爪が当たったり、触れたりすると痛い病気に、爪下グロームス腫瘍があります。
しかし、グロームス腫瘍は爪下以外にも手指の指腹部、足趾の爪下や、趾腹部と様々な部位に発生します。
今回指腹部に生じたグロームス腫瘍と爪下グロームス腫瘍との違いを実際の症例をご覧いただき、
詳しくご説明していきたいと思います。
指腹部のグロームス腫瘍の特徴
指腹部に発生するグロームス腫瘍の特徴は、爪下に発生するグロームス腫瘍の特徴と同じで、
指腹部にピンポイントで押さえると痛みがでたり、
冷たい水の中に手を入れると痛みが出る「冷水テスト」でも症状の再現が見られます。
ピンポイントで押さえると痛い
冷水テスト
しかし、爪下のグロームス腫瘍では爪下にできるグロームス腫瘍が目で確認できたり、
爪が割れるなど外観での変化が見られますが、
指腹部の場合は、外から見ても腫瘤などが見えないことが相違点です。
そのため、指腹部のグロームス腫瘍は診断がつくまでに時間がかかることがあります。
指腹部の場合どこが痛くなる?
指腹部の場合、どこに痛みを感じやすいかというと、神経の走行上、下の図の青色丸印で囲んだ部分に痛みを感じやすくなります。
赤色丸印の部分は、神経の走行上痛みを感じにくい場所であるといわれています。
指腹部グロームス腫瘍のエコー画像
以下の図は、爪下グロームス腫瘍と指腹部グロームス腫瘍のエコー画像を比較したものです。
赤色矢印で示した部分がグロームス腫瘍です。
爪下グロームス腫瘍
長軸
短軸
指腹部グロームス腫瘍
長軸
短軸
どちらの画像も変わりがないように見えますが、爪下グロームス腫瘍の場合は、
腫瘍の下部は末節骨があり、上部は爪があるため、狭い隙間に腫瘍が存在します。
そのため、爪下グロームス腫瘍の場合、エコー画像の長軸・短軸どちらを見ても、
腫瘍自体が狭いところにあるので、横に広く平らになっていることがわかります。
それに比べて、指腹部グロームス腫瘍のエコー画像は、腫瘍が挟まれているわけではないので、
指腹部グロームス腫瘍のエコー画像の長軸・短軸どちらも、球状の腫瘍の存在が確認できます。
同じ腫瘍であっても、発生する場所が違うと、エコーで見る形状は少し違っていることがわかります。
グロームス腫瘍の形状の違い
上記で述べたように、爪下部と指腹部グロームス腫瘍のエコー画像ではグロームス腫瘍の形状に違いがあります。
では、実際に手術で摘出された腫瘍を比較した写真が以下のものです。
爪下
指腹部
爪下グロームス腫瘍は、やや扁平な形状をしており、爪下と末節骨に挟まれていたエコーの画像と一致しています。
それに比べ、指腹部グロームス腫瘍は先ほど見たエコー画像のように腫瘍自体が球状になっていることがわかります。
治療は、痛みがあるものに対しては、取り除くための手術が必要です。
当院では、日帰りで行える手術を行っております。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
46歳の女性です。
右環指の痛みを訴えて、来院されました。
5年前より、指腹部に物が触れると痛みが出るそうです。
9ヶ月前より、痛みが強くなって、自転車のブレーキが握れないそうです。
こちらの写真は初診時のものです。
赤色矢印で示した部分にピンポイントで痛みを訴えておられました。
こちらのレントゲン画像は初診時のものです。
横から環指を撮影したものですが、赤色矢印で示した部分に痛みを訴えておられます。
しかし、骨に異常は見られませんでした。
こちらのレントゲン画像は手を上から撮影したものです。
赤色矢印部分に痛みを訴えておられましたが、こちらでも異常は見つかりませんでした。
こちらの画像は、初診時のエコー画像です。
赤色矢印で示した部分に黒く軟部腫瘍があることが認められます。
症状としては、ピンポイントで押さえると、ずきっと痛みがあり、冷水テストでも痛みが出たことから、指腹部グロームス腫瘍であると判断し、当院で日帰り手術を行うことにしました。
こちらの写真は、手術時のものです。
赤色矢印で示した部分に直径5mm大のグロームス腫瘍があり、グロームス腫瘍を摘出しました。
腫瘍は直径5mm大で、球状体の物が摘出されました。
〜症例2〜
35歳の女性です。
右の小指の痛みを訴えて来院されました。
1年前から痛みがあるそうです。
触れたり、冷えると痛みが強くなるそうです。
冷水テストでも、痛みの再現性が出ました。
こちらの写真は初診時の外観です。
赤色矢印で示した部分が触れると痛いそうです。
こちらのレントゲン画像は初診時のものです。
赤色矢印で示した部分が痛みを訴えていた場所ですが、レントゲンでは特に異常は見られませんでした。
こちらのレントゲン画像は指を横から撮影したものです。
赤色矢印で示した指腹部側に痛みを訴えていますが、特に骨などに異常は見受けられません。
こちらのエコー画像は初診時のものです。
赤色矢印で示した黒い部分に軟部腫瘍が認められました。
理学所見と、画像所見から、指腹部グロームス腫瘍であると判断したため、翌日手術を行うことになりました。
こちらの写真は手術時のものです。
赤色矢印で示した部分に小さなグロームス腫瘍が確認できました。
日帰り手術で、グロームス腫瘍を摘出しました。
こちらの写真は、手術で摘出したグロームス腫瘍です。
小さくて球状のグロームス腫瘍が摘出できました。
62歳の女性です。
左母指のい痛みを訴えて、来院されました。7年前より痛みがあるそうですが、2ヶ月前より痛みが強くなり病院を受診されましたが、原因がわかないと言われたそうです。
左母指腹部分(左の☓印の部分)にものが触れると痛いので、なるべく患部の痛みが出ないように過ごしておられましたが、日常生活上に支障があったため相談に来られました。
左のレントゲン写真の矢印の部分が、腫瘍により骨侵襲を受けていることがわかりました。
左の写真は、別の角度で撮影したレントゲン画像です。末節骨の一部が骨侵襲を受けて、一部空洞化していることがわかりました。
左の写真は、超音波画像です。矢印の部分に低エコー像を認めます。
左の写真は、MRI画像です。矢印の部分に母指の指腹分部に一致して、腫瘍を疑う輝度変化を認め、骨組織にも同様に輝度変化を認めました。
左の写真は、別の角度で撮影をしたMRI画像です。矢印の部分で末節骨に侵入する腫瘍組織と思われる所見を認めました。
その後、当科にて腫瘍摘出術を行いました。摘出した腫瘍組織は、病理組織学的検査にてグロームス腫瘍と確定診断ができました。手術後の経過としては、術創部周囲の感覚低下が生じていましたが、触れないように工夫することで徐々に回復してきました。また、手術前に認めた患部の痛みは、約2ヶ月で消失していました。
爪下のグロームス腫瘍は比較的見ただけで腫瘍だということがわかりますが、
指腹部グロームス腫瘍の場合には、外見からわかりにくいため、
医療機関を受診しても長期間わからないままになっていることがあります。
いつまでも原因不明の指腹部(指先)の痛みで、悩んでおられるときには、
このページにある指のグロームス腫瘍を疑って、お近くの医療機関を受診してみてくださいね!