膝離断性骨軟骨炎(スポーツ中に膝がガクっとなるのは、なぜ?)

スポーツをしているお子さんで、膝の痛みを訴えて困っておられる方はいませんか?

小学校高学年〜中学生の男の子でしゃがむことが痛かったり、時には膝がガクッとくずれる様な症状はありませんか?

膝のスポーツ障害の中では、それほど多い疾患ではありませんが、長引く膝の痛みの原因は「膝離断性骨軟骨炎」の可能性もあります。

このページでは、膝の離断性骨軟骨炎について説明していきたいと思います。

離断性骨軟骨炎ってどこに発生するの??

上の図は、膝関節を前から見た図と横から見た図になります。

膝離断性骨軟骨炎は、大腿骨内側顆に最も多く(赤丸で囲んだ部分)、本疾患の約7割がこの部位に発生しているとの報告があります。次いで、外側顆、膝蓋骨軟骨面にみられます。

どのようにして離断性骨軟骨炎が起こるの?

膝離断性骨軟骨炎は、活動性の高い10〜15歳の骨端線閉鎖前の少年男子に多い疾患です。

上の写真は、膝離断性骨軟骨炎のお子さんのレントゲン写真です。

赤い丸で囲んだ骨の一部分が、少し透けて写っています。これが、膝離断性骨軟骨炎の画像所見です。

成長軟骨である、骨端線が残存すこの年代では、関節の軟骨は柔らかく、繰り返す刺激に耐える力が弱いとされています。

上の写真は、膝の曲げ伸ばしをした際に、大腿骨内側顆がどの位置にあるかを示したものです。

このようにスポーツ活動の中で、繰り返すジャンプ動作や膝を曲げて行う動作が続くと、関節内の軟骨に剪断ストレスが加わり続けることで、骨と軟骨の一部が離れていくことになります。

これが膝離断性骨軟骨炎の発症要因と考えられています。

この疾患は繰り返し刺激が加わることで発生するため、一度の外傷のように症状が即、現われるわけではありません。

そのため、痛みや膝の違和感を訴えて病院を受診される頃には、病気がやや進行してから発見されるケースが多いようです。

よって、膝離断性骨軟骨炎は実際の発生時期を知ることは難しいとされています。

ー離断性骨軟骨炎の病期分類ー

以下の図は、レントゲン写真をもとにした膝離断性骨軟骨炎の病期分類です。

単純レントゲン画像では病巣は不明ですが、CTなどの断層画像では病巣の確認ができます。

レントゲン画像で一部、骨が透けて見えます。

一部、骨が透けて見える部分に境界線が見えます。

分界線がより明瞭となり、骨片が一部、剥がれているように見えます。

骨片が完全に母床から遊離して見えます。

MRI画像で他の疾患との鑑別をします

膝離断性骨軟骨炎に対して、MRI画像を撮ります。その理由は、離断性骨軟骨炎の病巣がどこまで進んでいるかを確かめるためです。また、半月板損傷や他の部位の疾患を除外する目的もあります。

上の写真のように、レントゲン画像ではどの程度の範囲で病巣が広がっているかがわからなくても、MRI画像でははっきりと確認ができます。(赤い丸で囲った部分)

以下で、実際の症例をご紹介していきます。

〜経過観察のみでスポーツ復帰ができた症例〜

13歳の男性です。

右膝の痛みを訴えて来院されました。

1年前より、特に誘因なく痛みが生じ、部活動を継続しておられました。

しかし、走ったり、しゃがみ込むと痛みが強く出てきたので受診されました。

右膝関節の腫れはほとんどありませんが、大腿骨内側顆付近に圧痛を認めました。(✖️印の部分)

このレントゲン写真は、初診時のものです。

立位で撮影した画像所見では、大腿骨内側顆に骨透亮像と一部分が骨硬化していました。(赤い丸の部分)

初診時の時点で、病巣部がどこまで広がっているかを確認した上で、保存療法で経過を見ていくかどうかを検討する目的で、MRIを撮影しました。

また、離断している骨片はどの位置にあるかを詳細に確認する目的で、CTも撮影しました。

以上の所見から、骨片は母床に接していて、完全に遊離していないため、経過は長いかもしれませんが、骨癒合をする可能性も残されていると判断しました。

このレントゲン写真は、初診から5ヶ月経過した時点のものです。

初診時に、白く骨硬化していた部分がなくなり、透亮していた範囲も小さくなっていました。(赤い丸の部分)

