疲労骨折の多くは下肢に見られます。
体重がかかることを繰り返していると、ストレスがかかり疲労骨折が起こりますが、
太くて折れそうにない大腿骨でも疲労骨折が起こります。
このページでは、大腿骨骨幹部疲労骨折の症例をご紹介して、
その診断法もご覧いただきたいと思います。
スポーツの種目としては、陸上の長距離選手に多くみられると言われています。
その他のスポーツでも、走りこみを続けることで、起こると言われています。
赤い丸で囲んだ部分が大腿骨骨幹部疲労骨折の好発部位です。
中には、大腿骨の頚部に疲労骨折が起こる場合もあります。
下肢の中でも最も太い大腿骨がどうして疲労骨折を起こしてしまうのでしょうか?
まずは、メカニズムについてご説明したいと思います。
大腿骨骨幹部疲労骨折の発生メカニズム
下の図は大腿骨にかかるストレスを表したものです。
おもに体重が大腿骨にかかり、それに対する床反力の衝撃が大腿骨にかかります。
また、大腿骨には内転筋群が付着していて、その引っ張る張力がかかってきます。
このような力学的なストレスが疲労骨折発生の一要因です。
下の図は、ランニングをイメージした時の大腿骨のたわみについて示した図です。
もともと大腿骨の形状として、正面から見ると、やや外側に反って体重を支える構造になっています。
また、横から見ると、前に反って体重を支える構造になっています。
ランニング時、体重がかかったときにX脚傾向が強くなると、より大腿骨の外側に反るようなストレスがかかり、
一番たわみの強い骨幹部で、骨にひびが入る状況になります。
さらに、横から見た場合には、膝が曲がった状態で、体重がかかった力は大腿骨が前にカーブしている構造上、
たわみの一番強い部分でストレスがかかり、骨折が起こってしまいます。
大腿骨骨幹部疲労骨折の診断法
大腿骨骨幹部疲労骨折は、その大半が膝の痛みを訴えると報告されています。
また、痛みのある部位が漠然としていることが多いとも言われています。
そこで、検査法としては、上の写真にあるように、患者さんに座っていただいて、足を下に垂らした状態で、
大腿骨の下に堅い支点となるような物を入れて、大腿骨をしならせる様な状態にもっていき、疼痛を誘発するというテスト方法があります。
さらに分かりにくい場合には、緑色矢印のように膝上から圧力をかけて疼痛を誘発したり、
赤い丸で示した支点になる部分の位置を変えて疼痛を誘発するテストを行います。
このテストを「Flucrum test」と言います。
また、患側の脚で片足跳びで痛みを再現する方法もあります。
これを「Hop test」と言います。
初診時ではレントゲン写真を撮っても異常が見られないものがあります。
ですが、上記のようなテストをして、痛みがあるようならば、大腿骨骨幹部疲労骨折を疑って経過を見る必要があります。
そして、2~3週間後に再びレントゲン写真を撮ってみると、骨折の画像が写ってくる場合もあります。
ではい、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
14歳の男性です。
右の太ももの内側で膝に近い部分の痛みを訴えて来院されました。
クラブ活動はしておられないのですが、毎日4kmのジョギングを続けておられました。
レントゲンを撮ったときには、左側の大腿骨骨幹部疲労骨折の画像所見が見えました。
こちら側の診断については、3か月前に別の整形外科を受診され、すでに診断がついていて、当院へ来られた時には、左側の痛みはすでに無くなっていました。
今回は1週間前から左側と同じ痛みが右側に出たため、当院を受診されました。
別の角度からレントゲンを撮ってみると、患側(右側)には骨皮質の明らかな肥厚は見られませんでした。
しかし、理学所見や徒手検査では、大腿骨骨幹部疲労骨折を疑う所見がありました。
再び、患側のレントゲンを拡大して良く見てみると、大腿骨の骨幹部の中央からやや下方に骨膜反応像を認めました。
ですので、大腿骨骨幹部疲労骨折であると判断できました。
約1カ月のランニングの休止を指示して、様子を見ました。
約1ヶ月後には患部の痛みは軽快しました。
〜症例2〜
18歳の女性です。
右大腿の内側の痛みを訴えて、来院されました。
2週間前から、右大腿内側の痛みが出現し、痛くて走る事が出来なくなりました。
この方は陸上部に所属していて、専門種目は長距離走です。
以前から1日3時間程度、毎日練習しているそうですが、痛みが出てからも、走り続けておられたそうです。
初診時では、階段の上り下りや、下り坂を歩くだけでも、痛みがでると訴えておられました。
また、膝上10cmの部分に圧痛が認められました。
こちらの写真は、初診時に撮影したレントゲン写真で、正面と側面の画像です。
圧痛のある部位を中心に骨の状態をよりわかりやすくするために、上の写真の赤い枠の中をアップにしました。
この時点では、はっきりとした骨の変化は見られませんでした。
しかし、理学検査でHop testが陽性で、右大腿内側に限局した圧痛があったため、大腿骨疲労骨折を疑い、スポーツの中止を指示し、経過観察を行いました。
初診から3週間後のレントゲン写真です。
正面のレントゲンで、大腿骨に沿って、仮骨がうっすらとできているのが確認できました。
(赤色矢印の部分)
以上のことから、大腿骨骨幹部疲労骨折であることが確信できたため、引き続きスポーツ中止を継続してもらうようにしました。
初診時より5週間後のレントゲンです。
正面のレントゲンで、仮骨がはっきりと確認できました。
(赤色矢印の部分)
この時点で歩行時痛、階段昇降時痛は消失していました。
しかし、圧痛だけは、まだ残っていましたので、患部に過度な負荷がかからないレベルでの運動として、ウォーキングから開始してもらうようにしました。
その後、運動強度を徐々に上げていってもらうようにしました。
現在経過も良好です。
大腿骨骨幹部疲労骨折は、その疾患の存在を念頭に置いて、
競技特性などと合わせて、患者さんの状態を見れば見逃すことなく、治療へと導くことのできる疾患です。
大腿骨骨幹部疲労骨折の初期は、レントゲンで異常が見つかりにくいのですが、
理学所見などで疑わしい場合には、再度レントゲン撮影を行うなどして確認を行う事が必要です。
大腿骨幹部疲労骨折であるとわかれば、治療はスポーツ中止が必要になります。
スポーツ中止は約4~6週間必要といわれており、
競技復帰は発症から2~3か月を要すると報告されています。
ランニングなどをよく行われる方で、大腿部の痛みがある方は、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。
この疾患は早期に発見し、早期に治療を始めることが、早く治るポイントです!