膝のオーバーユース(腸脛靱帯炎・腸脛靱帯付着部炎・鵞足炎・大腿二頭筋付着部炎・膝蓋靭帯付着部炎)

ランニングや、本格的な陸上競技をされている方々など、
走るということに関して一生懸命になっておられる方は、
ついつい膝のオーバーユースをおこしがちです。

一見、膝の痛みなので関節の中に原因があるように思われがちですが、
実は、関節の周りにある筋肉や靭帯の炎症であることが多いのです。

ですので、膝の周りに起こりうるオーバーユース症候群(使いすぎ症候群)について、
以下で御紹介していきたいと思います。

上で示したピンク色の丸印は、主に走ることによって使う筋肉の付着部を示しています。

使いすぎによって炎症を起こすと、上で示した部分が痛みます。

以下で、詳しくそれぞれの疾患について見ていきましょう。

腸脛靱帯炎

左の図は、腸脛靱帯の走行を表しています。

骨盤の横から大腿筋膜張筋として始まった筋肉は、
途中で腸脛靱帯に移行し、腿の外側を走って、
膝の外側を通り、脛骨(向こうずねの骨)に付きます。

股関節と、膝の関節にまたがる靭帯なので、
繰り返す足の曲げ伸ばしの運動の際に、
赤丸印で示したあたりで痛みが生じます。

特に、下の赤丸部分で痛みが出る頻度が高いのが特徴です。

実際の痛みが発生するメカニズムは、膝を伸ばしたとき大腿骨の隆起部分のやや前方部にある腸脛靱帯が
後ろ側に移動するときに、
大腿骨の出っ張りの部分とこすれるような状況となって、
炎症をおこしてしまいます。

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

17歳男性、陸上部所属の方です。

左ひざ外側の痛みを訴えて御来院になりました。

膝を伸ばした状態の時には腸脛靱帯(赤色矢印)が
大腿骨外顆(緑色矢印)の前に移動しています。

しかし膝を曲げた時には
腸脛靭帯が外顆の後ろへ移動します。

後ろへ移動するときに痛みが生じます。

御本人の話では、試合も近いので、練習量が増え、
それが原因で痛みが発生したことがわかりました。

ですので、ストレッチ指導や、
股関節周囲や膝周囲にある筋肉のマッサージなどを続けて、
通院して様子を見るように指導しました。

初診から2週間で、屈伸時の痛みは治まりました。

痛みが治まった時点で練習復帰しましたが、
徐々に練習量をあげていくように注意しました。

腸脛靱帯付着部炎

左の図は膝を正面から見たものです。

腸脛靭帯の付着部は赤丸部分で示したように、
脛骨の外側になります。

繰り返し外力を受けたり、直接の打撲などにより、
付着部で炎症を起こします。 

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

左の写真は付着部で炎症を起こした方の初診時の外観です。

半年前ぐらいから、マラソン大会を走った後に、
膝の外側が痛くなるということで来院されました。

赤矢印の部分を押さえると、圧痛がありました。 

両膝ともに、痛みを訴えておられましたが、
右の腸脛靭帯付着部の方が強く痛みを感じておられました。

左右のガーディー結節部を見比べてみると、
右の方が腫脹が強く見られました。

特に、右膝の外側が痛みが強いということで、所見をとってみると、ガーディー結節部に圧痛がありました。

処置としては、注射で痛みが軽減するかどうかを試しました。

この方は、マラソン歴が10年で、月150km走りこんでおられました。

そういったことから、問診と所見から考えるに、
腸脛靭帯付着部炎であると考えました。

患部のレントゲンを撮ったところ、
右膝には若干の関節症変化が見られましたが、
今回痛みを訴えておられるところとは関係がないと判断しました。

そこで、腸脛靭帯の付着部付近をエコー検査で確認してみたところ、右膝の腸脛靭帯の付着部付近では、
靭帯実質の部分が厚みを増していることから、
腫れて炎症を起こしているのではないかと考えられました。

処置としては、患部に一時的な処置として、痛み止め注射をし、 足底板を処方して、ランニングシューズに入れてみていただくことで、経過をみることにしました。

鵞足炎(がそくえん)

