第5中足骨基部骨折(Jones骨折)〜外傷性および疲労性骨折が難治性である理由〜

前足部でみられる骨折の一つとして、第5中足骨骨折があります。

中でも、第5中足骨基部で生じる骨折は難治性であるといわれています。

本骨折は、この症例を初めて報告したJones氏にちなんでJones骨折とも呼ばれ、

疲労骨折であると考えられています。

また、下の図のようなつま先立ちの姿勢で足を捻り、外傷性の骨折として本骨折が生じる場合もあります。

外見上、上の図の赤丸で囲んだ部分が痛くなります。

外傷性もしくは疲労性に生じた本骨折はいずれにしても、

難治性であるといわれています。

このページでは、第5中足骨基部骨折がなぜ難治性であるのかご説明します。

また、当院で経過観察が出来た第5中足骨基部骨折の例を

ご紹介していきたいと思います。

第5中足骨基部ってどの部分?

上の図は、足部を外側から見た解剖図です。

赤い丸で囲んだ箇所が第5中足骨基部と呼ばれる部分です。

スポーツ中において、カットやステップ・ターン動作で足の外側に体重が加わります。

それを繰り返すことによって、第5中足骨基部に剪断応力が持続的にかかることで

疲労性骨折が生じると考えられています。

第5中足骨基部周辺骨折の分類

上の図は、第5中足骨基部周辺を示した図です。

骨折の分類については、解剖学的な見方では、上記の3つに分類されています。

上記のZone2および3で骨折が生じた場合、難治性であると考えられています。

以下で、その理由について述べていきます。

第5中足骨の血行動態

第5中足骨基部骨折が難治性である理由の1つに、中足骨の血行動態があります。

上の図は、第5中足骨の血行動態を示したものです。

第5中足骨においては、1本の栄養動脈が中央付近から侵入し、

二手に分岐して近位部と遠位部に血液を供給して行きます。

一方で、骨幹端動脈は結節部から侵入して放射状に血液を供給します。

第5中足骨基部は骨幹部と結節部の境界部(点線の部分)にあたるので、

同部位で骨折が生じた場合、栄養血管や骨幹端動脈からの血流が

障害されてしまいます。

よって、骨癒合が得にくいと考えられています。

第5中足骨基部にかかる剪断力

第5中足骨基部は他の中足骨と異なり、半分近くは立方骨よりやや外側にあります。

双方の骨を支持する組織として背側、底側には、中足骨間靭帯と背側足根中足靭帯があります。

それらによって立方骨と第5中足骨は強固に固定されています。

スポーツ中のカットやステップ・ターン動作において、立方骨と第5中足骨基部の接触面を支点とした応力が同部位(赤の波線部分)に集中するために骨折が生じやすいとされています。

