腱鞘炎は使いすぎによっておこるというイメージがありますが、
足に関しては、使い過ぎというよりも、
靴による圧迫で腱鞘炎が起こることが多いのです。
腱鞘炎の起こる場所は、
圧迫される箇所によって症状が違います。
このページでは、足の周辺で起こる腱鞘炎をいくつかご紹介したいと思います。
足の甲の付近は皮膚のすぐ下を腱(足の指を伸ばす筋肉と骨をつなぐ部分)が走ります。
おもに、上の図の3つの筋肉の腱が靴などの圧迫によって炎症を起こすことが多く見受けらます。
それぞれに走向が違うので、出てくる症状も違ってきます。
左は足を外側から見た絵です。
足の外側には短腓骨筋腱という腱が外くるぶしの傍を走り、
第5中足骨についています。
この筋肉は足を外側に払うような動作の時に働きます。
左の絵は足を内側から見た絵です。
足の甲側には長母趾伸筋腱の腱鞘と前脛骨筋の腱鞘があります。
これらは足首の前のほうにあり、
足を動かす時に腱が摩擦を起こさないように
カバーをかけた状態になって守っています。
また、足のうちくるぶしの傍には後脛骨筋腱の腱鞘と、
長母趾屈筋腱の腱鞘があります。
これらは足の体重を支える際に重要な腱ですので、
やはり腱鞘に守られています。
長趾伸筋腱の腱鞘は左の図のように
足の甲に4本の腱を束にした形になっています。
足の甲の上から、この部分を圧迫するものがあったら、
腱鞘の部分で、炎症をおこし腫れたり、熱感を持ったりします。
このように足は皮膚のすぐ下に腱鞘があるので、
腫れたらすぐわかります。
長趾伸筋腱炎
長趾伸筋腱炎では、足の甲が痛くなります。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
写真は、プロのダンサーの方で
2週間前からダンスの練習で痛みが強く 出始めました。
特に靴を履いて歩くと、痛みが出ていました。
その上、一日に10時間近く練習をされていましたので、
使い過ぎと、靴の圧迫による腱鞘炎であると判断しました。
横から見ると、矢印で示した部分周辺に腫れがあって、×印のところを押さえると強く痛みが出ていました。
レントゲンを撮ると、骨には異常は見当たりませんが、左右の足の皮膚の厚みが違うのがわかります。
つまり、皮膚の下で炎症がおこり、腫れているので、
このような状態になるのです。
このように客観的に見ても、炎症があるのは明らかです。
ですので、処置としては、靴を変えるということと、
腫れと痛みがある間は練習量を加減するように指導しました。
そうすることで、痛みは治まってきました。
長母趾伸筋腱炎
長母趾伸筋腱炎とは、母趾を沿った(背屈)時に出てくる筋(腱)のことで、
靴の食い込みなどが原因で痛みが出ます。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
写真は、10歳の女の子です。
足の甲の痛みを訴えて当院へ来られました。
足の親指を伸ばすことで痛みが生じ、
特にピンクの矢印の先の部分をおさえると
痛みと軋れき音(摩擦音の様な音)が
押さえている手に感じられました。
横から見てみると、若干ではありますが、
長母趾伸筋腱の部分で腫れが見られました。
さらに、エコーで観察してみると、
腱鞘部分に腫脹を認め、
水がたまっていることがわかりました。
(赤矢印の先に黒く見られる部分。
このようになった原因は、
学校で長距離走を走るために、靴のバンドをきつく締め、練習をしていたためだとわかりました。
ですので、体育の長距離走の時には加減するなり、
靴を加減するなりして痛みの出ないように指導しました。
具体的な原因と、対処方法がわかったので、
御本人も御家族も安心して帰られました。
25歳の女性です。
×印のところの痛みを訴えて御来院になりました。
約1か月から痛みが出始めて、足の甲が少し腫れてきたので、心配になって受診にられました。
×印の部分は長母趾伸筋の腱が通っている部分であったので、その部分の腱鞘炎であると判断しました。
この方は特に運動を始めたわけでもなく、
仕事が忙しくなってきたわけでもなく、
痛みが出ていました。
そこで、はいてこられた靴を確認すると、
靴の赤色矢印部分(上の写真と同じ部分)で
痛みが出ていることがわかりました。
ブーツの足の甲のあたりには、ゆとりがなく、
足を蹴りだすときに、足の甲が圧迫されていたことがわかりました。
この患者さんへは、痛みの出ている間だけは
違う靴に変えるように指導しました。
前脛骨筋腱炎
前脛骨筋腱炎は、足関節の近くで靴があたり痛みを生じます。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
30歳の男性で、足首の前に痛みがあって
来院されました。
捻挫をしたわけでもなく、特に歩くときに痛みを強く覚えるわけでもなかったのですが、フットサルの練習でボールを良く蹴るようになってから、痛みが出始めました。
×印のところを押さえると痛みがでることがわかりました。
さらに足首を返すように抵抗を加えると、
×印の部分に痛みが強く出ました。
つまり足首を返す筋肉である、
前脛骨筋腱の炎症だと判断しました。
17歳のバスケットボール部所属の男性です。
約1週間前から痛みが出始めたということで、
御来院されました。
しばらく休んで、痛みが和らいだのですが、
練習を再開すると、また痛みが出たので、
再び来院されました。
靴ひもを強く縛り、さらに足首を返すと、ちょうど赤矢印の部分で痛みが生じていました。
新調したバスケットシューズを足にフィットさせようとして、
靴ひもをきつく縛ってしまったために、足の甲を圧迫してしまっていたことがわかりました。
靴のきつい部分と、足の痛い部分を比べてみると、
合致することがわかりました。
ですので、靴紐を緩めるように指導しました。
短腓骨筋腱付着部炎
短腓骨筋腱付着部炎は、狭い靴や走るときの体重のかけ方などが原因で足の外側が痛くなります。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
15歳の陸上中距離走の選手です。
走ると足の外側が痛いということで御来院になりました。
足首を返すと×印のところに痛みが出るということで、短腓骨筋腱の付着部の炎症であると考えました。
短腓骨筋腱は第5中足骨の端についています。
左の図のように、腱が引っ張り上げる力が加わると、骨の付着部をこの腱が引っ張り上げてしまいます。
そのせいで、痛みが生じることになります。
この症例は、今まで見てきた症例とは違い、
骨と腱の継ぎ目で生じる炎症なので、「腱付着部炎」と呼ばれています。
写真は、14歳の陸上部、短距離走選手です。
スパイクをはくと、痛みが強くなり、
左の写真の様に外に返すように抵抗を加えると、
矢印の部分の痛みが増強します。
スパイクをタイトに履き、足を蹴り返す練習をしていたために、痛みが生じたのだとわかりました。
痛みが落ち着くまでは、スパイクシューズを履く練習をやめて、
復帰する際には、足底板を処方して、踵を上げるようにしました。
こうすることで、練習にも無事復帰できました。
足の疾患の特殊性は、痛む部分だけを見ていても解決しないことにあります。
足の痛みの原因は
1、足の解剖学的特徴
2、スポーツ特性や練習量
3、靴の不適合、履き方
上記の様なさまざまな原因があります。
診察をお受けになる際は、
必ず日頃履いておられる靴(練習用の靴も含めて)をお持ちになって、
御受診ください。