あれっ?うちの子の首が急に動かなくなった!(環軸関節回旋位固定)

お子さんが急に首が回らなくなって、顔が斜めに向いてしまうような状態になったことはありませんか?
朝起きて寝違いかなと思っていたら首が動かせない、
急に振り向いたら首が固まって動かせないなどの症状が出てくることがあります。
急にお子さんの首が傾いたままになるので、
親御さんもひどく心配されて御来院になることが多いのですが、
多くの場合は、このページでご紹介する「環軸関節回旋位固定」です。
以下で、この疾患についてご説明したいと思います。

この図は胸から上の骨の構造をあらわしたものです。
首の骨は7つの骨でできています。
その中で一番上部にあるのが「環椎(かんつい)」です。
その下にあるのが「軸椎(じくつい)」です。
これらで構成されるのが「環軸関節(かんじくかんせつ)」です。

環軸関節の位置は、正面から見るとちょうど口のあたりにあります。
環椎の上には頭の骨がのっています。
この関節が支えとなって頭の動きを司っています。

環軸関節を上部から見て輪切りにしたCTの画像です。
本来は軸椎と環椎は回旋して、
顔の左右の回転運動を行う部分になります。
しかし、この図では環軸関節が亜脱臼をしており、ロックがかかっている状態になっています。
このロックがかかった状態のことを「環軸関節回旋位固定」といいます。

どうして、そんなことがおこるのかといいますと、
本来、正面を向いたときの環軸椎の構造はこの図のようになっています。
運動の軸となる歯突起は環椎と連絡のある靭帯によって取り囲まれています。
ところが、子供さんの場合、この歯突起の形状が未成熟であり、さらに周囲の組織が柔らかいので亜脱臼しやすい状態にあります。
ですので、一旦ロックした状態になると、靭帯が緊張し、歯突起が動かなくなってしまいます。
このような状態になるのは、強い衝撃によってなるということではなく、ほんの些細なことで起こるのです。
逆にいえば、無理やりロックを外すような強い刺激を与えずとも、時間をかけて、靭帯の緊張が取れてくれば、自然と回復します。

この図は亜脱臼の状態を示しています。
4タイプあって、ずれ方がそれぞれ違っています。
一般的に多いのはTypeⅠもしくはⅡの軽症例です。

整形外科を受診された場合、レントゲンを撮るのですが、環軸関節はちょうど口の後ろにあるので、口を開けた状態で撮影します。
そうすることで 、環軸関節の位置関係を確認することができます。
レントゲンで何を見るのかというと、左右2つの赤色矢印の部分の幅を確認します。
本来は左右均等にあるはずの歯突起と環椎の幅が左右どちらかに偏っている状態を確認します。
偏った関節の上にのっている頭は必然的に傾くことになります。
では、以下で実際の症例を御覧いただきたいと思います。
〜症例1〜

9歳の男の子です。
当日、午前中の体育でバスケットボールをしていて、急に痛みを伴って、首が動かなくなってしまったということで、来院されました。

レントゲンを撮ってみると、軸椎と環椎の左右の距離に差がありました。
治療としては、簡単なリハビリ機器を用いて、頚椎のけん引を10分程度行いました。
また、首を支えるため、頚椎カラーを処方しました。
頚椎カラーをしていれば、日常生活の制限は行いませんでした。

初診から10日後の写真です。
痛みもなく、首もまっすぐに治りました。
〜症例2〜

4歳の女の子です。
朝、起きたら、突然首が傾いた状態となり、首を動かすことができないので来院されました。
発熱などの炎症症状がないことを確認して、特に処置はせず、経過を見ることとしました。

1週間後の写真です。
ちゃんと首が動くようになり、少し首は傾いていますが、問題なく過ごせるようになりました。
〜症例3〜

次は11歳の男の子です。
急に首が曲がらなくなったということで来院されました。
発熱などの炎症症状もありませんでした。

レントゲンを撮ってみると、若干の環軸椎のずれが見られました。
首のけん引をして、様子を見ました。
数日後には、元通りに回復しました。
〜症例4〜

9歳の男の子です。
急に首の痛みと運動制限がでたということで来院されました。

レントゲンを撮ってみると、環軸椎の左右の距離が違うことがわかります。

横からのレントゲンを撮ってみると、少し前後にもずれていることがわかりました。
頚椎のけん引を行い、様子を見ることで、5日後には無事に回復しました。
〜症例5〜

7歳の女の子です。
急に首が動かなくなり、他院に行かれたそうですが、首のマニュピレーション(手技)を受けられても治らなかったということで、当院へ来院されるまでに時間がかかった症例です。
なかなか回復が見られなかったということで、念のためCTを撮ることにしました。
すると、この写真のように、はっきりと回旋固定が確認されました。

近くの提携病院へ入院していただき、持続的に首のけん引治療をおこなったところ、数日で左のCT写真のように回復しました。

2ヶ月後に再び来院していただいたときに、軽く首が傾いた状態になるということでしたが、初診時のような痛みや、ロックがかかった状態ではなかったので、そのまま様子を見ていただくようにしました。
様子を見ていくことで、自然に治って行きました。
以上のように、一見首が曲がらなくなることで、
本人も親御さんも不安になり来院される場合が多いのですが、
なるべく早く診断して、
処置をすれば、1週間ぐらいで良くなってしまいます。
ところが、痛みを伴うような手技であったり、
処置に至るまで長い時間がかかってしまうと、
筋肉や靭帯の緊張が強まるので、
なかなか治りにくくなります。
お子さんの首が曲がって元に戻らない場合は、
あわてず、整形外科に早い目に受診されることをお勧めします。
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