上腕二頭筋付着部炎とは、大きく分けると3つに分けられます。
筋肉の始まりの部分で痛みが生じ、肩の痛みを訴えて来院されることが多い
「上腕二頭筋長頭腱炎」や、「上腕二頭筋短頭付着部炎」があります。
また、肘の前面部分の痛みを訴えて来院される「遠位上腕二頭筋付着部炎」があります。
これらの疾患は、同じ動作を繰り返すことや重たい荷物を持ち上げたときに、上腕二頭筋の付着部が痛くなります。
このページでは、上腕二頭筋付着部炎がどういった疾患で、
どのような場所に見られるかを、詳しくご説明していきたいと思います。
上腕二頭筋の役割
上腕二頭筋とは一般に「力こぶ」を作る筋肉で、「長頭」と「短頭」の二つの筋肉の束でできています。
上腕二頭筋の長頭は肩の部分からおこり、上腕骨の前を通り、
短頭は肩甲骨の烏口突起から起こり、上腕前面やや内側を通り、それぞれが撓骨粗面部に付着します。
上の図は、肩関節と肘関節を前から見たものです。
上腕二頭筋は、肩甲骨関節上結節の部分から起始しており、上腕二頭筋短頭は烏口突起より起始しています。
これら二つの上腕二頭筋は橈骨粗面部に筋肉が停止しています。
以下で、上腕二頭筋の働き(作用)をご説明していきたいと思います。
上腕二頭筋は、上の写真のように肘を曲げたり、肘を曲げたまま手のひらを上に返すような動作を行うための筋肉です。
日常生活では、下の写真のように食事を口にもっていくような動作や、
荷物を持ち上げる動作などで良く働きます。
上腕二頭筋付着部炎とは?
上腕二頭筋付着部炎で、肩の痛みを訴えるのは、上腕二頭筋長頭・短頭付着部炎です。
以下の図は、上腕二頭筋の付着部を拡大した図です。
上腕二頭筋長頭腱炎の場合は、赤色×印、上腕二頭筋短頭付着部炎の場合は、青色矢印の部分に痛みを訴えます。
症状はどちらも肩の痛みを訴えますが、肩の挙上は可能ですが、肘を曲げたり、前腕を回外させることで、痛みを訴えます。
上記の2つは、痛みを訴える場所は近いのですが、押さえたときの痛みは図のようにはっきりとした違いが見られます。
遠位上腕二頭筋付着部炎では、肘の痛みを訴えます。
下の写真は肘を前面から見たものです。
遠位上腕二頭筋付着部炎である場合には、×印の部分に痛みを訴えます。
遠位上腕二頭筋付着部炎を確認する方法は、抵抗下で肘を曲げさせたり、
肘を曲げた状態で前腕を回外させることで、×印の部分に痛みの再現性が見られます。
以下、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。
近位上腕二頭筋付着部炎(肩が痛い)
59歳の男性です。
両肩の痛みを訴えて来院されました。
特に右肩の方が痛みが強いそうです。
1か月前、仕事で洗濯機を持ったときに、両肩が痛くなったそうです。
近隣の鍼灸整骨院で鍼治療などをしていたそうですが、症状に変化はなかったそうです。
現在は、肩関節の運動痛があり、腹の着脱でも痛みが出るそうです。
右肩は寝返り痛で目が覚めるほど痛みが強いとのことでした。
左の写真は、初診時の外観写真です。
赤色×印で示した部分に、圧痛と痛みを訴えておられました。
左のレントゲン画像は初診時のものです。
レントゲンでは、骨には異常は見られませんでした。
痛みを訴えている場所は、外観写真と比較してもわかるように、
×印の烏口突起の部分に圧痛が見られます。
以上のことから、上腕二頭筋短頭の付着部に痛みがあので、
上腕二頭筋短頭付着部炎と診断し、診断の意味も兼ねてこの部分に注射を行いました。
注射の前は、肘を曲げたり、肘を曲げて重たいものを持つ動作で、強い痛みがあったのですが 、
注射後は、ほとんど痛みがなくなりました。
遠位上腕二頭筋付着部炎(肘の曲げる部分が痛い)
16歳の男性です。
右肘前面の痛みを訴えて来院されました。
テニス部に所属しており、練習でボールを打つと、
赤丸で囲んだ部分に痛みが出現するとのことでした。
肘関節を抵抗下で屈曲させたり、前腕を回外させると、痛みの再現が見られました。
レントゲンでは異常が見られなかったので、エコー検査を行いました。
赤矢印の部分は遠位上腕二頭筋の付着部です。
腱の断裂などは見られなかったので、遠位上腕二頭筋付着部炎であると判断しました。
16歳の男性です。
左肘前面の痛みを訴えて来院されました。
剣道部に所属しており、竹刀を振ると左肘前面が痛いとのことでした。
左の写真は、肘を前面から見たものです。
赤×印の部分に圧痛が認められました。
また、肘関節を抵抗下で屈曲させたり、前腕を回外させると痛みの再現性が見られました。
レントゲンでは、特に異常は見られませんでした。
以上のことから、遠位上腕二頭筋付着部炎であると判断しました。
66歳の男性です。
右肘前面の痛みを訴えて来院されました。
お仕事で、重量物を持ち上げることが多く、
1か月前から×印の部分が物を持つと痛むそうです。
左の写真は、肘を抵抗下で屈曲、回外させて痛みの再現をしている所です。
左側のレントゲンは肘を前から見たもので、右側のレントゲンは肘を横から見たものです。
赤矢印の部分は、上腕二頭筋付着部である撓骨粗面部で、
ここに骨棘のようなものが見られます。
この患者さんは、赤矢印の部分に注射をしたところ、痛みが消失しました。
繰り返す動作で起こる肘の痛みには、上腕骨外側上顆炎や上腕骨内側上顆炎などが多く見られますが、
今回ここでご紹介した「上腕二頭筋付着部炎」という疾患である場合もあります。
多くは、痛みが起こる原因がわかり、使う頻度を落としていただくことによって、痛みが緩和されてきます。
痛みが強い場合などは、注射を行う場合もあります。
もし、上の写真に出てこられた患者さんと同じ部分が痛む場合には、この疾患を疑ってみてください。