指の関節周辺に腫瘤(こぶのように腫れたもの)ができて、様子をみていたら、
大きくなってきたということはありませんか?
下の写真の赤色矢印で示した部分のように、一見ガングリオンのように見えますが・・・。

ガングリオンだと思って、そのまま様子をみていても、
実はガングリオンではなかったということがあります。
ガングリオンによく似ていて、手にできる腫瘍の中で、
「腱鞘巨細胞腫」という良性の腫瘍があります。
このページでは、「腱鞘巨細胞腫」についてご覧いただきたいと思います。
腱鞘巨細胞腫は下のイメージ図のように関節周辺の滑膜や腱鞘に発生する腫瘍です。
「巨」という字が使われていますが、腫瘍の大きくなるペースは緩やかで、最大でも4~5㎝ぐらいです。


実際に摘出された巨細胞腫の写真です。
2cm足らずの大きさで、
充実している腫瘍だとわかります。
一般には30~50代の女性に多いといわれています。
また、発生部位の約8割~9割が手指に発生しています。
良性の腫瘍なので、はっきりと他の組織と境界がわかれているので、
手術で取り除くことができます。

確定診断には、MRIが有効です。
腱鞘からの発生がわかり、
ガングリオンと違って、充実性(中身が詰まっている)の腫瘍として、はっきりとわかります。
良性の腫瘍なので、摘出することが良いのですが、
腫瘍は少しずつ大きくなってしまうので、
早い時期での手術が望ましいとされています。
また、腫瘍を切除した後の患部での再発は2~3割であるといわれています。
以下で、当院で手術をされた患者さんの症例をご紹介します。

52歳の女性です。
当院の看護スタッフとして働いておられます。
約2年前に、5mm程度の腫瘤に気がついていたそうですが、
痛みもなく、日常生活でも問題がないので、
そのままにしておられたそうです。
しかし、少しずつ大きくなってきて、
1か月前から気になってこられたそうです。

腫瘤の大きさは、約1cmぐらいになっていました。
痛みはありませんが、親指の付け根を曲げる時の運動制限がありました。
気になるためか、握力も少し落ちていました。

エコーを撮ってみると、赤色矢印で示した部分に、
黒く写る部分と、白く点々のように写る部分が入り混じって映っています。

角度を変えたエコーでも、同じく白く写る画像が見えました。
このことから、ガングリオンではないとわかります。
ガングリオンだと、中は液状成分なので、
エコー画像には黒い影だけが写ります。
しかし、このエコー画像には、
黒い影の中に、白いものが写っているので、
ガングリオンとは別のものであるとわかるのです。

こういった腫瘍はときには、骨のそばに進出して、
あたかも骨の一部を圧迫するかのような画像が見られる場合があります。
これを「骨浸食像」といいます。
この患者さんの場合には、そういった所見は見受けられませんでした。

MRIを撮ってみると、境界が明瞭な腫瘍が存在していました。
ですので、良性腫瘍であるとわかります。

別の条件で撮影したMRI像では、腱のすぐそばに腫瘍があって、腱にくっついて見えています。
以上のようなことから、腱鞘巨細胞腫を疑います。

手術で腫瘍を摘出しました。
摘出した腫瘍は黄色みを帯びていて、丸い充実性の腫瘍でした。
病理検査の結果でも、巨細胞腫であることを確認しました。
その後、再発もなく、現在でもお仕事を続けておられます。

52歳の女性です。
痛みはなかったのですが、腫瘤が大きくなってきたので、
気になって来院されました。
レントゲンでもわかるように、右の親指の皮膚の輪郭が膨らんでいます。
さらに、骨浸食像も見えます。

初診から2ヶ月後のレントゲンです。
腫瘍の摘出術後にレントゲンを撮ると、
腫瘍はきれいになくなっていますが、骨浸食された部分はそのままになっていました。(赤色矢印の部分)
骨浸食されても、時間がたてば元のように骨が形成されていきます。
この方も、再発もなく、日常生活も問題なく過ごされています。
腱鞘巨細胞腫はガングリオンと違って、
大きくなってくると、骨浸食してしまう場合があるので、
良性腫瘍とはいうものの、早く見つけて、早く摘出してしまったほうが良い腫瘍です。
ガングリオンならば放置しておくと小さくなりますが、
腱鞘巨細胞腫は大きくなるだけで、小さくなることはありません。
ガングリオンだと思っていて、様子をみていても小さくならないときには、
一度「腱鞘巨細胞腫」を疑ってみて、
整形外科を受診されることをお勧めします。