野球やバスケットボールなどボールが指先に当たって
指先の骨が折れたり、かけたりすることを「マレットフィンガー」といいます。
損傷の形態も様々で、
骨に付着している腱のみが断裂するものもあれば、大きく骨がずれてしまうものなど、多様です。
診察の中で、よくあるのは、一見つきゆびだと思って来院され、レントゲン写真を撮ってみると、
実は骨折だったというケースです。
このページでは、マレットフィンガーの病態と、その治療法などについて御説明したいと思います。
マレットフィンガーになった指では下の写真の赤丸で囲んだ部分のように、
指が曲がったままになり、伸ばすことができません。
外観写真
レントゲン画像
レントゲンを撮ってみると、
骨の一部がはがれてしまっています。
この状態をを「マレットフィンガー」といいます。
マレットフィンガーの分類
左の図はマレットフィンガーのタイプを分類した図です。
Ⅰ型は骨折はなく、指先の関節を伸ばす腱が断裂した状態です。
II型は骨折を伴いますが、
指先の関節に大きくまたがるような骨折片ではありません。
また、腱は損傷されていません。
Ⅲ型は骨折片が大きく、関節部分に大きくまたがるタイプです。
この場合、関節部分では脱臼を生じています。
このようにタイプを分けるのは、それぞれの治療方針が異なるからです。
中でも、Ⅲ型は手術になるケースがあります。
マレットフィンガーに対する固定療法
当院では、Ⅰ型とⅡ型は固定療法によって骨癒合を目指しています。
Ⅲ型については、まずは徒手整復の後に固定療法を行います。
その後、良好な整復位が得られている例に関しては、そのまま固定療法を継続して骨癒合を目指しています。
下の写真は固定療法の外観写真とレントゲンです。
固定材料はその時と場合に応じてアルミ副子を使ったり、
サーモスプリント(熱可塑性素材)を使っています。
左の写真はサーモスプリントで、
患者さんの指の形に合わせて型をとり、固定しています。
固定期間中の緩みを調節しやすい様に、
テーピングや、マジックベルトで止めています。
上の患者さんのレントゲン写真です。
固定前(左の写真)に比べて、固定後(右の写真)は
骨片が元の位置に整復されていることがわかります。
このように、良好な整復位が得られていれば、
6~8週間の固定を行います。
では、以下で実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。
Ⅰ型の場合
指を曲げた時
指を伸ばしたとき
38歳の男性、指を曲げることはできても、
完全に伸びないので御来院にないました。
レントゲンを撮って診ると、骨折はなかったのですが、
指が完全に伸びないのでマレットフィンガーだと判断しました。
おそらく、左の図のように腱が断裂して緊張が無くなり、
指が曲がった状態になっていたものと思われます。
そこで、アルミの板を使って固定し、
指を伸ばした状態を 6週間保ちました。
6週間たった時点で、指が完全に伸びるようになりました。
指を曲げるほうも、自由に曲げることができます。
II型の場合
18歳の男性です。
左環指の痛みを訴えて来院されました。
2日前、ラグビーの練習中、ボールが指に当たり、受傷されました。
左の写真は初診時の外観写真です。
赤丸印で囲っている左環指のDIP関節に腫脹が見られ、
指を完全に伸ばすことができませんでした。
外観から、左の図のような状態が考えられます。
実際、レントゲン撮影を行ったところ、左の図のような骨折像が確認できました。
このケースでは、骨のはがれた部分の離れ方がさほど広くないので、アルミ副子もしくはサーモスプリントによる固定で治療ができるのではないかと考えました。
左の写真はサーモスプリントで行った固定の外観です。
この写真では指全体を固定していますが、
骨折部の状態を見て、固定範囲を徐々に短くしていきました。
左の写真が固定前で、右の写真が固定後です。
初診時の時点で、良好な整復位が得られていたので、
このまま固定療法を継続して行きました。
左の写真は受傷後、6週間のものです。
この時点では、指先だけの固定となっていました。
最終のレントゲンチェックで骨癒合が得られていたので、固定を除去しました。
Ⅲ型の場合
14歳、女子バレーボール部所属の選手です。
レントゲンを撮って赤い丸で囲んだ部分が完全に関節にかかる
大きな骨片が見られました。
