股関節の痛みを伴う疾患は、変形性股関節症や股関節インピンジメント症候群などが多く見られます。
今回このページでご紹介する特発性大腿骨頭壊死も股関節の痛みを生じる疾患です。
突然、思い当たる原因もなく、股関節やお尻のあたりが痛くなったり、階段の上り下りでも痛みが出てきます。
また、動きの制限も見られることから、日常生活での支障も出てくるようになります。
以下で、なぜそのようなことが起こるのか、治療方法などを実際の症例をご覧いただきながら、
詳しくご説明していきたいと思います。
特発性大腿骨頭壊死症とは?
特発性大腿骨頭壊死症とは、大腿骨頭の微小循環の障害によって、
大腿骨頭部の一部または全体の骨および骨髄粗血性壊死が生じた状態です。
下の図は、大腿骨頭壊死のイメージ図です。
骨頭関節軟骨下の壊死層では、壊死によって骨細胞が見られなくなります。
正常層に近接した修復層では、線維組織層と添加骨形成層が見られ、
MRIの検査ではこの修復層が描出されることから、壊死している場所・範囲がわかります。
特発性大腿骨頭壊死症が起こる原因
大腿骨頭壊死が起こる原因の一つに、アルコールの多飲があげられます。
また、もう一つの原因には、ステロイド薬の使用との関連が指摘されています。
アルコール多飲歴や、ステロイド薬使用歴などが、大腿骨頭の壊死の原因といわれていますが、
その骨循環障害への作用機序については、未だ明らかではありません。
様々な研究から、骨頭壊死症の多くは、ステロイド薬使用開始からほぼ3ヶ月以内に発生することや、
骨頭壊死発生頻度は、ステロイド薬の1日投与量と相関することがわかってきています。
しかし、アルコールをたくさん飲む人や、ステロイド薬を使っている人でも、骨頭壊死が発生しない方もおられるので、
骨壊死発生傾向には個体差があるといわれています。
大腿骨頭の血行
大腿骨頭壊死症は大腿骨頭の栄養動脈が何らかの原因で途絶え、阻血性壊死が生じるといわれています。
以下の図は、腰から股関節にかけて動脈がどのように走っているのかを示したものです。
腹大動脈が大腿動脈へと分岐し、そこから大腿骨頭への栄養度脈へとつながる外側・内側大腿回旋動脈へと分岐していきます。
以下の図は、大腿骨頭部を拡大したものです。
向かって左側は、前から見た大腿骨頭の図で、右側は、後ろから見た大腿骨頭の図です。
大腿骨頭の栄養を司っている動脈は、以下の図の赤色で囲んだ内側大腿回旋動脈、外側・内側骨端動脈です。
このうち、内側大腿回旋動脈の末梢枝である外側骨端動脈が最も重要で、骨頭の2/3を栄養しています。
残りは外側大腿回旋動脈や閉鎖動脈から分岐し、大腿骨頭靱帯動脈の末梢枝である内側骨端動脈から栄養が供給されています。
これらの血管が何らかの原因で阻血状態に陥ると、骨頭が壊死してきます。
特発性大腿骨頭壊死症の分類
大腿骨頭壊死症は以下の図のように、4つのタイプに分けられます。
それぞれのタイプによって、どのような経過をたどるのか、予後が推測できるといわれています。
TypeAでは無症状で経過することが多いので、たとえ壊死が認められても、治療の必要性はほとんどありません。
TypeBでは、骨頭圧潰に進行しないものも約半数あるので、症状が軽ければ、治療することなく経過観察することもあります。
TypeC-1とTypeC-2では、骨頭圧潰が進行する頻度が高いため、症状が出現すれば、外科的治療の対象となるといわれています。
また、大骨頭壊死が起こっている病期分類については、以下の図のようになっています。
一般には、Stage3以後、つまり骨頭の圧潰が生じると疼痛や、
股関節の可動域制限など臨床症状の発現が見られるといわれています。
また、Stage3以降は外科的治療の適応となる場合が多いといわれています。
特発性大腿骨頭壊死症の画像診断
大腿骨頭壊死症の診断のポイントは、身体所見と画像所見です。
身体所見では、歩くときの痛みや、体重をかけたときに痛みを強く訴えたり、夜間痛も出現することがあります。
大腿骨頭の圧潰が起こっているときは、強い痛みが出現し、
圧潰の進行とともに股関節の可動域制限(外転と内旋)や脚の短縮が出現することもあります。
