御子さんが急に腕が上がらなくなって痛がったので、病院に行ったら「肘が抜けていますよ」と言われた経験はありませんか?
肘が抜けると聞くと、あたかも関節が脱臼してしまって大変な状態ではないかと思ってしまいそうですが、
実際は、そうではなくて、今回このページで御紹介する「小児肘内障」であることが多いのです。
このページでは、良く遭遇するこの疾患についてご紹介し、
また併せて、この疾患と思われがちな紛らわしい疾患についても御紹介させていただきます。
上の写真は7カ月の赤ちゃんの例です。
本人は痛いと言うわけではありません(言えません)。
しかし、お母さんが何かしらのひょうしに肘を引っ張ったとたんに泣き出したそうです。
その後、右の腕を動かそうとしないということで心配になって来院されました。
これが典型的な「小児肘内障」の症状です。
こういった状態をみただけで、診察するまでもなく、「小児肘内障」ではないかと疑います。
小児肘内障の発生機序
成人の場合
小児の場合
上の図は肘関節を横から見た絵です。
左側は成人の場合の図ですが、手を回旋する動作に重要な役割を果たす橈骨頭の関節近くには、
輪状靭帯と呼ばれるバンドの役割を持った靭帯があります。
少々前腕を引っ張っても、輪状靭帯が橈骨頭からずれてしまうことはまずありません。
ところが、右の図にもあるように、小児の橈骨頭の形状は軟骨成分が多く、輪状靭帯も柔軟性に富んでいるので、
前腕を引っ張った状態になると、輪状靭帯が亜脱臼してしまい、肘の運動を妨げてしまいます。
これが「小児肘内障」の状態です。
小児肘内障の治し方
小児肘内障は来院されてすぐに処置することができます。
上の写真は左肘の肘内障の患者さんです。
左肘を下げているのがわかります。
まずは、どういう状態で急に腕を使わなくなったのかを親御さんにおたずねします。
そのエピソードから、はっきりと手を引っ張ったことがあるのならば、
小児肘内障を疑いますが、
そういったエピソードがはっきりしない場合には、
御子さんが肘や手をついいていたり、肘をぶつけている場合もあるので、
肘関節の周囲径(赤色矢印の部分)を測ります。
肘の周囲をぐるっとメジャーで測って、患側と健側の違いをみます。
明らかに腫れているようであれば、関節内での外傷を疑います。左右差がなかった場合には、「小児肘内障」であると判断して、
徒手整復に入ります。
左右差がなかった場合には、「小児肘内障」であると判断して、徒手整復に入ります。
上の図は、徒手整復動作を示しています。
一方の手で患者さんの橈骨頭部に触れながら、
もう一方の手で、前腕を捻る動作を入れつつ肘をわずかに曲げます。
輪状靭帯が元の位置に戻ったとき、橈骨頭に触れていた親指にクリック音が感じられます。
これで徒手整復動作が完了します。下の写真は実際に徒手整復を行う前と、行った後の患者さんの状態です。
整復前
整復後
整復後は、肘が曲がるようになり、腕を捻る動作もできています。
その後、特に固定などの処置も必要ありませんし、
リハビリも必要ありません。
処置を行った日は、お家で御家族の方に様子をみていただくようにします。
特に、それ以上の投薬や湿布などの必要はありません。
整復前
整復後
上の写真は、先程も見ていただいた赤ちゃんのものです。
徒手整復後、ちゃんと右腕が上がるようになって、指も吸えるようになりました。
良かったですね!
肘関節内で起こる骨折
上で御説明したように、ほとんどがすぐその場で治ってしまうのが「小児肘内障」なのですが、そうでない場合もあります。
そういった場合には、肘関節の中で骨折していることがあります。
外から見て、肘がいくらか腫れているので、骨折であろうと疑うことは十分可能です。
ですので、骨折を疑った場合には、念のため、ギプスを巻く場合もあります。
以下では、当院に来られた肘関節内の骨折の患者さんの例を御紹介します。
6歳の男の子です。
手をついて、受傷した肘関節内の骨折の方です。
赤い丸で囲んだところが、健側と比べると形が若干違うのがわかります。
正面のレントゲン写真では、矢印で示したところあたりに
わずかな亀裂が入っていました。
このことから、上腕骨顆上骨折と考えて、
ギプス固定を行いました。
ギプスを3週間ぐらいして、その後、リハビリを行いました。
2ヶ月後の時点でのレントゲンでは、変形は残っていませんでした。
同じく2ヶ月後のレントゲン写真で、
健側と患側を比べても、ほとんど差がみられないぐらいになりました。
このように、肘関節内での骨折は、
レントゲンでほんの少しの違いしか出ないものも あるので、
最初、なかなか発見しづらいものもあります。
8歳の男のです。
肘関節の動きがおかしいので、来院されました。
2年前に、肘関節内の骨折をして、
別の病院で固定とリハビリを受けておられたのですが 、
その後、肘関節の動きをもっとよくしたいという目的でリハビリをするに当たり、肘の曲げ伸ばしをどこまでできるようになるのかを当院に相談に来られました。
上のレントゲン写真で健側は左の図のように
上腕骨小頭と呼ばれる丸い部分が正常な位置にあるのですが、
患側では、ちがった写り方をしているので、
骨折後、骨が変形して癒合してしまったことがわかります。
別の角度からレントゲンを撮ってみると、
橈骨頭の変形がはっきりと写っていました。
おそらく、2年前は橈骨頭周辺の骨折がわかり、
ギプス固定の処置を受けておられたと思うのですが、
その他の上腕骨小頭にも何らかの骨折が及んでいたのではないかと推測されました。
この方は、しかるべき肘の専門医に御紹介させていただきました。
小児肘内障は子どもさんが腕を使わなくなるということでわかる場合が多い疾患です。
おかしいなと思ったら、すぐに処置することで、すぐに治る疾患です。
ですので、子どもさんの腕が上がらない、おかしいなと思ったら、すぐに御来院ください!