患者さんにとって、辛い症状に悩まされているにも関わらず、
病院では「何ともありません」と言われてしまうケースがあります。
痛くて辛い場所が、たくさんありすぎて、どう伝えていいかがわからないということで、
よけいに悩んでしまい、理解してもらえない結果、
余計ストレスを感じて、症状がひどくなってしまっているということもあります。
ストレス社会と言われる今日、
このような疾患に悩まされる患者さんが多く見受けられます。
この疾患を「線維筋痛症」といいます。
この疾患いつて、まずはどういう疾患かということについて見ていただきたいと思います。
下の絵は線維筋痛症に見られる特徴的な圧痛部位を示したものです。
線維筋痛症の診断基準の一つとして用いられています。
線維筋痛症に見られる圧痛点
① 後頭部
② 下部頚椎
③ 僧帽筋
④ 棘上筋
⑤ 第二肋筋
⑥ 外側上顆
⑦ 臀部
⑧ 大転子
⑨ 膝(内側)
上記の18か所の内、11か所に圧痛があり、
さらに、原因不明の痛みが全身に3カ月以上続く場合は
線維筋痛症と診断できます。
ただ、この疾患の原因ははっきり1つだとは断定できません。
原因は患者さんそれぞれで違っていて、
交通事故や、運動時の怪我、あるいは、仕事のストレスや、家庭の問題など、
そういったことが引き金になり、耐えられないほどの痛みが生じると考えられています。
他に、症状としてめまいや、便秘、不眠、うつ状態など様々な症状が現れるとされています。
治療は投薬療法が中心となりますが、
症状に応じてお薬を選ぶこととなります。
ですので、最初は、どの薬が効くのかがはっきりしないこともありました。
現在では、痛みを押さえる薬として、線維筋痛症でも使えるお薬が出てきています。
では、実際の患者さんについて、以下で御覧いただきたいと思います。
腕や肩、そして足が痛いということで来院された女性です。
問診票をお渡しして、いろんな情報を書き込んでいただいたところ、正座や、座り込むと痛くて立てないなどの症状がありました。
また、朝起きた時に、体全体にこわばりがあるという、
全身の症状も訴えておられました。
レントゲン写真を撮って、異常がないか確認しました。
明らかな異常所見は見当たりませんでした。
強いて言うなら、第5頸椎と第6頸椎の間が少し狭くなっている程度で、御本人が訴えておられるような痛みの直接の関連性は少ないと思われました。
また、問診票では足の方にも丸印を付けておられたので、
足の痛みが腰椎の何らかの原因から生じているのではないかと、
腰のレントゲンを撮ってみましたが、
特に異常所見は見当たりませんでした。
最終的に、確定診断に至ったのは、
理学所見で確認した圧痛点が、11か所以上あり、
痛む箇所を再度確認すると、
御本人が問診票で描かれた痛みのある場所とほぼ一致していたので、線維筋痛症と診断しました。
治療としては、投薬療法を開始して、
現在、症状は安定しておられます。
指を曲げると痛いという訴えの他、
頚部、腰、両股関節など、
全身が痛いということを訴えて来院された女性です。
痛みと、むくみのため、
手が完全に握りこむことができないということで、手を見たところ、両手の指が少し腫れているように写っています。
こわばり感も訴えておられたので、
血液検査も同時に行いました。
問診票では、肩、腰、両足に印がつけてあって、
歩く時の痛みも訴えておられました。
問診で、様々なことをお伺いし、
全身の症状の痛みの他に、
手掛かりとなるような事がないかと伺っているうちに、
過去に精神的にショックを受けるような出来事があるようでした。
その時をきっかけに、数種類のお薬を服用して、
気持ちを安定させたり、入眠しやすいように工夫されていました。
頚椎のレントゲンを撮ってみたところ、
頚椎の並びがやや直線的ではありましたが、
御本人が訴えておられる痛みとは直接関係なさそうでした。
同じく腰椎部もレントゲン撮影を行いましたが、
明らかな異常所見は見当たりませんでした。
手指のむくみや、動かしにくさも訴えておられたので、
手指のレントゲンを撮って確認しましたが、
こちらも異常所見は見当たりませんでした。
理学所見として、首や腰の徒手検査等を行ったところ、
左の写真にあるように、11箇所に圧痛が認められました。
これらから、線維筋痛症と診断しました。
投薬治療を開始して、頚部の痛みは強いものの、初診時に比べて7割程度に軽減しておられました。
線維筋痛症の原因や発症の仕組みはまだ分からないことがたくさんあります。
しかし、早期診断が重要な疾患であることに違いはありません。
いち早く見つけることで、対処も早くでき、
何より患者さんの肉体的・精神的なストレスを早く緩和することにつながります。
当院では、問診票を活用し、
かつ、どこに痛みがあるのかを丁寧に診ていきます。
そして、しかるべき処置として、マッサージなどの対症療法や、投薬療法を行っています。
ですので、他の診療科を受診されていても症状が良くならないとか、
御自身の症状が、このページのものと似ていると思われる方は、
一度、整形外科を受診されることをお勧めいたします。