画像所見では、主にレントゲン画像とMRI画像が重要となります。
以下の図は左大腿骨頭壊死症、レントゲン画像とMRI画像です。
レントゲン画像
レントゲン画像では、壊死している部分は骨が透亮し、
赤色矢印で示した骨頭内壊死部に沿って帯状硬化像が認められます。
しかし、発症して間もない初期の状態では、
レントゲンでは異常所見は見られないことがあります。
MRI画像
MRI画像のT1強調画像では、赤色矢印で示した部分に修復層に沿って帯状の低信号像(low signal band)の特徴的な所見が確認できます。
壊壊死が始まって4週間以上経過すると、
MRIでこのような画像が確認できます。
もう一つレントゲンで特徴的な所見として、大腿骨頭を側面から撮影したものが、以下の写真です。
Stage3以上のものになると、上の写真の赤色矢印で示したように、crescent sign(骨頭軟骨下骨折線)が見られます。
基本的に、一度壊死してしまった大腿骨頭部は修復されることはありません。
治療は、痛みや可動域制限が強い場合(Stage3以上)や、病型分類でTypeCであれば、手術の適用といわれています。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
32才の男性です。右股関節の痛みを訴えて来院されました。
1ヶ月前より、特に思い当たる誘因なく、右股関節が痛いということです。
歩くのも痛く、夜寝ていても痛みのため、目が覚めるそうです。
左のレントゲンは初診時のものです。
赤色丸印で示した右股関節が痛みの部位です。
よく見ると、右大腿骨頭部に骨透亮像と帯状硬化像が認められた。
左の写真は初診時のものです。
問診で、よくお話を伺い、身体所見をとってみると、
リベド血管炎で、ステロイドと血流の流れを良くするお薬の服用を長期間されているとのことでした。
レントゲン画像と問診から、ステロイド性による大腿骨頭壊死症を疑い、MRI検査をすることにしました。
左の写真はMRI画像です。
MRIでは、赤色丸印で示した部分に帯状の低信号像が認められ、
骨壊死の存在と、大きさを確認できました。
歩くこともままならないため、手術を目的に大きな病院へ紹介となりました。
49歳の女性です。
右股関節の痛みを訴えて来院されました。
3ヶ月前より、特に誘因なく、右の股関節に痛みが出現してきたそうです。
痛みを取るために、鍼灸治療などを行っていましたが、
2週間前より痛みが強く、階段を上ることも困難な状況になったそうです。
歩くのも痛く、靴下をはくのもつらいそうです。
左の写真は、初診時の身体所見です。
右股関節の屈曲や外転、また内・外旋で可動域制限が見られました。
左のレントゲン画像は股関節を正面から撮影した初診時のものです。
赤色丸印で示した、大腿骨頭部に骨透亮像と帯状硬化像が確認できました。
左のレントゲン画像は股関節を45度外転させて撮影したものです。
右股関節の赤色矢印で示した部分に
骨頭軟骨下骨折線(crescent sign)が認められました。
問診で、よくお話を聞いてみると、毎日お酒を約1~1.5リットル飲まれるそうです。
以上のことから、アルコール性の大腿骨頭壊死を疑い、
MRI撮影を行うことにしました。
左のMRI画像は股関節を正面から撮影したものです。
右の赤丸印で示した股関節に帯状の低信号の輝度変化が認められました。
また、痛みを訴えていない赤丸印で示した左側の大腿骨頭部にも、帯状の低信号の輝度変化が認められました。
手術を目的に、大きな病院へ紹介となりました。
両側ともに大腿骨頭壊死が認められたのですが、
痛みのある右股関節をひとまず手術することになりました。
左のレントゲン画像は手術後のものです。
壊死部分が、小さかったため、
壊死が起こっていない大腿骨頭の部分を荷重面に変える
「大腿骨頭回転骨切り術」を行いました。
左の手術で歩行がある程度できるようになった約半年後の時点で、
左の大腿骨頭壊死の手術「大腿骨頭回転骨切り術」を行いました。
現在治療中の病気でステロイド薬を服用していて、股関節が痛い場合や、
お酒が好きで、毎日飲んでいて、股関節が痛い方は、
こういった病気が疑われるので、一度お近くの整形外科へご相談ください。