧痛が認められます。一般の方は、これらの場所が痛くなったりすることはあまりありませんが、手をよく使う職業の方に多く見られます。具体例として、鋏をよく使用する理容師さんや美容師さんによくみられる傾向があります。また、現場仕事などの作業でドリルなど使用する方にもよく見られます。 腱鞘炎との違いは? 手の使い過ぎによって痛くなることから、腱鞘炎と思い、病院を受診される方がいらっしゃいます。確かに痛みの部位は似ているのですが、以下の図で示すようにすこし違いがあります。 短母指外転筋は親指の付け根の一番外側に痛みを訴えます。母指内転筋は親指の付け根の内側である水かきのあたりに痛みを訴えます。腱鞘炎では、親指の付け根のやや真ん中あたりに痛みを訴えます。また、腱鞘炎(バネ指)の場合は、腱鞘が肥厚しているため、触診で×印の部分が腫れていることが確認できたり、腫瘤のようなものに触れることができます。また、短母指外転筋・母指内転筋付着部炎では、腱鞘炎(バネ指)でみられる母指の屈伸による引っかかりやばね現象などは見られません。治療は親指を使いにくくするための固定を以下の写真のように行い、少しでも親指を安静にすることが大切です。 以下で実際の症例をご覧いただきたいと思います。 短母指外転筋付着部炎 42歳の男性です。右母指MP関節の痛みを訴えて来院されました。2年前より、痛みがあり、近隣の病院で注射をしてもらったそうですが、良くならなかったそうです。左の写真は初診時の外観です。赤色×印の部分に痛みがり、押さえても痛いとのことです。この方はお仕事は理容師さんで、鋏をよく使うという事でした。 左の写真は、初診時のレントゲン画像です。赤色矢印で示した部分に痛みを訴えていますが、骨には異常がないことがわかります。 左の動画は、実際にお仕事で鋏を使うときの動作です。この動きを繰り返していると痛みが出現してくるそうです。初診時に痛みを押さえるため、局所注射を行った結果、痛みが消失したため、短母指外転筋付着部炎であることがわかりました。 44歳の女性です。左母指のMP関節の痛みを訴えて来院されました。エステの仕事をされており、4か月前より、左母指の屈伸動作で痛みがあるとのことでした。 左の写真の赤色矢印で示した部分が痛みを訴えている所です。 左のレントゲン画像は初診時のものです。赤色矢印で示した部分が痛みの部位ですが、骨などには異常は見られません。 左の写真は、お仕事のエステの施術中に、痛くなる動作を再現していただいたものです。 このようにマッサージ中に親指に力を入れるときに痛みが出るそうです。痛みの原因がわかったので、親指を休めるための生活指導を行いました。 母指内転筋付着部炎 49歳の男性です。両母指の痛みを訴えて来院されました。特に痛いのは、右母指MP関節の内側だそうです。2年前より母指の屈伸で痛みがあり、1年前に近隣の病院で注射を行ったが、よくならなかったそうです。左の写真は初診時の外観です。赤色矢印で示した部分が痛いところです。 左のレントゲン画像で、赤色矢印で示した部分が痛みのあるところです。しかし、骨には異常は見当たりません。現在お仕事は、電車の配線作業で、ドリルをよく使うそうです。ドリルを持つときに力を入れると、赤色矢印で示した部分が痛くなるそうです。 治療は、左の写真のように親指を安静保持するための装具を処方し、母指の内転ができないように固定を行いました。 短母指外転筋・母指内転筋付着部炎は、頻度自体は多くありませんが、理容師さんや、美容師さんにはよくみられる一種の職業病のようなものです。腱鞘炎(バネ指)とちがって、手術などは必要なく、安静保持することで痛みは軽減します。もし、腱鞘炎と思い、注射を行い数カ月たっても痛みが続く場合には、この疾患の可能性も考えられます。 関連する参考資料 Facebooktwitter