このレントゲン写真は、初診時より8ヶ月の時点でのものです。

当初、透亮していた部分が骨癒合し、はっきりと骨の輪郭が確認できました。(赤い丸の部分)

この画像は、初診時と8ヶ月後のCTを比較したものです。

いずれの角度からでも、完全に骨片が癒合しているのが確認できました。

3DのCT画像では、初診時に窪んでいた大腿骨内側顆の部分が、8ヶ月後には滑らかになっているのが確認できました。

この時点で、スポーツへの復帰を許可しました。

12歳の男性です。

左膝の痛みを訴えて来院されました。

週に2回、野球の練習をしている最中に膝の曲げ伸ばしで痛みがあり、練習後も鈍痛が続いていたのでコーチの紹介で受診されました。

この写真は、初診時に立位で撮ったレントゲン写真です。大腿骨の内側顆が一部が透けて見えていました。(赤矢印の部分)

同じく、立位で膝を曲げた状態で撮影したレントゲン画像では、より骨が透けて見える部分がはっきりと確認できました。

よって、膝離断性骨軟骨炎と診断しました。

後日、撮影したMRI画像では病巣は骨軟骨が剥がれることなく、元の位置に存在していたため、保存療法で経過をみることにしました。

治療としては、野球の練習を休止することのみで、日常生活では特に制限をすることはありませんでした。

この写真は、初診から4ヶ月後のレントゲン写真です。

膝の痛みはなくなり、病巣部は徐々に修復していました。(赤矢印の部分)

しかし、引き続き、野球の練習は休止してもらいました。

この写真は、初診から6ヶ月後のレントゲン写真です。

病巣部は以前と比べて、さらに修復されてきました。(赤矢印の部分)

この写真は、初診から8ヶ月後のレントゲン写真です。

病巣部は完全に修復されたので、この時点でスポーツ復帰を許可しました。(赤矢印の部分)

この方はその後も中学、高校と野球部に所属され、プレーに支障をきたすことなく過ごされました。

〜手術療法にて長期に渡り、スポーツができた症例〜

膝離断性骨軟骨炎で病期ステージが進行し、長期に渡る痛みや引っかかり感が続く場合は、手術療法を選択することもあります。

軟骨組織には、もともと血管がないため、一旦損傷を受けるとそれを治すための細胞や細胞を栄養する血流も供給されません。

そこで、障害部位に小さな穴をいくつか掘って出血を促し、癒合を促進させる「ドリリング」という手術方法があります。

また、軟骨部分が不整になっている場合は、自身の骨軟骨を移植するという手術法もあります。

では、実際に手術を行って長期間に渡り、スポーツができた症例をご紹介します。

13歳の男性です。

右膝の外側の痛みと屈伸時の痛みで来院されました。

このレントゲン写真は、初診時のものです。

正面から見た画像では、はっきりとわかりにくいですが、側面から見た画像では、右の大腿骨外側顆に不整像が見られました。(赤矢印の部分)

そこで、患部の病態を詳しく調べるためにMRI撮影をしました。

この画像は、右膝の前額断ですが、大腿骨外側顆に輝度変化が見られました。

以上のことから、膝離断性骨軟骨炎と確定されました。

約1ヶ月間はスポーツ活動を休止していただきましたが、膝の痛みが変わらず、病巣が広範囲であったため関節鏡視下で手術を行いました。(ドリリング術)

この写真は、病巣部の状態を確認しているところです。軟骨表面が軟化しているのがわかります。(赤矢印の部分)

手術後、しばらくは膝の痛みはなかったのですが、再び膝の痛みと腫れが生じたため、再度受診されました。

このレントゲン写真は、術後約1年でのものです。

大腿骨外側顆の関節面は、やや不整であったので関節面を修復する目的で、膝の専門医へと紹介となりました。

このレントゲン写真は、自家骨軟骨移植術(モザイクプラスティ術)を施行してから術後7年が経過したものです。

関節の隙間も保たれており、痛みもみられませんでした。(赤矢印の部分)

このように、2回の手術を経て中学〜大学在籍中までスポーツが継続できました。

膝離断性骨軟骨炎では、骨端線閉鎖以前に発見された症例では、のちに関節症が発生する頻度が少ないとされています。

以上のように、早い段階で本疾患を発見し、治療を開始することで経過観察のみで治ることも期待できます。

お子さんが長引く膝の痛みを訴えておられることがありましたら、一度お近くの整形外科へ受診することをお勧めします。

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