足の腱鞘炎は踵の部分や足の甲の部分などさまざまなところで炎症がおこりますが、
外くるぶしのやや下あたりで、腱鞘炎を起こす疾患に「腓骨筋腱滑車症候群」があります。
下の絵にあるように、外くるぶしよりやや下の部分が腫れて痛くなります。
上の図にあるように腓骨筋腱滑車とは踵骨の外側にあって、
骨の隆起として皮膚の上から触って触れることができます。
このページでは、この腓骨筋腱滑車症候群の病態と、実際の患者さんについてご紹介します。
左の図は腓骨筋腱の走行を示した図です。
腓骨筋腱は外くるぶしの後ろを通って、
踵骨の外側で角度を変え、
足の中足骨に付きます。
この角度を変える部分が「腓骨筋腱滑車」です。
腓骨筋腱滑車の大きさは個人差があり、
腓骨筋腱の方向を変える際の支点として働きます。
滑車自体には問題がなくても、
靴の圧迫によって腱鞘炎を起こしたり、
滑液包炎を起こすことがあります。
また、滑車自体が大きい場合、
靴でこすれて炎症を起こすことがあります。
左の写真は実際の患者さんの腓骨筋腱滑車のCTです。
赤矢印で示したところにあるのが腓骨筋腱滑車です。
この患者さんの場合には隆起部分が比較的大きくて、
CTでもはっきり形状がわかります。
別の角度からみたCTでは、
赤丸で示した部分にはっきりと隆起部分が見えます。
一般にはレントゲンで角度を変えて撮ることによって、
腓骨筋腱滑車の状態がわかりますが、
腱の状態を見るためにエコーをとったり、
骨の形状や大きさを見るためにCTをとる場合もあります。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
左の写真は28歳の女性で、
足の外側の痛みを訴えて来院されました。
看護師をしておられて、仕事が忙しくなると、
決まって×印の部分が痛くなるそうです。
くるぶしの下側の×印の部分は腫れていて、
押さえると痛みがありました。
エコーをとってみると、
腓骨筋腱滑車の上を長・短腓骨筋腱が走行しているのがわかります。
さらに炎症を起こしているため、
腫れた部分に一致して、
黒く炎症を起こしている像が広がっていることがわかります。
良いほうの足を比較のために見てみると、
右足と同じ場所には腫れもなく、
エコーの画像でも炎症は確認できませんでした。
以上のことから、
腓骨筋腱滑車症候群と判断しました。
処置としては、仕事上ではく靴を変えて、
患部の圧迫を避けるとともに、
ヒールパッドを入れて、
腓骨筋腱の負担を軽減するようにしました。
左の写真は別の方の足です。
ヒールパッドの目的は踵を少し上げることで、
腓骨筋腱の走行のベクトルを緩くして、
負担を軽減することです。
靴に張り付けることができるので、ずれる心配もありません。
42歳の男性です。
左足の外側の痛みを訴えて来院されました。
1か月ぐらい前から、スキーをしている時だけ痛くなりました。
滑っているときは痛くないのですが、
リフトに乗るときに痛むそうです。
日常での靴では痛みもなく、階段の上り下りも問題なくできました。しかし、赤い丸で囲んだ部分が赤く腫れていました。
別の角度で見てみると、腓骨筋腱に添って腫れがあり、
押さえると赤い丸で囲んだ中央付近に痛みがあります。
よく見ると、皮膚の一部分がこすれているように見えます。
この部分は、腓骨筋腱滑車がある位置に一致していますので、
スキーブーツが当たり、その部分で炎症が起こって、
痛みが発生したのだと考えました。
レントゲンを撮ってみると、
腓骨筋腱滑車の隆起が明らかでした。
エコーを撮ってみると、腓骨筋腱滑車の上に、
腱がしっかりと乗っているのがわかります。
別の角度からエコーを撮ると、
腓骨筋腱の走行がはっきりとわかりました。
この方は、普段は痛みがなく、スキーのときだけ痛むということでしたので、特別な処置は行わず、様子を見ることにしました。
スキー靴が当たっていたことが痛みが出た原因だとわかり、
症状が出ない様にする方法について納得されました。
28歳の男性です。
マラソンを趣味でしておられて、走るとき痛みがあるので、
当院を受診されました。
痛みの場所を確認すると、×印でしめした部分で、
腫れと、押さえた時の痛みがありました。
良いほうの足と比較してみると、
やはり、同じ部位の腫れ方の違いがわかります。
レントゲンを撮ってみると、
腓骨筋腱滑車部の隆起が確認できました。
このことから、ランニング時に
腓骨筋腱滑車と靴による圧迫が原因で、
腓骨筋腱が腱鞘炎を起こしたものと考えました。
ですので、ランニングシューズにヒールパッドを入れていただくように指導しました。
腓骨筋腱滑車症候群は靴による圧迫が腱鞘炎を引き起こし、
そこに使いすぎが加わることで痛みが増強します。
しかし、原因となることを今一度振り返ってみて、
対処することで治る疾患なので、心配はいりません。
外くるぶしの下あたりに違和感があり、痛みがなかなかとれない場合には、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めします。