肘関節内側側副靭帯損傷(転倒し手をついて、肘が痛い!)

手をついて、肘に過度な負担がかかるような受傷機転では、肘の骨折、脱臼などが生じますが、
そういったレントゲン写真で明らかになるような怪我のほかに、靭帯損傷があります。

肘関節の靭帯損傷として、多くみられるものは内側側副靭帯損傷です。

肘関節の内側側副靭帯損傷は、野球肘にみられるような使い過ぎが原因で見られるものもありますが、
このページでは、明らかな外傷が原因となって生じた肘関節内側側副靭帯損傷について見ていただきたいと思います。

肘関節内側側副靭帯損傷で見られる圧痛部位

上の図は、肘関節内側側副靭帯損傷の場合に見られる圧痛部位です。(赤色×印の所)

その部位を解剖で示したものが下の絵です。

上の図にあるように、内側側副靭帯はいくつかの組織が重なって構成されています。

中でも、前方成分(AOL)は肘の側方動揺性を保つ役割を担っていて、

この靭帯が損傷されると肘関節が内外に不安定な状態になります。

肘関節を動かした時の内側側副靭帯の機能を示したものが下の図です。

肘を伸ばしたときは、前方成分(AOL)が緊張し、後方成分(POL)は弛緩します。

一方、肘を曲げたときは、その逆の前方成分(AOL)が弛緩し、後方成分(POL)は緊張します。

このように、肘関節は前方成分(AOL)と後方成分(POL)が相互作用しながら関節の曲げ伸ばしが

スムーズにできるような構造になっています。

ですので、手をついたときに肘が過度に伸ばされた状態では、

最も重要な内側側副靭帯の前方成分にストレスがかかることになります。

こういった理由で、肘関節内側側副靭帯が起こると、前方成分が損傷されて、肘関節の不安定性が生じるのです。

肘関節内側側副靭帯損傷の診断

下の写真は、肘関節内側側副靭帯損傷の診断方法です。

肘の外側から圧力をかけて、内側の側副靭帯に対してストレスをかけるテスト法です。

強く痛みが伴うといけないので、愛護的に行います。

ストレステストを行いながら、レントゲンを撮ったものが下の写真です。

ストレスをかける前と後では、上腕骨と前腕骨の位置に違いが見られます。

ストレスをかけたときには、内側の関節の隙間が開くようにして傾いていることがわかります。

これは、内側側副靭帯が損傷して、肘の側方動揺性が失われたことを表しています。

また、肘関節内側側副靭帯損傷の診断方法には、エコー検査も有用な方法です。

以下の写真は肘関節内側側副靭帯損傷のエコー画像と、ストレスをかけて撮影したエコー画像です。

上腕骨滑車と尺骨が組み合わさっている赤線部分が肘関節です。

肘関節内側側副靭帯損傷のエコー画像

ストレスをかけて撮影したエコー画像 

上記左の写真は、内側側副靭帯の部分で血腫と思われる低エコー像が認められます。

どの程度、内側側副靭帯の緩みがあるのかストレスをかけて確認したものが上記右のものです。

赤色の線で示した肘関節の関節すきまが広がっていることがわかります。

このように肘関節内側側副靭帯損傷をレントゲンやエコー検査で診断することができます。

以下で実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。

17歳の男性です。

左肘関節内側の痛みと不安定感を訴えて来院されました。

柔道をしていて、左手をつき、肘を外反強制し、受傷されたそうです。

レントゲンでは、骨折など確認できなかったため、
靭帯損傷を疑い、エコーの検査を行いました。

左の写真が初診時のエコー画像です。

赤線で示した部分が関節裂隙です。

黄色矢印で示した部分で側副靭帯の緩みを確認できました。

左のエコー画像は、肘関節外反ストレスをかけた状態で撮影したものです。

赤線で示した関節裂隙部の開大が見られ、
上腕骨の付着部で低エコー像が確認できましたので、
肘関節内側側副靭帯損傷であると診断し、
ギプス固定を3週間行いました。

左のエコー画像は、初診時から4週間のギプス除去後のものです。

上腕骨付着部での仮骨形成が認められることから、
レントゲンで確認できない剥離骨折があったことがわかりました。(赤色矢印の先で示した部分)

左のエコー画像は、上のエコーと同日に、
肘関節に外反ストレスをかけて撮影したものです。

赤色矢印で示した関節裂隙の開大が見られないことから、
ギプス固定により肘関節の安定性が得られたことがわかりました。

20歳の男性です。

左肘関節の痛みを訴えて来院されました。

5日前、スノーボードをしていて、転倒し、左肘を外反強制し、
受傷されたとのことです。

左の写真は、初診時の外観写真です。

腫れが強く、皮下出血も認められ、肘関節全体に痛みを訴えられていましたが、左肘関節内側側副靭帯部に圧痛が認められ、
外反ストレスでも、不安定性が認められたことから、
肘関節の内側側副靭帯損傷と判断しました。 

左の写真は、初診時のレントゲン画像です。

痛みを訴えている赤丸印の肘関節内側部では、
骨折などの病変は認められませんでした。 

左の写真は、左肘関節を外反ストレスさせた状態のレントゲン画像です。

赤色矢印で示した関節裂隙部が靭帯損傷により、
開大していることがわかったので、
肘関節内側側副靭帯損傷と診断し、
ギプス固定を3週間行いました。 

ギプス除去後、ストレス撮影を行ったところ、
肘関節の安定性が保たれており、
肘関節の可動域訓練やリハビリを開始しました。

肘関節内側側副靭帯損傷は単独損傷であれば、適切な治療を行えば、手術をせずに保存療法で治療することができます。

そのために、治療は強固なギプスなどの固定を行い、不安定性を残さないようにすることが大切です。

骨折なども伴う事もありますので、お早めに整形外科を受診されることをお勧めいたします。

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