膝関節の外傷のなかで比較的良く遭遇する疾患に「内側側副靭帯損傷」があります。
膝の内側を支える靭帯がスポーツなどによって伸びると、膝の側方動揺性が生じてしまいます。
このページでは、膝の内側側副靭帯損傷が、どういった疾患で、
その治療はどういったことを行うのかという事についてご覧いただきたいと思います。
膝の内側側副靭帯とは?
上の図の、赤字で示している部分が内側側副靭帯です。
膝関節は脛骨の上に大腿骨が乗るような構造上、安定性を保つには各靭帯に支えてもらわなければなりません。
中でも、内側側副靭帯は側方動揺性を保つので、スポーツ動作の中でカットを切る、
すばやく方向転換をするなどの動きに重要となります。
膝の内側側副靭帯を痛めた場合には、下の写真の×印(大腿骨内顆)のあたりを押すと痛みを強く感じます。
膝の内側側側副靭帯損傷とは?
内側側副靭帯損傷は、その程度によりⅠ~Ⅲ度に分類されています。
Ⅰ度は、小範囲の線維の損傷で、膝の不安定性を認めないものです。
Ⅱ度は、軽・中等度の膝の不安定性を認めますが、靭帯は完全断裂には至っていないものです。
Ⅲ度は、靭帯組織が完全に断裂したものです。
それぞれ、治療法が異なりますが、完全に断裂したものは、時には骨折も伴う事もあります。
損傷しているかどうかを確かめるには?
膝の内側側副靭帯損傷を調べるのに「外反ストレステスト」があります。
上の写真のように、右膝であれば、左手で膝の外側を、右手で足関節の内側を把持し、
赤色矢印の方向に抵抗を加えます。
腱側との比較で、側方動揺性が認められれば、内側側副靭帯損傷であるとわかります。
実際に、外反ストレステストを行った状態でレントゲン撮影を行ったものが下の写真です。
左側の写真はストレスをかけていない状態の膝関節の写真です。
右側の写真は外反ストレスをかけた状態の膝関節の写真です。
赤色矢印の示している内側の関節裂激が開大していることがわかります。
以下が、実際に外反ストレステストを行っている動画です。
膝の外反ストレステスト
膝の内側側副靭帯損傷を調べるテストが外反ストレステストです。
足関節の内側と膝関節を軽度屈曲位で、外側を把持し、抵抗を加えます。
外反ストレステストで側方動揺性が認められた場合、Ⅱ度以上の損傷であるということがわかります。
膝の内側側副靭帯損傷の画像診断
以下の写真は、右膝のMRI画像です。
左の写真は正常な膝の写真です。
正常であれば、青色矢印で示した部分に内側側副靭帯が描出されます。
それと比較して、右側のMRI画像では、赤色矢印で示したところが、血腫と思われる高輝度の変化があり、
内側側副靭帯の損傷が起こっている事がわかります。
MRIでは内側側副靭帯損傷だけでなく、半月板や前十字靭帯などの合併損傷の有無を確認するために有効な検査です。
また、簡易な検査として、エコー検査で内側側副靭帯損傷を調べることができます。
エコーでは、膝の内側に下の写真で示した赤色の線に沿ってプローブを当てて画像検査を行います。
左のエコー画像では、赤色矢印で示す部分に内側側副靭帯がきれいに描出されているのに対し、
右のエコー画像では、赤色矢印で示す内側側副靭帯の線維が乱れ、腫脹が認められます。
このように、レントゲン画像だけでなく、MRIやエコー検査で内側側副靭帯損傷の有無や、
合併損傷を調べ、、治療の方針を決めていきます。
膝の内側側副靭帯損傷の治療は?
膝の内側側副靭帯損傷の単独損傷であれば、基本的に手術をせずに治療を行います。
受傷直後は、腫脹があるため、ギプスやギプスシャーレなどの固定を1週間から10日程度行います。
ギプス固定後は、装具の固定に切り替え、痛みのない範囲で運動療法を始めていきます。
装具は、損傷程度にもよりますが、4~6週程度を目安に装着します。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
26歳の男性です。
右膝の痛みを訴えて、来院されました。
サッカーをしていて、外側より人がぶつかってきて、受傷されたそうです。
左の写真は、初診時の右膝の外観写真です。
赤色矢印で示した膝の内側が腫れているのがわかります。
膝の内側側副靭帯の付着部(大腿骨側)に圧痛があり、
外反ストレステストを行ったところ、側方動揺性が認められました。
同時に行った、他の靭帯や半月板の理学検査では、
特に異常は見られませんでした。
レントゲンで、外反ストレス撮影を行ったところ、
膝の内側関節裂隙の開大が認められました。
以上のことから、膝の内側側副靭帯の単独損傷であると判断し、
ギプス固定を2週間行いました。
その後は、膝の装具へ切り替え、運動療法を開始しました。
23歳の男性です。
右膝の痛みを訴えて来院されました。
スキーをしていて、転倒し、右膝が外反強制されたとのことです。
左の写真は初診時の外観写真です。
腫れと痛みのため、膝を完全に伸ばしたり曲げたりできません。
左の写真は初診時のレントゲン写真です。
骨折などはありませんでしたが、×印の部分に圧痛が認められ、
内側側副靭帯損傷を疑いました。
外反ストレステストでも不安定性を認めたので、
内側側副靭帯損傷であることは判断できたのですが、
腫れと痛みが強かった事から、
前十字靭帯損傷や半月板損傷の合併の有無を調べるために
MRI検査を行う事にしました。
MRIでは前十字靭帯や半月板に以上は見られず、
赤矢印で示した内側側副靭帯の部分に
血腫と思われる高輝度変化が認められ 、
内側側副靭帯の単独損傷であることがわかりました。
左の写真はエコー画像です。
赤色矢印で示した内側側副靭帯の付着部(大腿骨内顆)に
血腫と思われる低エコー像が認められました。
約2週間ギプス固定を行い、
その後、装具固定に切り替え、
可動域訓練からリハビリを開始していただきました。
膝の内側側副靭帯損傷は、基本的に手術をせずに治せる疾患です。
また、膝の内側側副靭帯の治療を行うに当たっては、
半月板や前十字靭帯などに合併損傷がないかどうかをきちんと見分けることが大切です。
リハビリは、膝の装具を装着した状態で、比較的早期に動かしながら、治療を行っていきます。
合併損傷を伴っている場合には、治療方針が異なってきますので、
膝の内側を痛めた場合には、早い目に病院を受診されることをお勧めいたします。