日本の平均寿命は、世界の中でもトップクラスであり、高齢者の人口は非常に多くなってきています。
最近では「平均寿命」という言葉ではなく、「健康寿命」という言葉が注目されています。
「健康寿命」とは、日常的、継続的に医療や介護に依存しないで、自立した生活ができる生存期間をいいます。
いくら平均寿命が長くなっても、寝たきりだったり、
介護を受けなければいけない期間が長くなっては楽しい時間を過ごすことはできません。
当院では、高齢者の方が御一人でも、お元気で過ごしていただけるような取り組みを行っています。
このページでは、健康寿命と密接な関係があるといわれている
「サルコぺニア」について、詳しくご説明していきたいと思います。
健康寿命とは?
健康寿命とは、身の回りのことが自立してできる期間のことです。
以下の図は、男性と女性の平均寿命と、健康寿命の推移を支援したグラフです。
平均寿命は年々増えており、現在65歳以上の人口は総人口の30%を占めるといわれています。
また、平均寿命と健康寿命の差は、不健康な期間といわれています。
この不健康な期間は10年ぐらい存在し、
その間入院をしたり、介護を受けたり、人の世話を受けます。
誰もが「できるだけ最後まで健康で自立した生活を送りたい」
という願いを実現するためには、
平均寿命と健康寿命のギャップの解消が大切です。
健康寿命を延ばすことは、自分のため、家族のため、社会のために大変重要となります。
健康寿命を延ばすためには、積極的に運動を行い、
寿命と密接にかかわるサルコペニア(筋肉の減少)を生じないようにすることが大切です。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、加齢に伴って骨格筋量が減少する病態であり、
骨格筋量の低下とともに握力や歩行スピードなどの機能的な側面を含む概念です。
下の図は、骨格筋量低下のイメージ図です。
骨格筋量の低下とは、上記の左図のように筋線維の減少が生じ、
上記の右図のように筋横断面積が減少します。
すると、筋力低下によるふらつきや転倒につながり、
要介護状態や施設入所、死亡につながるといわれています。
また、高齢期の身体機能や生理機能の低下や要介護に陥る原因として注目されてきていますが、
類似の着眼点を持つ概念として
「ロコモ」や「フレイル」というものもあります。
同じような意味合いですが、それぞれ少しだけとらえ方が違うので、
わかりやすくするために、以下のように図で位置づけをご覧いただきたいと思います。
フレイルとは、加齢に伴う様々な機能低下を元に、州主の健康障害に陥りやすくなった状態を
「身体的フレイル」「社会的フレイル」「精神的フレイル」の3つに分けています。
ロコモ(ロコモ症候群)は、
特に運動器(骨、関節、筋肉、神経、椎間板)などに焦点を当てたもので、
立ったり、歩いたりという移動能力に注目しています。
ロコモの原因には、変形性関節症や骨粗鬆症などがあり、
サルコペニアもそのうちの一つとして位置付けられています。
サルコペニアと骨粗鬆症
サルコペニアと骨粗鬆症は切っても切り離せない関係です。
以下の図で示すように、
サルコペニアの方は、筋肉量が減少してくるため活動量が低下し、外出も減ることから骨粗鬆症になりやすく、
また骨粗鬆症で腰や背中が痛く活動性が低下してくるとサルコペニアになるといった関係性が見られます。
そのため、骨粗鬆症の治療をすることは、サルコペニアを予防できると言えます。
サルコペニアってどうやってわかるの?
基準は国によって若干異なりますが、
日本ではサルコペニアかどうかは、
握力、歩行速度、骨格筋量などが判断基準となります。
握力は、男性であれば26kg、女性であれば18kg以下、
歩行速度は0.8m/sec以下。
どちらか一方でも基準を下回っていた場合には、
身体機能低下者とみなして、骨格筋量を計測します。
すぐにでもサルコペニアかどうか簡易的に調べる方法は、
以下の図で示したものです。
ご自宅でも、今すぐにできる方法の一つです。
ぜひお試しください!
サルコペニアの改善方法
(サルコペニアの治療法)
骨格筋量は、以下の図で示す通り、年齢とともに必ず減少していく傾向にあります。
骨格筋量を増加または、維持するためには筋力トレーニングをすることが大切です。
筋力トレーニングの効果については、詳しくご説明したページがありますので、こちらをご覧ください。
当院ではサルコペニアに対して、体操教室(グループ体操)を実施し、
サルコペニアの判断基準である握力と筋肉量を3か月に1度測定し、評価を行っています。
しかし、歩行速度は現実的に計側が難しいため、代わりに運動能力を評価するため、
以下の図のようなツーステップテストと立ち上がりテストを採用しています。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
71歳の女性です。
2年前より右膝の痛みがあり、歩くのも辛い状態でした。
なかなか関節水腫も減らず、生活の活動性が低下していました。
上のレントゲンは、2年前のものです。
赤丸印の右膝関節の隙間が狭くなっており、
骨(関節軟骨)まで痛んでいることがわかります。
治療は変形性膝関節症に対してヒアルロン酸注射と
膝周囲筋を鍛える運動療法を行いました。
上の写真は、運動開始時の筋肉量を測定したものです。
膝周囲筋のトレーニングを中心に、筋力強化を行いながら、
座って行うグループエクササイズも合わせて行いました。
左の写真は、運動開始後9カ月のものです。
傷めていた右足の筋肉量はわずかではありますが、
以前より増加していることがわかります。
実際に日常生活でも、遠くへ出かけられるようになり、
活動性の向上が見られました。
88歳の女性です。
腰と背中の痛みを訴えて来院されている方です。
左のレントゲンは、約1年前のものです。
赤色矢印で示した部分は、以前骨粗鬆症による圧迫骨折で、
椎体が潰れてしまっています。
それに付随して、他の椎体も変形しており、円背傾向が見られます。
この方は、台所仕事で長時間立っているのが辛くなったり、
買い物で重たい荷物を持つことができなくなってきたという事で、
筋力低下を予防するために、運動療法を開始しました。
左の表は、運動開始時の筋肉量を計測したものです。
左の表は、約5カ月経過時点での筋肉量の計側結果です。
主に体幹筋力の維持を目的として、
腹筋や背筋のトレーニングを行っていました。
その結果、大きな筋力の増加は見られませんが、
低下もしておらず、筋力維持を行う事が出来たと評価できました。
運動機能のテストの結果も良好で、
握力も最初の時点より向上していました。
サルコペニアは、筋肉が落ちてくる一つの現象です。
筋力が落ちてしまうと、元に戻すのには非常に時間がかかります。
筋力が低下する前に、できるだけ運動する意識を持ち、
運動機能を維持することが健康寿命を長くするポイントです!
生活に支障が出てきてお困りのことがあれば、我慢せずお近くの整形外科にご相談ください!