第5中足骨基部にかかる筋・腱の牽引力


上の左の図は、第5中足骨基部に付着する筋・腱を示した図です。

第5中足骨基部には短腓骨筋腱や第三腓骨筋腱が付着しています。

更に上の右図で示すように、足底からは底側中足靭帯や長足底靭帯が付着しています。

第5中足骨基部に骨折が生じた場合、それらの筋・腱および靭帯による牽引力が骨折部にかかるため、骨癒合が長引く原因であると考えられています。

左の写真は骨模型を用いて骨折した部分でどんなストレスがかかっているのかを示しています。

体重がかかることによって、下から水色矢印の方向にストレスがかかります。

赤矢印は、それぞれ筋肉の作用によって引っ張られる方向を示しています。

つまり、第5中足骨基部と呼ばれる部分には、3方向のストレスが常にかかり、針金が何度も曲げられると折れてしまうように、骨が疲労骨折してしまいます。

また、その部分は血行が他の場所に比べて少ないので、骨が癒合しにくい場所でもあります。

第5中足骨の形状や足部アーチの影響

左の写真は足のアーチを示したものです。

①で表したアーチは「外側縦アーチ」と呼ばれ、
②で表したアーチは「横アーチ」と呼ばれています。

中足骨はまっすぐな骨ではなく、この写真のように丸くアーチ状になっています。

ですので、カット動作などを行う時、アーチがたわみ、第5中足骨基部に剪断ストレスがさらに加わることになります。

このように、第5中足骨は最も足の外側にあるために地面からの力を直接受けやすいという条件下にあります。

第5中足骨基部骨折の治療において、ギプス固定中も体重をかけることを避ける理由は上記のような考え方があるからです。

以上のような要因が、第5中足骨基部骨折が難治性であるという理由になります。

以下で、第5中足骨基部骨折で経過を追うことができた例を

ご覧頂きたいと思います。

体重をかけることを控えながら、
骨癒合とスポーツ復帰ができた例

22歳の男性です。

右足の外側の痛みを訴えて来院されました。

2日前のサッカーの試合で走っていて、急停止し、方向転換した際に、ボッキと音がしたそうです。

当日は痛みのため、試合は途中交代されたそうです。

左の外観写真は初診時のものです。

赤色矢印の部分に腫れと圧痛が認められました。 

レントゲン撮影を行ってみたところ、右第5中足骨骨幹端部に骨膜肥厚像が確認できました。

以上の所見から、サッカー中の動作によるジョーンズ骨折(疲労骨折)と診断し、スポーツ中止を指示しました。

治療方針としては、ギプスの固定は、車の運転などがあるため行わずに、松葉杖による免荷歩行のみを行いました。

左のレントゲン写真は受傷後、1週間のものです。

少しずつ赤矢印の部分に骨吸収像がみられてきました。

この時点で骨癒合を促進する目的で、超音波治療を開始しました。

左のレントゲン写真は受傷後1か月のものです。

赤色矢印の部分に骨吸収像がはっきりと確認できました。

しかし、圧痛はこの時点でほぼ消失していたので、松葉杖は除去し、普段通りに日常生活を送っていいただくようにお伝えしました。

しかし、スポーツ活動の休止は継続していただきました。

左のレントゲン写真は受傷後約11週時点でのものです。

骨吸収していた赤色矢印の部分は仮骨で埋まっており、骨癒合が確認できました。また同部位の痛みも全くありませんでした。

この時点でスポーツの完全復帰を許可しました。 

ギプス固定と足底板療法を行って骨癒合を得た例

左のレントゲン写真は17歳のサッカー選手です。

左足外側の痛みを訴えて来院されました。

サッカーの試合中に足を捻って受傷しました。

画像所見から骨折線が第5中足骨基部(黄色矢印)に入っていたため、骨癒合に長期を要するということも考えた上で、治療としてはギプス固定を行いました。

さらに体重をかけないようにして経過をみました。 

左のレントゲン写真は、1か月後のものです。

骨折部がに仮骨形成がみられ、徐々に骨癒合していることがわかります。

経過が良好であってので、この時点でギプス固定は終了し、足底板療法に変えました。

 左のレントゲン写真は7週間後のものです。

再び骨折部を確認したところ、骨折線はほぼ消失しており、骨折部は完治したと判断し、全体重をかけることを許可しました。

そして、この時点で練習への参加を許可しました。

練習中も再び外側縦アーチを守るため、サッカーシューズに足底板を入れて参加していただきました。

左の写真は主に中足骨のアーチを保つために実際に使用した足底板です。

外側縦アーチを支える構造になっています。

親指側にも足底板を追加して、足全体で体重を支えることを目的としています。

左のレントゲン写真は受傷後10週のものです。

骨折線は完全に消失しました。

