有痛性外脛骨は思春期のスポーツ選手に多くみられる疾患なのですが、
よく見て見ると、骨折であったということもあります。
このページでは、当院で経験した有痛性外脛骨だと思っていたら、
実は足舟状裂離骨折であった例を挙げて、
有痛性外脛骨との比較をしてみたいと思います。
上の図にあるように、足の舟状骨は足の内側にある骨です。
土踏まずの頂点にあるので、体重を支えたり、足の蹴り出しの際などに重要な骨です。
舟状骨裂離骨折の起こるメカニズム
左の図は立位で土踏まずの状態がどうなっているのかをあらわしたものです。
青い線が縦のアーチをイメージしています。
その頂点に舟状骨があって、アーチを支えています。
この舟状骨には、後脛骨筋と呼ばれる
内側の縦アーチを形成するのに重要な筋肉がついています。
上記の骨の構造と、共同して、アーチを保持する重要な役割と、
ダッシュ時や、着地した瞬間など体重を支える役割を担っています。
左の絵は上から見た足の舟状骨周辺の図です。
強い後脛骨筋による収縮によって、舟状骨が剥がされて骨折している状態です。
この状態になることは、それほど多いケースではありません。
ですので、舟状骨裂離骨折は、稀な骨折と言えます。
当院で経験した症例
今回当院で経験した症例は、最初は有痛性外脛骨としてフォローアップしていましたが、
少し様子が違ったので、舟状骨の骨折ではないかと考えました。
その内容について御紹介させていただきたいと思います。
21歳の男性です。
2か月前に、アメフトの試合中にダッシュをしたときに突然足の内側に痛みが出て走れなくなりました。
その後、痛みを我慢しながらプレーを続けておられましたが、
カットイン動作が辛く、支障が出ていました。
試合期でもあり、完全に休むことができないという事情から、
様子を見ながら痛みを我慢しつつそのままプレーしておられて、
シーズン終了後に、痛みが我慢できない状態になって来院されました。
左の写真は初診時のレントゲンです。
赤丸印で囲んだところに、
外脛骨と思われる像が認められました。
痛みが生じた状況から、以前にあったと思われる外脛骨がプレー中に刺激されて、有痛性外脛骨の状態になっていたものとこの時点では考えました。
レントゲンを拡大してみると、
赤矢印で挟んだところに亀裂が走っていました。
この方は、痛みが続いてプレーにも支障が出ていたので、
シーズン終了後、
骨片を摘出する手術療法を適応することになりました。
赤矢印で示したところに圧痛がありました。
手術時の患部の状態は、やや大きめの舟状骨粗面部が確認でき、
スティックがさしている部分で隆起していることが確認できました。
手術の処置に移る直前に、
どの部分からアプローチしていいかを念のため確認するために、
レントゲンイメージ像で見ながら、
注射針を結合部に向かって差し込みました。
(赤色矢印の先に見えるのが注射針です。)
本来ですと、外脛骨が舟状骨本体とつながっている部分は線維性結合と言って、骨の組織とは違う硬くない軟骨組織でつながっています。
ですから、線維性結合部は軟らかいので、
注射針はスムーズに入っていくはずでしたが・・・。
注射針が入らなかったことから、
硬い骨の組織であったと考えられました。
以上のようなことから、患部の病態は有痛性外脛骨ではなくて、
裂離骨折であると判断し、ギプス固定をして、骨癒合を目指す治療を行うことになりました。
経過観察として、後日ギプスを巻いたままCTを撮影しました。
すると、舟状骨結節部は亀裂が入っているものの、
完全に分かれているのではなく、一部骨組織でつながっていました。 (赤丸印で囲んだ部分の中央部です。)
別角度でスライスした画像では、
明らかに骨折線が入っていることが確認できました。
(赤色矢印で挟んだ部分です。)
この画像から、わかるように骨折した骨が離れていないので、
今後、ギプス固定を継続することで、
骨癒合が期待できると判断しました。
そして、ギプス固定を1か月間継続した後、
レントゲン撮影を行ったところ、
以前にあった骨折線は完全に消失していました。
(水色矢印の先で示した部分です。)
ですので、ギプスを除去して、リハビリを開始しました。
別角度で撮ったレントゲン写真で見ると、
若干骨折線は残っているように見えますが、
骨癒合はほぼ完成していると思われました。
圧痛もなく、徐々に練習に参加していただくことにしました。
最終的には、次のシーズンには何の支障もなく、
シーズンを通して活躍されました。
今回振り返ってみると、1回のプレーで後脛骨筋腱の牽引力が舟状骨結節部に強くかかり、結節部が引っ張られたことにより、骨折が生じたものと考えました。
有痛性外脛骨との比較
左の写真は舟状骨結節部に圧痛を認め、
理学所見などから、有痛性外脛骨と診断した患者さんの足です。
レントゲンを撮ってみると、
明らかに舟状骨粗面部には離開のある骨片が存在しています。
この写真は、今回取り上げた舟状骨裂離骨折の方のレントゲンです。
上のレントゲン写真と比べて見ると、
骨の開き具合が違うことと、
骨の辺縁が丸みを帯びていないことが、
上下のレントゲンを見比べて見るとよくわかります。
この点が、有痛性外脛骨と、
舟状骨裂離骨折の違いであると考えられます。
今回私たちが経験した例は、
圧痛点も有痛性外脛骨と同じで、非常に似ている症例でした。
ですが、今後、この2つの疾患を見極める上で、
受傷時の状態や、レントゲン写真を詳しく見比べて、
場合によっては、骨折であるということも考えてみる必要性があるということを実感しました。
有痛性外脛骨ではないかと思っても、受傷時の腫れ方や、皮下出血の存在などによっては、
舟状骨裂離骨折も疑うことも必要ではないかと思います。