変形性股関節症

変形性関節症と呼ばれる疾患のほとんどは膝関節で起こることが多いのですが、
股関節でも、変形性関節症がおこります。

体重を支える大切な関節なので、痛みが生じ始めると、歩くのにも影響が出て、非常につらくなります。

そこで、このぺージでは、変形性股関節症がどんな疾患なのかということをお話して、
治療として、どのようなことをしていけばいいのかという事について見ていただきたいと思います。

股関節の構造

股関節は下の図のような構造で成り立っています。

股関節は骨盤にある寛骨臼といいう受け皿と、大腿骨頭という球状の組み合わせによって構成される関節です。

その周囲は、関節包と呼ばれる組織で覆われていて、袋の中は滑液で満たされています。

股関節の特徴としては、球状の骨頭が自由に動かせるので、広い可動域を持っています。

また、両足で立っている際は、股関節にかかる負荷は体重の約30~40%がかかっており、
片足立ちをした場合には、軸足の股関節にかかる負荷は体重の3~4倍になるといわれています。

変形性股関節症の病期分類

変形性股関節症は以下の4つの病期に分けて考えられています。

この4つの病期に分けることで、診断や治療方針を決める目安になっています。

①前股関節症

関節軟骨のすり減りは見られず、寛骨臼と大腿骨頭の隙間も正常に保たれている状態。

②初期股関節症

関節軟骨が少し減って、レントゲン画像上では、関節の隙間が一部狭くなった状態。
体重がかかっている部分が、硬くなる現象(骨硬化像)が見られる。  

③進行期股関節症

関節軟骨がすり減り、さらに、寛骨臼と大腿骨頭の隙間がさらに狭くなった状態。
関節の異常を体が補修しようとして、骨棘ができ、骨の一部が空洞になる骨嚢胞ができる。 

④末期股関節症

関節軟骨がほとんど消失し、関節の隙間も無くなった状態。
骨どうしが直接ぶつかり合っているので、骨棘や骨嚢胞も著明に見られ、大腿骨頭の変形も大きくみられる。

上記の病期分類で、個人差はありますが、痛みが強く感じられるのは、進行期股関節症です。

末期の状態では、変形が進行して、関節が動かなくなるので、骨が安定して痛みが感じにくくなることがあります。

ですので、痛みが強くて、困る進行期で手術療法を考える場合があります。

また、そうなる前、すなわち前股関節症や、初期の段階であるならば、運動療法が効果的です。

変形性股関節症の原因による分類

変形性股関節症は原因によって一次性と二次性に分けられます。

一次性

股関節の経常には特に異常が見られず、加齢や体重の過剰な負荷によって起こるとされていますが、
発症には、明らかな原因を特定できない場合もあります。

二次性
臼蓋形成不全

寛骨臼の形に異常があることが原因です。寛骨臼が浅いので、骨頭を覆う面積が少なくなっています。
赤色点線の部分)

外傷後によるもの

交通事故や、スポーツにより、股関節脱臼を生じた後に、長い期間を経て、変形関節症に移行した場合です。
寛骨臼の形には異常がありません。 

FAIによるもの

股関節の前方インピンジメント症候群(FAI)により、赤丸印で示した寛骨臼に変形が生じる場合。

以上のように、変形性股関節症の発生要因には、色々な場合があります。

結果として、関節の隙間が狭まって、関節の形状が変わってしまう事で発症します。

変形性股関節症にみられる症状

変形性股関節症の症状は、前股関節症や初期の段階では動作を開始するときの痛みや、階段昇降時の痛みなどが見られます。

股関節症の病期が進行していくにつれ、股関節の変形の度合いが強くなるので、
外観上の変化が見られるようになってきます。

上の写真は、変形性股関節症によって下肢長差が生じた患者さんのものです。

向かって右側の下肢が短縮していることがわかります。

上の写真は、診察の場面で、変形性股関節症特有の理学所見が見られた方のものです。

健側の足で片足起立した場合は、骨盤の高さが左右並行ですが、
患側の足で片足起立した場合は、臀部の筋力が低下しているため、骨盤を支えることができず、
健側の方へ骨盤が傾いてしまう現象が見られます。

これを「トレンデレンブルグサイン」と言います。

このように、変形性股関節症の病期が進行していくと、明らかな所見で診断がつく場合があります。

変形性股関節症によって引き起こされる痛み

変形性股関節症によって、他の部位と関連する病気や痛みが出る場合があります。

上のレントゲン写真は、変形性股関節症の患者さんのものです。

股関節の可動性が悪くなってしまうと、それに隣接する腰椎へ影響が出ます。

左のレントゲン写真にあるように、股関節の可動性を補うように腰椎の前彎が強くなって、腰痛が生じます。

また、右のレントゲン写真にあるように、股関節症によって脚長差が生じて、左右の骨盤の高さが変わってしまいます。

その結果、その傾きを補正するために、腰椎の彎曲が生じ、腰痛や神経痛などを生じる恐れがあります。

これらの症状のことは「ヒップ・スパイン シンドローム」と呼ばれています。

このように股関節と腰椎は密接な関係にあります。

変形性股関節症に対する運動療法

変形性股関節症に対する運動療法として、股関節周囲筋群のトレーニングを行う事で、

痛みをとり、筋力低下を予防することが大切です。

以下で示した股関節周囲筋群のトレーニングや、股関節の可動行域を広げるための運動も合わせて行うと効果的です。

ジグリング体操による運動療法

ジグリングとは、聞こえは悪いのですが、いわゆる「貧乏ゆすり」のことです。

聞こえが悪いために「ジグリング」という名称になっています。

このジグリング体操を行う事で、関節軟骨に刺激を与え、硝子様軟骨の再生が期待できるといわれています。

関節軟骨には、血管・神経・リンパ管は存在せず、栄養源は滑膜よりしみだす滑液であり、
その栄養の取り込みは運動により促進されます。

ですので、動かして関節軟骨に刺激を与えるのが有効だということで、この体操を行います。

ジグリングによる運動療法の動画を以下でご覧下さい。

ジグリングをするときは、踵を床から約2cm程度上げます。
そして、上下に大きく動かしたり、小刻みに動かしたり、できるだけ股関節をたくさん動かします。
膝の角度は約90度が目安になっています。 

