こぶしを強く打ちつけた時に、こぶしの端の手の骨が折れてしまうことがあります。
こういった場合に起こる骨折を「中手骨頚部骨折」と言います。
中手骨という骨は、以下の図のようなところにあります。
中手骨頚部骨折は、5番の小指側に良く見られます。
中手骨頚部というのは、下の図のように中手骨の指の関節に近い部分をいいます。
実際に、どこがどのように骨折するのかをみてみましょう。
外観では下の写真のように、こぶしの山がはっきりと出なくなってしまいます。
骨折部の周囲は腫れも強く、手の甲や、時には指先まで腫れが広がります。
赤丸で囲んだ部分が他の指のこぶしの山に比べて、形がいびつになっているのがお分かりいただけると思います。
上の写真の赤丸部分をレントゲンでみて見ると、
下のようになります。
中手骨の頚部が折れて、頭の部分が頸をもたげるようになっています。
中手骨頚部骨折は、ほとんどがこのような変形をおこします。
中には、上の写真のように他の中手骨も折れてしまうケースもあります。
上の写真は、また別の方のものですが、赤丸で囲んだこぶしの骨の山が無くなっています。
中手骨のこの配列は「ナックルアーチ」と呼ばれていて、手のひらのカーブを保つ役割をしています。
ですので、中手骨頚部が折れるとナックルアーチが消失するという現象が起こります。
徒手整復の方法
頭をもたげてしまった骨片を元に戻すために麻酔をかけて徒手整復操作を行います。
上の写真にもあるように、中手骨頚部を下から突き上げ、それに対して上の方から骨折部を押し下げます。
固定の方法
固定の方法を絵で示したのが上図です。
整復動作をした時と同じように、圧をかけて固定具を装着します。
上の絵では装具を使った固定ですが、ギプスを使った場合でも、考え方は同じです。
装具の利点は、後に腫れが引いてしまい、圧をかけている部分に緩みが生じても、
バンドを締め直すことによって、圧を調節できるという点です。
しかし、患者さん自身が痛みに耐えられず外してしまったり、入浴時に外してしまって、
圧が均等にかからない状態になったりするという欠点もあります。
整復位を保持する仕組み
以下のようにして、装具による骨折部の安定化を図ります。
上の写真で示したように、固定している間は3点で支持をして骨折部の安定を図ります。
上の写真にあるように、手の形状に合わせて作った固定材料を使って、
ポイントとなる点にはスポンジを合わせて常に圧がかかるように装具療法をおこないます。
固定装具はマジックベルトで止めるようになっていて、圧の調節がきくようになっています。
このように装具を使う場合は、患者さんへ装具を外さないようにお願いする説明などが重要になってきます。
また、装具だけでなく、症状に応じてギプス固定を行うこともあります。
ギプス固定の利点は、指を完全に固定してしまうので、安定した整復位が保ちやすいという事です。
さきに述べた理論でギプス固定をしたものが上の写真です。
左端のギプスは手全体を巻き込んで3点支持固定をしています。
なおかつ、薬指を添えて小指を固定をして、他の指は自由に動くようにしています。
右側のギプス固定は指の機能をできるだけ保つように工夫してあります。
ですので、骨折部が安定している、もしくは変形が少ない場合には大変有効な固定方法です。
しかし、途中で腫れが引いて緩みが生じた場合には巻き直しをしなければなりませんし、
固定範囲が広くなると、指の拘縮などの影響が出る場合もあります。
こういったギプス固定のデメリットは後のリハビリで改善できます。
では、以下で実際の患者さんについて、ご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
29歳の男性です。
喧嘩して相手を殴って受傷されました。
別の整形外科を受診されてギプス固定をされたのですが、途中でずれてきて、手術を勧められたのですが、手術がいやだということで、接骨院を受診され、接骨院の先生から、当院を紹介され、来院されました。
レントゲンを撮ると、赤丸で示したように、第5中手骨頚部に骨折が認められました。
麻酔下で徒手整復を行い、3点支持固定のギプス固定を行いました。
固定後、約1ヶ月後のレントゲンです。
骨癒合も有効で、骨折部分の変形もなかったため、ギプスを除去してリハビリを行いました。
リハビリは紹介してくださった整骨院で行われました。
その後、経過は良好です。
〜症例2〜
21歳の男性です。
兄弟喧嘩をして、相手を殴った際に受傷されました。
近くの救急病院で骨折であるといわれましたが、応急処置のみで、特に治療もなかったので、翌日当院へ来院されました。
外観上では、右手背部が腫れ、小指の周辺の皮下出血も認められました。
レントゲンを撮ってみると、第5中手骨の頚部に骨折を認めました。
(赤丸印で囲んだ部分です。)
