胸・腰椎圧迫骨折による下肢の痺れ (胸・腰椎骨脆弱性骨折による遅発性麻痺)

圧迫骨折は骨折による腰や背中の痛みを伴いますが、
まれに骨折のタイプによって、

骨片が神経を圧迫し、下肢の痺れをていすることがあります。

このページでは、

胸・腰椎圧迫骨折による下肢の痺れが出る発生機序や、
どのようなタイプの骨折がこういった痺れを引き起こすのかという事などを、
実際の患者さんの事例をご覧いただきながら、ご説明したいと思います。

下肢の痺れを引き起こす椎体骨折のタイプ

下の図は椎体(背骨)を1つ取り出したものです。

椎体は3つの構成要素に分けられています。

圧迫骨折は、以下の前柱と、中央柱の部分で骨折を起こします。

前柱で椎体が骨折するタイプを一般に圧迫骨折(compression fracture)といい、

中央柱に骨折が及ばないため、安定型の骨折であるといわれています。

この骨折は、骨粗鬆症が基盤にあると起こりやすいといわれています。

中央柱で椎体が骨折するタイプを破裂骨折(burst fracture)といい、

椎体後方部の皮質骨が破壊されるため、不安定型の骨折といわれています。

この骨折は、垂直方向に強い外力が加わることで起こるといわれています。

骨粗鬆症が基盤にある方は、尻もちをついたり、重量物を持ち上げるといったことでも、

この骨折が起こる可能性があります。

安定型といわれる前柱での骨折タイプでも、圧潰が進行し、

中央柱まで骨折が及ぶと不安定型に移行することがあります。

圧迫骨折でなぜ、下肢がしびれるの?

圧迫骨折によって下肢がしびれる原因には、

2つのタイプがあります。

1つ目は以下の図で示したものです。

前柱の骨折によるタイプでは受傷時下肢の痺れなどはありません。

しかし、骨折椎体の隣接上位椎管での不安定性によって椎管関節の変性と黄色靭帯の肥厚が生じ、
これら後方要素が原因となり下肢の痺れを引き起こすと考えられています。

2つ目は、破裂骨折などによる骨片の脊柱管への嵌入が原因となって起こります。

以下の図がそのイメージ図です。

治療はどうするの?

圧迫骨折によって、下肢の痺れが引き起こせれた場合、基本的に保存療法は無効です。

手術による椎体の固定術などが必要になります。

大切なのは、下肢の痺れが出てこないように、圧迫骨折の進行を防ぐことです。

圧迫骨折の進行を防ぐためには、体幹ギプスによる強固な固定や、定期的なレントゲンの確認が必要です。

また、骨粗鬆症の治療も継続して行っていく必要があります。

以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。


83歳の女性です。

腰の痛みを訴えて来院されました。

寝たきりのご主人を抱き上げたときに、腰の痛みが出現しました。

上のレントゲンは初診時のものです。 

赤色矢印で示した第1腰椎の圧迫骨折が確認できます。

この方は、以前より骨粗鬆症があり、骨粗鬆症の治療をされていました。

上のレントゲンは、初診時より2ヵ月前のものです。

腰痛を訴える前のレントゲンでは、圧迫骨折の像も無く、正常であることがわかります。

ご主人の介護もあるため、体幹ギプスによる強い固定は行う事が出来ず、

ダーメンコルセットによる固定を行いながら、外来での治療をすることになりました。

初診から4カ月ごろより、両下肢の痺れが出現してきたため、
再度レントゲン撮影をしたものが上の写真です。

赤色矢印で示した椎体下縁の骨片が脊柱管内に嵌入していることがわかります。

1か月ほど経過を見ていましたが、下肢の痺れが軽快しないため、

手術をする目的で、入院施設のある病院へ紹介となりました。

上のレントゲンは、後方固定術をされた後のものです。

下肢の痺れは軽減し、お一人で歩けるようになられました。

この方は、最初は圧迫骨折で経過を見ていましたが、
ご主人の介護で骨折部に繰り返しストレスがかかることで、
圧迫骨折が進行し、骨片が脊柱管内に嵌入したタイプでした。

80歳の男性です。

腰の痛みを訴えて来院されました。

尻もちをついて腰が痛くなったそうです。

上のレントゲンは初診時のものです。

赤色矢印で示した第4腰椎部での圧迫骨折が確認できます。

痛みもそこまで強くなかったため、簡易式のコルセットと安静を指示し、経過を見ていました。

順調に痛みが軽減していましたが、 しばらくして、脚の痺れを訴えるようになりました。

脚の痺れは軽減するどころか、強くなり、脚の痛みも訴えられるようになりました。

上のレントゲンは初診時より半年後のものです。

初診時に比べ、赤色矢印で示した椎体は圧潰が進行し、骨片の脊柱管内への突出が認められました。 

上の写真は、MRI画像です。

赤色矢印で示した部分で椎体の脊柱管内への突出が確認できました。

以上より、脊柱管狭窄症による下肢痛と下肢の痺れが生じていることがわかりました。

手術が必要と考え、入院施設のある病院へ紹介となりました。 


圧迫骨折は骨折による腰の痛みを訴えることがほとんどです。

しかし、時間がたってから圧潰が進むことで、下肢の痺れが出現してくることもあります。

圧潰が進行しないためには、体幹ギプスによる固定、骨粗鬆症の治療が大切になります。

軽微な外力で腰痛が生じたり、思い当たる原因も無く腰が痛い場合には、
できるだけ早くお近くの整形外科を自信されることをお勧めいたします。

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