母趾MTP関節側副靭帯損傷(柔道していて、母趾が痛くなった!)

足指の疾患の中で、
足の母趾の付け根が痛む疾患は外反母趾がよく見られます。

今回ご紹介する「母趾MTP関節側副靭帯損傷」は
柔道やその他の格闘技など裸足の状態で行うスポーツによく見られる外傷です。

「母趾MTP関節側副靭帯損傷」の特徴は、スポーツ時の怪我で痛みが出ます。

特に受傷時に多いのは、自分の体重が母趾に乗った状態で、さらに相手の体重がかかったような場合です。

「母趾MTP関節側副靭帯損傷」では、足の母趾の赤丸部分に痛みが生じます。



母趾MTP関節側副靭帯は左の図のグレーで描いた部分です。

母趾の付け根の関節を支えるようについている靭帯です。

実際は袋状に関節を取り巻く関節包を補強する形で
関節についています。

この靭帯が切れるのは、つま先立ちで体重が乗り、
足指が強く外反ときにおこります。

左の写真は、一見外反母趾の症状を確認しているように見えますが、実は違います。

赤矢印の部分が腫れていて、母趾にストレスをかけると、
簡単に外反をおこします。 

足の母趾の不安定性を確かめるために、この検査を行います。

上の検査をレントゲンで見てみると、左の写真のようになります。

本来母趾が動かない範囲まで、動いてしまうことがわかります。

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

23歳の男性です。

3日前の柔道の練習中に足を踏ん張ったときに、
右母趾の付け根で音がして痛くなったそうです。

その後、体重をかけると痛みがあり、
練習ができなくなったそうです。

左側も9ヶ月前に母趾を外に反るような形で強制されてしまい、
怪我をした既往がありました。

今回受傷した右側は、母趾のMTP関節が腫れ、発赤がありました。 

レントゲンを撮ってみると、骨折を疑う所見はありませんでした。

そこで、受傷した状況から、靱帯損傷を疑い、
ストレス撮影を行うことにしました。 

母趾を小趾側へ倒すストレスをかけてみると、
左側は大きく脱臼位を示していました。

今回受傷した右側も左側程ではないですが、
大きく外側に曲がっています。

以上のことから、右は今回の怪我で生じた靱帯損傷で、
左は以前に怪我をしていたものが陳旧化していたものだと判断しました。 

念のため、反対側の靱帯がどの程度傷んでいるのかを確認しましたが、こちらの靱帯は左右差がほとんど見られませんでした。 

そこで、ギプス固定を行い、損傷した靱帯が修復できるように、
できるだけMTP関節を正常位に整復し、固定を施しました。 

固定期間は約4週間とし、
全体重をのせないように松葉づえ歩行をしていただきました。

初診から約1ヶ月後の患側写真です。

やや体重をかけると痛みが残っているものの、
母趾が外反して変形することはありませんでした。 

初診から半年後のレントゲン写真です。

右母趾MTP関節の不安定性はなく、痛みもなくなりました。

左は依然として、亜脱臼位にあり、不安定性も残っていました。 

以上のことから、いち早くギプスなどを用いた固定療法を行うことで、MTP関節の靱帯を修復できます。

次は手術によって治療を行った例です。

25歳、男性、柔道の練習中に爪先立ちの姿勢で、
母趾に体重が乗って、さらに相手の体重もかかり、
激しい痛みを覚え、転倒して受傷しました。

来院時には、左足の付け根の腫れと局所の熱感がありました。

斜め横から見ると、足の裏の方まで腫れて内出血も認められました。

他の足指まで内出血していて、痛々しい状態です。 

ストレスをかけて左右の母趾がどれぐらい曲がるかを見てみると、左の母趾が右の母趾に比べて、大きく外反することがわかります。

ストレスをかけた状態でレントゲンを撮ってみると、
左の母趾では、上下の骨の中心線がずれています。

右の良い方の足母趾では、上下の骨の中心線が連続していて、
骨が一定の範囲で止まっていることがわかります。

こうやって、悪い足のレントゲンと、良い方の足のレントゲンを
比べてみると、違いが良くわかります。

この患者さんは ×印が付いている靭帯が切れていて、
上の写真の様な不安定性が出ているのだと、
予測されました。

それを確かめるために、
母趾MTP関節に造影剤を注射して、レントゲン撮影をしたところ、本来は関節包の中に入って漏れるはずのない造影剤が、
赤色矢印の先に、漏れて出てきていることがわかります。

これで、関節包が切れていて、
側副靱帯も切れていることがわかりました。 

左は、エコーでストレスをかけていない状態を見た画像です。

本来は矢印の先に、赤色点線で示した靭帯が存在するはずですが、あるべき靭帯の形が途切れてしまっています。

ストレスをかけた状態で、エコーを撮ってみると、
赤色矢印の先に、白くぼんやりと切れた靭帯の先が写っています。

そして、関節の間が赤色の直線で示したように、広がっています。

左の写真は、受傷後数日たっていますが、
母趾の付け根がまだ赤く腫れています。

結局、手術をすることになりました。

関節が動かないように固定して、
切れた関節包と靭帯を縫いました。

術後は、ギプス固定を行って、
体重をかけないように指導しました。

術後3カ月のレントゲンです。

左右を比べても、特に違いは見られず、
左の母趾が曲がっているということもありません。

外見の写真でも、、腫れも引いて、母趾の付け根あたりの形にも、左右差が無くなっています。 

左の母趾の付け根に手術跡がありますが、
左右差の母趾に腫れも見られず、
治っていることがわかります。

今度のレントゲン写真は32歳男性の方です。

柔道の試合中に体重が乗った状態で、爪先立ちになり、
内反した状態で受傷されました。

ストレスをかけた状態でレントゲンを撮ってみると、
左足の母趾の上下の骨の中心線がずれていることがわかります。

右の良い方の足の母趾の上下の骨は、
中心線がますぐにつながっていています。

このレントゲンでは、左の母趾が内反していることがわかります。

このように内反してしまう場合もあります。
この方は、テーピングして経過を見ました。

この「母趾MTP関節側副靭帯損傷」は遭遇することが少ない疾患です。

単に母趾の捻挫だと思われている場合が多いと思われます。

しかし、上記のように、柔道などの裸足行う格闘技で受傷した場合、
なる可能性がある疾患です。

治療者側も、こういった疾患があるのだということを肝に銘じて、
患者さんを見なければならない、なかなかわからない疾患の一つです。

母趾の付け根に痛みがあってお困りの方は、
一度この疾患を疑ってみる必要があるかもしれません。

そういった場合には、足の専門医を受診されることお勧めします。

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