肩関節脱臼の治療について

前のページで、肩関節脱臼の病態については御理解いただけたと思いますが、
一言で肩関節脱臼と言っても初めて脱臼する外傷性の肩関節脱臼と、繰り返して起こる反復性脱臼では治療方法が違います。

このページでは、それぞれの脱臼に応じた治療についてご説明したいと思います。

脱臼の整復方法

まずは、できるだけ早い段階で脱臼した関節を元に戻すことが必要です。

特に、スポーツの現場では、その場で徒手整復を試みることがあります。

脱臼の整復方法にはさまざまな方法がありますが、それぞれに一長一短があります。

当院では、以下の方法で徒手整復を行っています。

なるべく愛護的に、無用な力をかけずに整復することを目的としています。

上の写真にあるように、患者さんをリラックスさせた状態で、
2人の施術者のうちの1人が上腕骨頭を触れておきます。
もう一人は、腕を上方に引っ張り上げていきます。

すると、途中で肩関節周囲の筋肉群の緊張が解けて整復されます。

もうひとつの方法は、患者さんにベット上でうつぶせになっていただき、
腕を下に垂らした状態で錘の負荷をかけ、しばらくこの状態を保っていただきます。

しばらくこの状態でいる間に、肩関節周囲の筋肉群の緊張が解けて整復されます。

以下は、整復前と整復後の実際の患者さんの様子です。

整復前


脱臼の生じた直後は痛みのために、腕が特定の位置で固定されてしまいます。
少し動かせば、元の位置に戻ってしまうので、この姿勢を「弾発性固定肢位」と言います。

上の写真の赤矢印で示した部分のように、肩がへこんで見えます。

レントゲンを撮ると、上腕骨の位置が完全に変わってしまっています。

整復後


徒手整復後は、赤矢印で示した肩の周辺の筋肉の形が元に戻っていることがわかります。

レントゲンで関節の中に骨片などが存在しないか確認します。

なかには、脱臼と骨折が同時に生じるケースがあるので、レントゲン確認が必要になります。

整復後には、以下の方法で固定を行います。 

上の写真のように、肩の脱臼後、固定方法には2つの方法があります。

左側を「内旋位固定」、右側を「外回位固定」と言います。

以下で、それぞれの固定方法の違いについて見ていただきたいと思います。

固定法の違いに見る整復位の違い

上の図の肩関節の状態は、脱臼した後に整復を行い、元の関節の位置に戻った状態を示しています。

脱臼後は、少なからず肩関節周囲の組織損傷が見られます。

一般的に行われている内旋位固定では、肩関節前面の靭帯がたるんで、

付着している関節唇も元の位置にもとに戻っていないことが多いのです。

一方で、外旋位固定では、肩関節の前方にある筋肉が壁となり、同時に前方の靭帯が緊張した位置で固定することができるので、
関節唇も元の位置にもどり固定することができますます。

上記の理由で、当院では、初回脱臼の患者さんの整復後には、外旋位固定を施しています。

固定期間は3週間としています。

以下で、実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。

整復前


整復後


以上のように整復を終了して、固定を行いました。

この患者さんの場合には、上の写真のような既製品の装具(アルケア社製)を使って固定しました。

外旋位固定の効果を見ていただくために、下のMRI写真を比較していただきたいと思います。

この患者さんの場合、徒手整復の直後は外旋位を保ったままMRI撮影ができなかったため、やむを得ず内旋位で撮影しました。

すると、左のMRI写真のようになっていました。

撮影後、外旋位固定に戻し、固定を1カ月継続後に撮影したものが右の写真です。

内旋位(整復直後)でのMRI

関節唇が離れている状態

外旋位(1ヶ月後)でのMRI

関節唇が密着している状態

このように外旋位固定を1カ月行った後のMRIでは、
関節唇や靭帯などが緊張し骨に対して密着していて、
脱臼する以前の正常な位置に近くなっていることがわかります。

この患者さんは、その後、再脱臼することなく過ごされています。

一般的には、外旋位固定を行うことで、再脱臼率は低くなったと報告されています。

反復性脱臼の治療法
(手術療法)

肩関節脱臼は初回に脱臼してからスポーツ中に再び脱臼することがあります。

また、日常生活の中でも再脱臼することがあります。

そういう場合には、手術療法によって緩んだ靭帯や関節唇などが緊張を保つように縫い合わせ、再脱臼しないようにします。

以下では、関節鏡視下で行われた手術療法についてご覧いただきたいと思います。

34歳の男性です。
右肩の脱臼を繰り返していて、寝ていても脱臼することがあるので、相談に来院されました。

10年前に、初回脱臼して以来、
10回以上も脱臼を繰り返しておられるとのことでした。

レントゲンを撮ってみると、赤矢印の先で示したように、
健側と比べて上腕骨頭の一部が削れていることがわかりました。 

CTを撮ってみると、
肩甲骨の関節窩の一部がはがれているのが わかりました。
(赤色矢印の先の部分)

MRIを撮ってみると、
上腕骨頭の後面の骨欠損がはっきりとわかりました。
(赤色矢印の先の部分)

このように再脱臼を繰り返しておられるので、
骨欠損もはっきりと映し出されています。

この方は日常生活でも何度も再脱臼を繰り返しておられるので、
手術療法を選択されました。

当院から、肩関節の専門病院をご紹介し、
手術スタッフに古東院長も加わって手術となりました。

手術の所見ですが、赤色矢印で示したように、
上腕骨頭の表面にある軟骨部分が広範囲に失われていました。

肩の前面部では、関節窩の一部とともに、
関節唇が広範囲にはがれていました。

そこで、処置としては、関節窩に糸のついたネジを埋め込み、
その糸を使って前方の関節包を縫いよせるようにしました。

その後、しばらく入院していただいて、
退院後、術後のリハビリを当院で行いました。

その後、再脱臼もなく、経過は良好です。 

肩関節脱臼に対する手術療法は、術式もさまざまで、医学会でも色々な議論がなされています。

その方法にも一長一短があるので、その患者さんに一番合った方法を採る事になります。

肩関節脱臼治療の方法も考え方が色々あります。

当院では、なるべく再脱臼を起こさない外旋位固定を行い、
再脱臼を繰り返す患者さんには、手術療法をお勧めしております。

また、手術となった場合には、しかるべき病院をご紹介し、

術後のリハビリが必要な場合には当院でリハビリを行っていただけます。

肩関節脱臼でお困りの際には、お気軽にご相談ください!

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