足裏の痛みで困ったとき、診察してもらって一般的に耳にする疾患名は「足底腱膜炎」が多いものです。
しかし、足底の病気としては、今回取り上げる「足底線維腫」というものもあります。
足底線維腫は下の絵の×印で示した土踏まずの部分に多くみられます。
足の裏の中でどのようになっているのかを示したのが下の図です。
足底腱膜は足の土踏まずを形成するために伸長性があります。
一見、土踏まずが痛いという訴えで、足底腱膜炎のように思われがちです。
症状も歩くときに痛むとか、押さえると痛いなどの足底腱膜炎と同じ症状がありますが、
足底線維腫の部分を触ると腫瘍は動かず、かたく緊張した腫瘤が触れるのが足底線維腫の特徴です。
上の写真のように、線維腫はほとんど1~2cmぐらいの大きさで存在します。
足指を返すことで腫瘤部分が浮かび上がってきます。
また、はっきりと見た目で存在がわからない場合もありますが、
そういった場合にはエコーを撮ることで、存在が確認できます。
発生する原因には、はっきりとした定説がありませんが、
足底腱膜への微小な繰り返し刺激や感染などが原因ではないかといわれています。
実は、手にも似たような疾患があり、手のひらに生じた場合「デゥピュイトレン病」とも呼ばれます。
手の場合には指の曲げ伸ばしの影響が出ますが、
足底線維腫の場合には、足指の曲げ伸ばしに影響がでることはありません。
手術をせずに行う治療
治療に関しては、
足底板を入れて土踏まずに負担がかからないようにします。
左の赤い丸で囲んだ部分に痛みを訴えておられた患者さんです。
足底腱膜が緊張することで、痛みが生じるので、
緊張が出ないように足底板を用いて治療することにしました。
足底板ははだしの状態でも効果が見られるように、
サポーター付きの足底板です。
こちらの足底板は、特に型をとったりする必要もないので、
すぐに処方させていただけます。
また、患部の痛みを押さえるため、ステロイド注射を行います。
注射前
足低部の腫瘤をエコーで見た写真です。
赤色矢印が腫瘤の厚みを示しています。
注射後
ステロイド注射を腫瘤部に行い、2ヵ月後のエコーです。
注射前にあった腫瘤が薄くなっています。
この時点で、痛みも消失しています。
このようにステロイド注射によって、腫瘤が縮小したという事から、
足底線維腫症の病態は、足底腱膜の一部が炎症を起こし、次第に瘢痕化したものではないかと考えられます。
このような経験から、現在では、足底線維腫症にたいして、注射療法を行って、経過を見ることにしています。
では、以下で実際の症例を御紹介していきます。
56歳の女性です。左足底の痛みを訴えて来院されました。
3年前より、左足底が痛くなり、1年前に左足底の腫瘤に気付かれたそうです。
腫瘤が少しずつ大きくなってきており、歩行痛があるとのことでした。
歩き初めにも、痛みがあるという事で、他の整形外科では足底腱膜炎といわれ、処置は何もしていなかったとのことです。
左のエコーは初診時のものです。
赤色矢印で示した低エコー像(黒く見える部分)が足の裏の腫瘤です。
当日、ステロイド注射を行い、2週間後に来院していただきました。
左のエコーは、初診から2週間後のものです。
赤色矢印で示した部分の低エコー像(黒く見える部分)が
小さくなっていることがわかります。
この時点で、患者さんが訴えておられた歩行痛や歩き初めの痛みは消失しており、腫瘤も消退していました。
48歳の男性です。
両足底部、特に右足底部の痛みを訴えて来院されました。
1年前より、両足底部が痛く、特に右足底部が仕事をしていても、痛みが出るとのことで、近隣の整形外科へ行き、
手術をしないと治らないといわれたそうです。
手術したくないという事で、当院へ来られました。
左の写真は初診時の外観です。
両側ともに丸で記した部分に、腫瘤が認められ、赤色矢印で示した、右側底部が特に押さえられても痛いとのことでした。
左の写真は、初診時の右足底部のエコー画像です。
赤色矢印で示した低エコー像(黒く写った部分)が腫瘤です。
この場所に、ステロイド注射を行い、1週間後に来院していただきました。
左の写真は、注射をしてから1週間後のエコー画像です。
初診時のエコー画像と比較してみると、
赤色矢印で示した腫瘤の大きさや、
厚み(点線矢印で示した部分)が消退していることがわかります。
この時点で疼痛も消失して来ているとのことでした。
足底線維腫は土踏まずの中央や、踵に近い部分で腫瘤として触ると触れてわかります。
足底腱膜炎と思って色々な治療を施しても改善しなかったり、
足底板をしても当たって痛いというときには、
足底線維腫を疑ってみてください。
思い当たる方は、整形外科にご相談ください。