麻酔下で徒手整復を行い、3点支持固定を保持したまま装具療法を行いました。
麻酔下で徒手整復を行い、3点支持固定を保持したまま装具療法を行いました。
固定後約3週間後のレントゲン写真です。
骨折部分が安定していることが確認できました。
固定後約1か月のレントゲン写真です。
仮骨もできて、骨折部分は骨癒合が確認できたので、装具を除去しました。
その後、経過も良く、問題なく日常生活を送られています。
〜症例3〜
40歳の男性です。
事故で手を打って受傷されました。
赤丸印で示した部分が腫れて、指の変形も見られました。
レントゲンを撮ってみると、第5中手骨の頚部と、第4中手骨の基部が骨折しているしていることがわかりました。
徒手整復後、固定装具を用いた固定を行いました。
固定後、レントゲンを撮って状態を確認しました。
骨折部分の整復位は安定していて、骨も元の形に近い状態まで戻っていたので、このまま固定を継続して、経過を見ることにしました。
固定期間は約1か月でした。
約3ヵ月後のレントゲン写真です。
完全に骨癒合していて、指の機能の障害もありませんでした。
レントゲンでは、若干第5中手骨頚部の変形がありますが、外観で見たところでは、変形がわからないぐらいまで、元に戻っていました。
〜症例4〜
13歳の男性です。
第5中手骨の頚部骨折で装具を用いた固定療法を行いました。
レントゲンでは、頚部の変形が認められましたが・・・。
徒手整復後のレントゲン写真では、頚部の変形がかなり改善されていました。
固定を開始してから2週間後のレントゲン写真です。
装具を外した状態でも、全く変形を認めなかったので、装具を除去しました。
この方は、13歳という若い年代でもあり、骨癒合が早く得られて、装具下で指も動かすことができていたので、装具除去と同時に、通院も完了となりました。
〜症例5〜
15歳の男性です。
野球部の練習中に転倒して、手をついた際に、受傷されました。
他院でレントゲンを撮り骨折が発見されました。
固定処置などの相談のために、当院を受診されました。
レントゲンでは第3中手骨の頚部に骨折が認められました。
しかし、他の指の並びと比べて、変形がほとんど見られませんでした。
処置としては、指の可動性を残したまま、中手骨のみ3点支持固定ができるようにギプス固定を行いました。
ギプスをした状態でレントゲンで確認したところ、問題がなかったので、固定を継続し、経過を見ました。
固定から約3週間後のレントゲン写真です。
仮骨形成も旺盛で、骨折した骨も元の形に戻っていたので、ギプスを除去しました。
固定期間中から指先を動かしておられたので、特別なリハビリもなく、野球に復帰されました。
〜症例6〜
63歳の女性です。
転んで手を打ち受傷されました。
赤丸印で囲んだ部分が腫れて皮下出血も認められました。
この方の場合、右の小指の曲げた時のラインと、左手の小指の曲げた時のラインを比べると、左手の小指は薬指の方に向かって、重なり合うように指が変形していることがわかります。
これを「オーバーラップ」といって、指を伸ばした時にはわかりにくいのですが、曲げた時に、指の向きがずれる現象をいいます。
レントゲンを撮ってみると、第5中手骨頚部の変形はさほど大きいものではありませんでした。
しかし・・・。
別の角度からレントゲンを撮ってみると、頚部の斜骨折が認められ、骨がずれていることがわかりました。
このずれによって、オーバーラップ現象が起こっていたと思われます。
そこで、指を曲げた状態を保持したまま、徒手整復を行い、3点支持固定を行って、ギプス固定をしました。
できるだけ、骨折部分はずれないようにしっかりと固定しますが、その他の部分は、影響を受けないように、指が動かせるようにしてあります。
ギプス固定した状態で、レントゲンを撮って確認しました。
骨折部分がまっすぐになっていて、隣の指の状態とほぼ同じぐらいに戻っていることが確認できました。
ですので、この状態で固定を継続し、経過を見ることにしました。
固定をしてから1週間後のレントゲン写真です。
骨折部分は安定して、変形もほとんど見られなかったので、ギプスの巻き直しを行って、その後、固定を2週間継続しました。
その後、骨癒合も良好で、機能障害もなく過ごされています。
中手骨頚部骨折はその外観上の変形からすぐわかりますが、
当院では、しっかりと3点支持固定を保って、ギプス固定による治療をおこなっています。
手術療法をおこなわないといけないと思われるようなケースでも、
中手骨頚部は癒合しやすい部分なので、
固定療法でも良好な結果を得ることができています。
ただ、オーバーラップ現象が起こらないように、指の変形に気をつけながら固定を行う必要があります。
しっかりと固定ができれば、機能障害も起こしにくい骨折ですので、
手術か固定療法かで迷われた場合には、当院まで御相談ください。