Ⅲ型の場合、固定の方法で注意しなければならないのは、
骨の隙間を密着させようとして指を伸ばす方向へ持っていくと、
逆に隙間ができてしまい、関節が亜脱臼してしまうことです。
ですので、できるだけ指を伸ばした状態を保ちながら、
脱臼しないように経過観察する必要があります。
アルミの板を加工して、テーピングと包帯で固定しました。
固定期間は6週間です。
左の写真は固定後4週間のものです。
この時点でほとんど癒合していることがわかります。
ただ、まだ完全に癒合しているわけではないので、
念のため、あと2週間固定しました。
アルミの板が指の機能を損なってはいけないので、
アルミの板の長さを徐々に短くして、
指先が使えるようにしながら固定します。
左の写真は11歳のバレーボールクラブ所属のお子さんです。
骨片が大きく、大人であったら手術するような骨折型でしたが、
お子さんだったので、指の固定を行うことで治療することにしました。
まず左の写真のように指先から指の付け根までにわたる
広い範囲で固定を行いました。
そうすることで、骨折部分を安定させることができます。
約3週間後に、骨がほぼ癒合していたので、
指先だけの固定に変えました。
それでも、骨折部分は安定していました。
6週間後、骨癒合が完全になっていたので、
固定を解除しました。
その後順調にクラブ活動にも復帰していました。
ところが、固定を外してから4カ月後に、
再びドッチボールをしていて受傷してしまいました。
レントゲンを撮ると、以前とよく似た形で骨折していました。
今回も固定療法を試みましたが、
安定した固定を得られなかったので、
鋼線手術となりました。
手術後1か月のレントゲンです。
完全に骨がついて、まったく問題はありません。
この時点で、スポーツ復帰となりました。
45歳の男性です。
左小指DIP関節の痛みを訴えて来院されました。
前日の深夜1時ごろ、お酒を飲んでいて帰宅途中に階段の段差に躓き、転倒し、左手を突いたそうです。
翌日、左小指の痛みと、伸展制限に気付き、当院を受診されました。
左の外観写真は、初診時のものです。
赤色矢印で示した部分に痛みを訴えている部分です。
左のレントゲンは、初診時のものです。
レントゲンでは、左小指末節骨の骨折が認められ、
マレットフィンガーのⅢ型であるとわかりました。
当日、徒手整復を行い、アルミシーネによる固定を行いました。
左の写真が、実際に行った固定の写真です。
骨折部に伸展力がかからないように、指の関節を曲げた状態で固定を行いました。
固定を行った状態で撮影したレントゲンが左です。
骨折していた部分が、わからないぐらい元の位置にきれいに戻っていることがわかります。
整復位をうまく保つことができているため、
手術せずに固定療法で経過を見ていくことにしました。
左のレントゲンは、1週間後のものです。
1週間経過しても、骨折部は安定しており、どこが折れたのかわからないぐらいでした。
4週間経過したため、曲げた状態の固定から、自然な肢位での固定に変えました。
左のレントゲンは、その時のものです。
骨折部は安定していました。
左のレントゲンは、受傷から6週経過したものです。
アルミシーネ固定から、患部を保護するプラスティック性の指サックのようなもので
患部を保護するように変更しました。
骨癒合も認められ、経過は良好でした。
左の写真は12歳の男の子です。
野球の練習中に受傷し、突ゆびかと思っていましたが、
腫れと痛みが強いため来院されました。
レントゲンを撮ると、左手の人指し指が曲がって写っています。
赤丸部分をよく見ると、骨端線と呼ばれる隙間から
指の先が折れ曲がっていることがわかります。
そこで、骨端線損傷と呼ばれる子供さん特有の骨折だと判断したので、アルミの板で固定しました。
3週間後レントゲンを撮ったところ、
指は曲がらずにまっすぐになって修復されています。
このように、骨端線と呼ばれる成長軟骨が存在する年代では、
その軟骨部分で曲がってしまうタイプになることが多いのです。
スポーツ復帰は、固定を外してから指の動きに問題がなければ、開始してもかまいません。
受傷してから、平均1~2カ月で、みなさんスポーツ復帰されています。
球技スポーツではマレットフィンガーはよく見られる外傷です。
見た目にも腫れ、内出血もあるので、ちょっと突ゆびとは違う症状になります。
そういった場合には、早い目に整形外科を受診されることを御勧めします。