子供さんの膝が痛いという訴えで、よく耳にするのが「オスグッド病」がありますが、
今回ご紹介する「シンディング-ラルセン-ヨハンソン病」も、お子さんの膝の前面が痛むスポーツ障害の一つです。
聞きなれない病名ではありますが、よく見ると、オスグッド病との違いがわかります。
このページでは、シンディング-ラルセン-ヨハンソン病についてのご説明をして、
当院で治療を行い、治癒し、スポーツ復帰された患者についてご覧いただきたいと思います。
膝のスポーツ障害別にみる圧痛点の違い
上の図は、膝の前面の部分で主に見られるスポーツ障害の圧痛を示したものです。
いずれも、膝を伸ばす動作を頻繁に行って生じるという点で共通点があります。
しかし、圧痛点が若干異なっており、診断名も変わってきます。
今回ご紹介するシンディング-ラルセン-ヨハンソン病は膝蓋骨の下の部分が痛むという特徴があります。
好発年齢も違いがあり、シンディング-ラルセン-ヨハンソン病は11歳ごろであるのに対して、オスグッド-シュラッター病は12~13歳で、
シンディング-ラルセン-ヨハンソン病はオスグッド-シュラッター病に比べて若い年代層に見られるといわれています。
上の写真は、シンディング-ラルセン-ヨハンソン病と診断された患者さんのものです。
×印が付いているのが圧痛部位です。
上の患者さんのレントゲン写真です。
左右の膝の下縁に分裂した骨端核があります。
この部分での繰り返される牽引ストレスが原因で、痛みが生じるといわれています。
一見すると、分裂して骨折しているかのようですが、そうではありません。
では、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。
11歳の男の子です。
両方の膝の前面が痛いということで来院されました。
4日前のサッカーの試合中に痛くなったそうです。
ボールを蹴ると痛みが生じて、
×印のところが特に痛むということでした。
両膝蓋骨の下縁に圧痛がありました。
プレー中は主に、右足でボールを蹴ることが多かったそうですが、
圧痛を見る限りでは、左右差はありませんでした。
レントゲン写真を撮影してみると、
両膝蓋骨の下縁に離れている骨片が認められました。
これらの所見から、シンディング-ラルセン-ヨハンソン病と診断されました。
治療としては、1~2週間の間クラブの練習参加は様子を見るように指導し、その間は膝周囲の筋肉の柔軟性を高めるためのストレッチを指導しました。
初診から1ヶ月後のレントゲン写真です。
左右共に、膝蓋骨の下縁の骨片はありますが、
両側共に圧痛は認めず、
練習参加への復帰を認めました。
さらに初診から2か月の時点では、
両側の膝蓋骨の下縁にあった骨片は癒合し、
膝の痛みも全くありませんでした。
このように、シンディング-ラルセン-ヨハンソン病は、
一時期骨端線の部分で繰り返されるストレスが続くことで痛みが生じますが、しばらく安静を保つことで、治ってしまう疾患です。
11歳の男の子です。
左膝の前面の痛みを訴えて来院されました。
約1年前から、特に思い当たる誘因がなく、
徐々に痛みが出現したそうです。
スポーツはサッカーをしておられました。
圧痛は×印で示した膝蓋骨の下縁部に認められました。
レントゲン写真を撮ってみると、赤い丸で囲んだ部分に、
分裂した骨片が認められました。
以上のことからシンディング-ラルセン-ヨハンソン病と診断し、
1~2週間の安静と、ストレッチングの指導をしました。
CT画像を撮影すると、
はっきりと分裂した骨片が確認できました。
その後の経過を追って、骨片部分がどう変わっていくかを
観察することにしました。
初診から2ヶ月後のCT画像です。
骨片が愈合していることがわかります。
この時点で、まったく痛みもなく、
サッカーも今まで通り できておられました。
さらに初診から3か月後のレントゲン写真では、
骨愈合していることがわかります。
シンディング-ラルセン-ヨハンソン病は骨端症として分類されていますが、レントゲン写真で骨片の離開がわずかであったりして鑑別が難しいケースがあります。そこで、MRIを撮影することで骨端部のより詳細な状態を確認することができます。
上の画像は、レントゲン写真とMRI画像を比較したものになります。左端の写真で確認した骨片は、MRIで観ると骨端部が離開しているように映り、輝度変化が観られます。
上のレントゲン写真はMRIを撮影してから約3カ月が経過した時点のものです。
初診時と比べて骨片の離開が狭まっているのがわかります。
以上の例でも示したように、シンディング-ラルセン-ヨハンソン病は一時期愈合していない骨片があったとしても、
その後の成長過程で骨化して、痛みも消失してしまいます。
同じ時期に膝蓋骨の周辺で痛む疾患には分裂膝蓋骨がありますが、
圧痛部位が違うので、容易に診断ができます。
11歳ぐらいのお子さんで、膝の前面に痛みを訴えておられる場合には、
シンディング-ラルセン-ヨハンソン病である可能性がありますので、
整形外科へ早めに受診されることをお勧めします。