この時点では、サッカーのプレーも痛み無くできるようになっていました。

別の角度から、レントゲンを撮って確認して見ても、骨折線はほぼ無くなり、骨癒合したことがわかります。

同部位で再受傷し、足底板療法で骨癒合を得た例

18歳の男性です。 

左足の外側の痛みを訴えて来院されました。  
約2週間ほど前に学校の教室の机に足が引っかかってから痛み出したそうです。その後、痛くて走れない状態でした。

左の写真で赤い丸で囲んだ部分の痛みを訴えておられました。

左足を別の角度から見てみると、足部の外側に腫脹を認めました(赤矢印で示した部分)。

また、同部位に圧痛を認めました。

この方は、1年前にサッカーの競技中に同部位に同じ痛みを生じて、他院で第5中足骨基部骨折の診断を受けておられました。

今回も同じ部位に痛みを覚えておられてので、レントゲン写真を撮りました。

左のレントゲン写真は、初診時のものです。

左第5中足骨基部に骨折線を認めました(赤矢印で示した部分)。

他院での経過が把握できていなかったので、今回生じた骨折が全く同部位かどうかは不明でした。

しかし、前回受傷した部位が脆弱になっており、ストレスのかかりやすい環境になっていたところに、今回足を捻ったことで生じた新鮮骨折だと判断して治療を行いました。

治療方法としては、足底板療法を行いました。

左の写真は初診から1ヶ月のレントゲン写真です。

初診時のレントゲン写真と比べて今回の写真では、骨折線がより明瞭となっていましたので骨吸収期と判断し、経過を追っていきました(赤矢印で示した部分)。

引き続き足底板療法を継続して行きました。

左の写真は初診から2ヶ月目のレントゲン写真です。

1ヶ月前のレントゲン写真と比べて骨折線は不明瞭となり、部分的に骨癒合が見られました。

左の写真は初診から6ヶ月目のレントゲン写真です。

骨髄内は骨硬化してきていますので、順調に骨癒合が得られているものと考えました。

この時点では、お仕事もしておられて、趣味のフットサルも痛み無く出来ておられました。

左の写真は初診から1年2ヶ月目のレントゲン写真です。

この時点で骨癒合は完全に得られていました。

このように、再び同部位で生じた第5中足骨基部骨折は、骨癒合までに長期間を要しますが、ギプス固定をしなくても足底板療法を行うことによって、最終的に完全に骨癒合が得られることがわかりました。

手術療法を行って、スポーツ復帰を目指した例

こちらの写真は16歳サッカー部の選手です。

右足の第5中足骨骨折の既往歴があり、前年にそちらを手術をしていました。

今回は左足の痛みが気になってレントゲンを撮りました。

レントゲンでは第5中足骨基部に骨折が見受けられました。

 以前から軽い痛みがありましたが、骨折部分には圧痛がなかったので、様子を見て修復が見られるかどうか経過観察していました。

2週間後、試合中に痛みを覚え、来院時にレントゲンを撮ったところ、赤色矢印の部分に骨折が見受けられました。

2週間前と比べて、骨折線は薄くなっているように見えたのですが、圧痛が同じ部位に合って、痛みも強いので、さらに精査する目的で、MRIを撮りました。 

MRI を撮影すると、 赤色矢印の先に黒い骨折線が見えています。

角度を変えて見てみると、赤色矢印の先に黒く写っている部分があります。

つまり、その部分で疲労骨折が生じていることがわかりました。

治療の方針は、有望選手で、練習が長期に休めないということで、手術治療が選択されました。

MRI撮影後2週間で、手術を行い、手術直後に撮ったレントゲンです。

骨折部分は安定して、ネジによって強度も高まっています。

1週間~10日は取り外し式のギプスをして、その後は徐々に体重を乗せるようにして、普段通りに歩けるようなところまで回復しました。

後は、現場のトレーナーの指示のもと、練習復帰を目指しました。

術後2カ月で撮ったレントゲンです。

骨折線がほぼ消失して、骨癒合は良好でした。

この時点で、運動時の痛みもなく、練習にもすでに参加していました。

術後4カ月のレントゲンです。

骨折線もなく、完治していることがわかります。

試合にもすでに参加していました。

このように、早期復帰を目指すために手術を行うこともあります。

第5中足骨基部骨折は、サッカーやラグビーなど、カットプレーを行うスポーツをする人によくみられます。

以上のようなスポーツ動作の中で、足の外側に継続した痛みがある方は、
Jones骨折である可能性があるかもしれません。

そういう場合には、早い目に足の専門医に受診されることを勧めします。

第5中足骨基部骨折であっても、全部が全部手術になるわけではありません。
固定療法で治る場合もあります。

どんな怪我でもそうですが、
早期発見、早期治療が完治への一番の早道です!

PAGE TOP