肘が完全に伸ばせないとか、肘を完全に曲げることができない、
また肘の曲げ伸ばしで痛みが生じる疾患に「変形性肘関節症」があります。
このページでは、なぜ変形性肘関節症が起こるのか、また変形性肘関節症が生じると、
どのようなことが起こるのか詳しくご説明したいと思います。
変形性肘関節症とは?
肘関節は上腕骨と尺骨と橈骨の3つの骨から構成されています。
肘は、上腕骨と橈骨で腕尺関節を構成し、上腕骨と橈骨で腕橈関節を構成し、橈骨と尺骨で橈尺関節を構成し、3つの関節が1つの関節腔に含まれている関節です。
上の図は、肘関節を正面と側面から見たものです。
関節が複雑に構成されているため、肘関節に変形が生じた場合、
上の図のように骨棘や軟骨がはがれた遊離体などが色々なところに出現してきます。
変形性肘関節症が生じる原因
変形性肘関節症の原因は、大きく分けて以下の3つに分けられます。
変形性肘関節症は上の図のような原因が引き金となり、最終的に進行が進むと、肘関節の内側を走行する尺骨神経が圧迫され、
環指の尺側と小指の感覚異常が起こるといった肘部管症候群を引き起こす可能性が出てきます。
変形性肘関節症の症状
変形性肘関節症は、肘を曲げ伸ばしすることで痛みが出現します。
また、関節の中に遊離体といって軟骨片が間に入り込み、
完全に肘を曲げたり伸ばしたりできないといったロッキング症状を出現することがあります。
以下の写真は、実際の肘関節症の患者さんの外観です。
写真で示した通り、患側の右上肢は、遊離体によるロッキング症状が出現しており、
肘を完全に伸ばしたり、曲げたりすることができていないことがお分かりいただけると思います。
変形性肘関節症のレントゲン画像
側面のレントゲン写真では、肘関節の屈曲制限が生じている場合、
肘関節部分に遊離体が挟まって曲げれなくなっているのかどうかを確認することができます。
以上のように、変形の度合いをある程度レントゲンで確認することができますが、
レントゲンだけでは判断しづらい様な遊離体の存在が疑わしい場合などは、CT撮影を行う事もあります。
以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
42歳の男性です。
長年野球をされており、右肘関節に痛みが以前よりあったそうです。
最近、投球時の肘の痛みと、屈伸時の可動域制限があるとのことで、受診されました。
こちらの写真は、初診時の外観写真です。
患側と健側を比較してみると、患側には可動域制限があることがわかります。
手術も希望されていたため、CT撮影を行いました。
こちらの写真はCT画像です。
青色矢印で示した遊離体によって、肘関節の伸展制限があったのだとわかります。
また、赤色矢印で示した部分に骨棘も見られます。
手術によって、関節遊離体の摘出と肘頭、肘頭窩の骨棘切除を行いました。
こちらのレントゲンは、初診時のレントゲンと手術後のものです。
初診時の青丸で囲んだ部分に関節遊離体が認められますが、手術後は摘出されて、なくなっていることがわかります。
手術後、肘関節の可動域制限は改善されており、患者さんは満足されておられました。
〜症例2〜
61歳の男性です。
昨日、左肘を屈曲させたときに、痛みが出現したそうです。
外傷などの既往はなく、長年重労働をされており、肘を酷使されていたという事です。
初診時の時点で、肘関節の可動域制限も認められました。
こちらのレントゲンは初診時の肘関節正面のものです。
赤色矢印で示したように骨棘が認められ、患側の肘頭窩に関節遊離体が確認できました。
こちらのレントゲンは、初診時の肘関節側面です。
患側の青色矢印で示した部分に関節遊離体が認められ、肘関節の屈曲制限をきたしている原因であることがわかりました。
しかし、あまり不便を訴えておられなかったこともあり、しばらく様子を見ることにしました。
約1週間後、肘関節の屈曲制限は消失し、ロッキング症状は無くなったとのことでした。
確認のため、レントゲン撮影を行ったところ、関節遊離体が少し移動したので、引っかかりが消失したことがわかりました。
レントゲン写真からも、肘関節の屈曲がしっかりできていることがわかります。
この方は、ときどきロッキング症状が出現しますが、手術をせずにこのまま様子を見るとのことでした。
〜症例3〜
69歳の女性です。
10日前より右環指尺側と、小指がしびれるという事で来院されました。
近隣の整形外科では首が悪いという事で、牽引治療をしていたそうですが、症状に改善が見られないとのことでした。
お話を伺うと、幼少期に肘関節周辺の骨折である顆上骨折の既往があるという事でした。
肘関節が完全に伸びず、赤色矢印の部分を叩くと、右環指尺側と小指に痺れ感が走るという事でした。
こちらの写真は、正面からのものです。
顆上骨折の既往がある右肘は内反肘を呈しており、肘が完全に伸びないことがわかります。
こちらのレントゲンは初診時のものです。
関節裂隙は狭くなっており、赤色矢印で示した部分に骨棘も認められます。
さらに、患部の詳細を知るためにCT撮影を行いました。
CTでも、赤色矢印で示した部分に骨棘が認められますが、遊離体は確認できませんでした。
以上のことから、幼少期の肘関節周辺の骨折による変形が原因で、変形性肘関節症を引き起こし、その結果、肘関節の部分で神経を圧迫する肘部管症候群になったのだと考えられました。
この方は、肘部管症候群に対する手術を行う事で、手の痺れは改善されました。
変形性肘関節症は、さまざまな原因で引き起こされる疾患です。
肘関節を酷使することはもちろん、肘が痛いのに野球を続けたりすると進行し、
最終的には神経を圧迫して、力が入らないなどといった症状が出現してきますので、
肘に痛みや違和感、また肘の可動域制限などの症状があれば、
早い目に、近隣の整形外科の受診をお勧めいたします。