腰痛の原因の中でも、脊椎圧迫骨折以外にも、骨折が原因で腰痛になる場合があります。
その代表的なものが、今回御紹介する「腰椎横突起骨折」です。
この骨折は、落馬などで高所から落ちたり、スポーツ中に転倒し強く腰を打ったりしたときに起こります。
ぎっくり腰程度に思っていたら、いつまでも痛みが引かず、実は骨折していたということもあります。
そこで、このページでは「腰椎横突起骨折」について御紹介し、
いち早く、この骨折を発見し、治療につなげていただければと思います。
脊椎周辺の筋肉
お腹側から見た脊椎周辺の筋肉
大腰筋は脊椎の横突起から股関節を超えて、大腿骨に付着します。作用としては、椅子に座った姿勢から、膝を上にあげる動作や、足が固定された状態で、体を起こすような場合に働きます。また、脊椎を支えるというような意味で、姿勢保持にも役立ちます。
背中側から見た脊椎周辺の筋肉
腰方形筋は、下部肋骨と脊椎の横突起から骨盤にまたがる筋肉です。作用としては、体を横に傾けるときに働きます。
以上のように、脊椎の横突起周辺には体幹を支える、あるいは姿勢保持に関する重要な筋肉が付着しています。
強力な外力によって無理な方向に筋肉が収縮を余儀なくされた場合、横突起部での骨折が生じます。
症状としては、外傷をきっかけとした急な腰痛、脊柱起立筋の異常な緊張、
座位で膝が痛くて上げることができないなどの症状があった場合、この疾患を疑います。
以下で、実際の患者さんについて御覧いただきたいと思います。
「呼吸も辛いぐらい痛みが強くて、肋骨骨折と鑑別が必要だった例」
40代の男性です。
歩行中に、雪で滑って転倒し、腰を打って受傷されました。
受傷後は、呼吸ができないほど痛くなったため、
肋骨の骨折ではないかと思って、しばらく様子を見ておられましたが、痛みがあまりにもひかず、腰も痛いので来院されました。
左の写真は、受傷後4日のものです。
このとき、赤矢印で示した部分に強い圧痛がありました。
患部の所見をとってみると、左側の脊柱起立筋が非常に硬く張っていました。
この症状は、脊椎に何らかの病変があった場合に、
筋肉がその部分を保護しようとするような仕組みが働き、
反射的に筋肉が一枚の板のように緊張する現象です。
このことから、腰椎横突起骨折も疑いながら、レントゲン写真をとってみました。
レントゲン写真では、周囲の腹部臓器の画像と重なって、
はっきりと骨折線が入っているとは言えませんでした。
しかし、疑わしい所見があったので、確定診断をするためにCT撮影を行いました。
すると、第2腰椎と、第3腰椎の横突起に骨折が認められました。
この3DCT画像は、お腹面から見たものです。
こちらは背中側から見た3DCT画像です。
こちらでも、はっきりと骨折している部位が見られました。
最初に圧痛を確認した場所とほぼ一致していたので、
今回の腰痛の原因が腰椎横突起骨折によるものであるとわかりました。
左の写真は、第2腰椎を輪切りにしたものです。
赤丸で囲んだ部分に骨折が見られます。
骨が折れてしまって、前後にずれていることがわかります。
第3腰椎も同じく骨折していました(赤丸で囲んだ部分) 。
この方の治療としては、腰への負担を軽減する目的と、
腰の運動動作の制限を目的としてコルセットを処方しました。
これによって、痛みは軽快してきました。
「腰椎分離症との鑑別が必要だと思われた例」
16歳の女性です。
バスケットボール部の練習中に人が腰にぶつかり、転倒し受傷されました。
受傷したのは1か月前で、以前から腰の痛みもあったので、
それがひどくなった程度だと思ってクラブは続けておられました。
しかし、前にかがんでも痛く、なかなか痛みが引かないので、来院されました。
レントゲン写真では、腰椎横突起骨折を疑う所見が見られましたので、CTで確定診断することにしました。
CTを撮影してみると、第3腰椎の右の横突起に骨折が見つかりました。
よくみると、骨折部分の周囲に仮骨が形成されており、
骨折の治癒過程だったことがわかりました。
別の角度から見てみると、骨折部は完全に骨で埋まりきってはいませんが、白い点状の仮骨が確認できているので、
今後は時間をかけて骨癒合して行くものと思われました。
こちらは、お腹側から見た3DCTの画像です。
赤色矢印の先の部分に仮骨ができて、少し盛り上がってきていることがわかります。
背中側から見た3DCT画像でも、仮骨が確認できます。
この方は痛みが強い間はコルセットを使って腰を保護し、
痛みが増強しない範囲で、バスケットボールの練習を続けていただくことにしました。
「他院では問題ないと言われ、当院で発見できた例」
50歳の女性です。
10日前にマンションの階段を下りていて、雨で滑って後ろ方向へ転倒し、その際、腰と臀部を強く打ったそうです。
救急病院でレントゲンを撮ってみましたが、問題ないと言われ、さらに、近隣の病院でも診てもらわれたそうですが、その後、痛みが続き、寝返り時の痛みもあったので、当院へ来院されました。
初診時のレントゲン写真でも腰椎横突起部分に骨折線らしき像が見られたので、確定診断のためにCT撮影を行いました。
CTを撮ってみると、1つの椎体の横突起骨折だけではなく、
複数の椎体に横突起骨折が認められました。
左のCT画像は、第2腰椎を輪切りにしたものです。
赤い丸で囲んだところにはっきりと骨折が見えます。
左のCT画像は第3腰椎のものです。
こちらも赤丸で囲んだ部分に骨折が見えました。
こちらは3DCT画像です。
赤色矢印の先に、骨折線が見えています。
このように、腰椎横突起骨折では、
付着している筋肉の作用により複数の横突起が骨折するケースが多くみられます。
1ヶ月後の症状確認では、
ほとんど痛みもなく、日常生活を送っておられます。
「バイク乗車中に転倒したにも関わらず、痛みを強く訴なかった例」
41歳の男性です。
4日前にバイクに乗っていてスリップして倒れた際に左腰に痛みを覚えたそうですが、数日様子をみて受診されました。左の写真は、初診時のものです。バツ印のついている所に圧痛を認めましたが、起立筋の緊張度は左右差を認めませんでした。
左のレントゲン写真は、初診時のものです。矢印の先の部分に骨折像を確認できました。さらに患部を詳細に確認するためにCT撮影を実施しました。
左の写真は、CT撮影の画像です。レントゲン所見と同様に第3.4.5腰椎横突起に骨折を確認できました。
また、3DCT画像では、骨片の転位方向も確認できました。以上の所見から、第3.4.5腰椎横突起骨折と確定診断したわけですが、固定帯と必要としないぐらい痛みが強くなかったので湿布剤を処方するのみで治療を終了しました。
腰椎横突起骨折は、レントゲンを撮ってもその時点でははっきりとわからないことがあります。
しかし、身体所見や、受傷時の状況などをふまえてこの疾患を疑うことは十分可能です。
ただの腰の打撲だろうとたかをくくっていたところが、実は、こういった骨折であったということがあります。
強く腰を打って、腰痛が続く場合には、一度この疾患を疑ってみてください。
また、そういった場合には、早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。