上腕骨小頭骨端線離開

子供さんにみられる投球による肘の障害は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、内側の靭帯損傷や、骨軟骨障害があります。
2つ目は、外側にみられる上腕骨小頭の骨軟骨障害です。

                                このページでは、当院で外側の野球肘としてはあまり例のない、「上腕骨小頭骨端線離開」と思われる患者さんをフォローアップできましたので、
それについてご覧いただきたいと思います。

上腕骨小頭骨端線とは?

上の図は、10代の子供さんの肘を正面から見た図です。

水色の大きな軟骨は上腕骨小頭核というこれから骨化する部分です。

お子さんの場合では、軟骨成分が多く含まれるので、上腕骨小頭骨端線を境に、骨の部分と分けられています。

上腕骨小頭骨端核の周辺には、外側側副靭帯が付着していて、肘の外側の安定性を保っています。

上腕骨小頭骨端線離開の発生メカニズム

上の図は、上腕骨小頭周辺で、どのようなメカニカルストレスがかかっているのかを示したものです。

                          本来は、動くことのない上腕骨小頭骨端核は投球による過度なストレスにより、外側側副靭帯を介して引っ張られて骨端線の離開が生じると考えられています。

それをイメージしたのが下の図です。

上の写真のように、フォロースルーのときに、遠心力で肘から先が引っ張られる力に加え、
内側へ回旋する力も加わるため、より上腕骨小頭骨端線に負担がかかると考えられます。

同じ動作をしても、全員がこのような状態になるとは限りません。

肘が下がったフォームや、腕に頼った投球などや他のファクターも加わって起こると考えられています。

上腕骨小頭骨端線離開の症状とレントゲン画像

上の写真は、実際の患者さんの外観写真です。

赤矢印で示したように、関節部よりもやや近位部で圧痛を認めます。

同時に、肘の可動域制限も見られました。

レントゲン画像では、健側に比べて、患側の上腕骨小頭骨端線部が離開していることがわかりました。(赤色矢印の部分)

他の上腕骨小頭周辺にみられる疾患との違いは?

上腕骨小頭周辺にみられる疾患は他にもいくつかあります。

その違いについて、以下でご説明します。

上腕骨小頭骨端線離開

上腕骨小頭自体は変そのものは
変わりません。
骨端線部のみが開いています。

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎

上腕骨小頭の一部に
骨が透けるような所見が見られます。
病期分類も様々なタイプがあります。

Panner病

上腕骨小頭が全体的に萎縮して、
丸みを失っています。

以上のように、レントゲン画像で違いがわかります。

          初診時では、はっきりと区別することが難しい場合がありますが、時間をおいてレントゲンを撮り直してみると違いがわかる場合もあります。

上腕骨小頭骨端線離開の治療の流れ

今回は以下のプログラムで治療をしていきました。

以上のプログラムは、患者さんの状態によって変えていく必要があると思います。

しかし、基本的な方針としては上腕骨小頭骨端線部にかかる負担を最小限に抑えていきながら、
リハビリを進めていくことであると考えています。

以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。

10歳の男の子です。軟式野球クラブに所属しており、右投げ右打ちです。

右肘外側の痛みを訴えて来院されました。

約2週間前より徐々に右肘の外側が野球の投球時に痛みが出現してきました。

痛みのため、ボールを塁間の距離で投げられなくなったという事でした。

肘関節の可動域制限も認められ、
痛みが出る投球動作はフォロースルー期に生じるとのことでした。

左の写真は初診時の外観写真です。

肘関節より1cm近位部(赤色矢印の部分)に圧痛を認めました。

左のレントゲンは初診時のものです。

赤色丸印で示した上腕骨小頭の患側と健側を比べてみてみると、
赤色矢印の部分で、骨端線の離開が認められました。

上腕骨小頭骨端線離開(Sorter-HarrisⅠ型)が認められたので、
ギプス固定を行いました。 

左のレントゲンは、約1ヶ月後のものです。

この時点では、可動域制限は認められるものの、圧痛は消失していました。

そのため、ギプスを除去し、取り外し可能なシャーレ固定に切り替えました

左のレントゲンは受傷時から約10週のものです。

可動域制限は改善してきており、圧痛も認められないことから、
シャーレの固定も除去することにしました。

左のレントゲンは約17週後のものです。

可動域は健側と比較して差は無く、圧痛も無かったため、
野球への完全復帰を指示しました。

こちらのレントゲンも約17週後のものです。

健側のレントゲンと比較したところ、
上腕骨小頭骨端線の離開は左右差は認められませんでした。 

左のレントゲンは受傷より約4年経過したものです。

成長障害なども起こさず、骨端線は閉鎖していました。

現在でも問題なく野球を継続しておられるとの事でした。

上腕骨小頭骨端線離開は非常に稀な疾患です。

野球をしているお子さんで、肘の外側が痛いと訴える場合には、こういった疾患を起こしている場合もあります。

しつこい痛みが続く場合には、整形外科を受診されることをお勧めいたします。

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