こちらの動画を参考にして、できるだけ多くの運動をしてください。

以下で実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。

〜症例1〜

60歳の女性です。

右の股関節の痛みを訴えて来院されました。

6年前より、股関節の痛みを訴え始め、痛みがどんどん強くなってきたそうです。

1年前より、痛みが強く、脚を引きずるように歩いていたそうです。

こちらのレントゲンは、初診時のものです。

赤色丸印で示した右股関節は関節裂隙が消失しており、骨同士が直接ぶつかり大腿骨頭の変形が認められます。

変形性股関節症の病期分類では末期に当たると考えられました。 

こちらのレントゲンは、6年前に初めて股関節が痛いという事で、撮影した時のものです。

このときは、股関節の隙間が一部狭くなっているものの、関節裂隙を確認することができます。

この時点では、痛みもそんなに強くなかったため、趣味でされているスキーを続けてされていたそうです。

しかし、スキーを続けていくことによって、徐々に痛みが強くなり、現在では痛みが非常に強く、スキーができなくなったそうです。

こちらのレントゲンは、痛み始めてから現在までの股関節の経時的変化を表したものです。

リハビリとして、股関節周囲筋の筋力トレーニングなど継続して行っていましたが、年々痛みが強くなり、レントゲンでも股関節の隙間が狭くなっていることがわかります。

1年前より、大腿骨の骨頭の形も変形し始めていることがわかります。

レントゲン画像の経時的変化と、痛みの増幅が比例していることがわかります。

〜症例2〜

52歳の女性です。
左の股関節の痛みを訴えて来院されました。

今朝、起床時に左股関節に強い痛みを覚えたそうです。

その後、痛みのため歩行が困難だったそうです。

こちらのレントゲンは、初診時のものです。

変形性股関節の病期分類と照らし合わせると、末期の股関節症であるという事がわかります。 

こちらのレントゲンは、方向を変えて撮ったものです。

赤丸印の部分に骨棘が見られ、青色矢印示す関節裂隙も消失しています。

この方はお仕事の都合で、手術を行う事は出来ないため、運動療法などを行い、保存療法で経過を見ていくこととなりました。

現在も、多少痛みはありますが、手術をしなくても、お仕事も引き続きできており、強く不便さを感じない程度に生活しておられます。

〜症例3〜

63歳の女性です。

右股関節の痛みを訴えて来院されました。

4日前より、右股関節が痛く、受診当日の朝、痛みが強く、歩行が困難になったそうです。

こちらのレントゲンは初診時のものです。

レントゲンを見る限りでは、異常が見られないように思われます。

角度を変えて、撮影したレントゲンでも、右股関節の関節裂隙は保たれていることがわかります。

痛みの原因を調べるため、MRI検査を行いました。

こちらの写真は股関節を正面から見たMRIの画像です。

赤色矢印で示した部分に水腫と思われる変化が見られます。

こちらの写真は骨盤を輪切りにするような方向から見た股関節のMRI画像です。

赤色矢印で示した部分に水腫と思われる輝度変化が見られました。

レントゲンでは、関節の変形などはわかりませんでしたが、MRI撮影を行う事で、初期の股関節症であるという事がわかりました。 

〜症例4〜

86歳の女性です。 

右股関節の痛みを訴えて来院されました。

こちらのレントゲンは約5年前のレントゲン画像です。

このときは、歩行痛があり、レントゲンで、関節裂隙の狭小化が認められたため、初期の変形性股関節症と考え、リハビリなどの運動療法で、様子を見ていました。

こちらのレントゲンは約2年前のものです。

右の股関節の痛みがなかなか引かないという事で、再度レントゲン撮影を行いました。

骨頭の扁平化や、関節裂隙の狭小化が見られ、進行期の股関節症へと進行していることがわかりました。

こちらの写真は約1年前のレントゲンです。

股関節の痛みがこの時点でも続いており、歩行痛も残っていました。

レントゲン撮影を行ったところ、骨頭は壊死に陥り、破壊されていることがわかりました。

この時点で、以前のレントゲンと比較検討したところ、急速破壊型股関節症であるものと考えられました。

しかし、痛みはあるものの、押し車を使って、歩行をしておられ、散歩も継続してしておられます。 

変形性股関節症は、手術を行うかどうかは、患者さん自身の痛みによります。

痛みが強くて、睡眠障害があったり、痛みのために活動性が低下している方などには手術が適応されるかもしれませんが、
レントゲンで、病期が進行していたとしても、

手術をせずに運動療法を継続することで、日常生活を送ることができる方もいらっしゃいます。

手術ができない方や、手術したくない方、運動療法について疑問点がある方などがいらっしゃいましたら、
お気軽に当院までご相談ください。