左図は膝を正面から見たものです。

縫工筋と薄筋と半腱様筋を3つ合わせて束になったところを「鵞足」といいます。

脛骨と鵞足をつなぎ止めるところは、
滑液包と呼ばれるクッション材が存在して、腱を摩擦から守ります。 

付着部に腱が繰り返し引っ張り合う力が働くことで、
鵞足自体が炎症を起こしたり、周辺にある滑液包が炎症を起こして、痛みが生じます。

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

15歳のバスケットボール部所属の男性です。

練習を毎日していて、走ると膝の内側が痛みだしました。

黄色の矢印部分を押すと痛みがあり、屈伸時にも痛みがありました。 

赤矢印のところに若干腫れがありましたが、
関節全体には腫れがありませんでした。

横から見てみると、
鵞足部(赤矢印の部分)に腫れがあることがわかりました。

この方も、練習量が増えてきて、痛みが生じてきました。

特にジャンプ時に痛みが生じるとのことで、ジャンプを控えて、練習量を減らして様子を見るようにしました。

そうすることで、だいたい2週間ぐらいで痛みも消失し、
徐々に練習に復帰しました。

大腿二頭筋付着部炎

左の図は膝を外側から見たものです。

大腿二頭筋は腓骨に付着しており、膝を曲げるときに働きます。

繰り返し膝を曲げ伸ばしすることが続くと、赤丸印の部分で炎症が生じます。 

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

26歳男性、右膝の外側に痛みを覚えて来院されました。 

前日の運動会でリレーを走った時に倒れそうになって踏ん張った時に、膝の外側に痛みを覚えたそうです。

レントゲンを撮っても異常所見はありませんでした。

実際痛い場所を確認してみると、
腓骨頭と呼ばれる膝の外側の隆起部分(×印の部分)に痛みがありました。

この部分は大腿二頭筋という膝を曲げるときに使う筋肉がついています。

膝を曲げる力を入れた時、×印の部分で痛みが増強しました。

ですので、ここで炎症が生じていると判断されました。

この方の場合は使いすぎではありませんが、
ストレッチ不足でこのような炎症が生じたのだとわかりました。

ですので、ストレッチをして、湿布を貼り様子を見ました。

約1週間で痛みは消失し、日常生活に戻れました。

膝蓋靭帯付着部炎

左の図は膝を横から見たものです。

膝蓋靭帯は膝蓋骨の下で引っ張り合う力が生じると、
付着部で炎症を起こすことがあります。
(青丸印の部分)

中には、骨の一部がはがれるようになって、
小さな骨片を伴うこともあります。

また、膝蓋靭帯そのものが炎症を起こす場合もあります。
(赤丸印の部分) 

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

14歳の男性で、バレーボール部所属の方です。

黄色矢印の部分に痛みを覚えて来院されました。

夏休み中、練習量が増え痛みが出たそうです。

膝を横から見てみると、
黄色矢印の部分が特別腫れているわけではないのですが、 
押さえると強い痛みがありました。

ですので、膝蓋骨の下の部分(膝蓋靭帯の付着部)での炎症であると考えました。

上の写真と同じような角度からレントゲンを撮ってみると、
左の写真(患側)の膝蓋骨の下縁はくちばしのようにせり出していて、
小さな骨片のような映像がありました。(黄色矢印の先部分)

右の健側のレントゲンと比べてみると、
膝蓋骨下縁部分の違いがよくわかります。

ですので、度重なる膝蓋靭帯のけん引力によって、
膝蓋骨下縁で軟骨がはがれて来て炎症が起こったのだとわかりました。

ですので、運動の直後にはアイシングをして炎症を押さえ、
運動の前後にはストレッチを行うように指導しました。 

以上の疾患の治療としては、運動直後にアイシングをして、炎症を最小限にし、
運動の前後に必ず膝周りのストレッチを行うようにします。

また、走る場所、路面などの工夫も必要ですし、靴も変えることで痛みが変わってきます。

もう1つの方法としては、
膝のアライメントを微調整して変えるために、足底板を入れて調整します。

以上のような治療を行えば上記の疾患はほとんどの場合治ります。

膝の周りが痛い時には我慢せず、専門医に御相談ください。

早期治療が早期治癒につながります!

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