変形性関節症は、荷重肢である下肢に多く見られますが、その多くは膝関節で生じます。
しかし、膝ほど発生頻度は多くありませんが、足関節でも変形性関節症は生じます。
足関節は膝関節に比べて、ほぞ穴のような構造になっているので、関節の構造自体が安定しています。
ですので、足関節にストレスがかかっても、別の関節でそのストレスが代償されるので、
直接足関節に負担がかかりにくいのが発生頻度が低い理由です。
このページでは、足関節でどのようにして、変形性関節症が生じるのかについて述べて、
症例も交えて、その治療法について説明していきたいと思います。
関節症の発生機序
変形性足関節症の病因には、一次性と二次性関節症があります。
一次性関節症とは、骨折や靭帯損傷など明らかな外傷がなく、足関節の変形をきたしていくものです。
一方、二次性関節症は、骨折後の変形治癒や、関節炎、先天性内反足といった
足関節症に進行してきた原因が明らかであるものをいいます。
以下は、関節症の発生機序を図にしたものです。
正常の足関節では、上の左図のように、下からかかる力を脛骨の関節面に均等に分散するような構造になっています。
しかし、関節症になると、右の図のように、距骨が腓骨の方に傾き、足関節が内反変形をきたしてくるようになります。
そうすると、脛骨との関節面に均等にかかっていた体重(青矢印)が、脛骨の一点だけに集中し、体重が赤い矢印のように均等にかからなくなってきます。
この状態が、続くことで、関節軟骨は摩耗し、変形性関節症が進行していくことになります。
また、側面から見た図が以下に示したものです。
側面から足関節を見ると、脛骨に均等にかかっていた体重(青色矢印)は足関節の変形が進むにつれ、
脛骨の前方部に圧力が集中して、脛骨の関節面は前開きになってきます(赤線)。
その結果、距骨が前方へ亜脱臼し、より前方にストレスが集中します。
このような過程を経て、変形性足関節症が進行していきます。
変形性足関節症の症状
変形性足関節症の症状としては、歩き始めが痛くなったり、長く歩き続けていると、足関節の前面やや内側の痛みが生じます。
その後、徐々に関節症が進行していくと、下の写真のように関節全体が腫れるといった症状が見られます。
また、下の写真のように、関節の可動域制限が生じます。
上の写真は、つま先を上へ向けるような動作(足関節の背屈)をしています。
足関節症になると、足首が上に返しにくくなってきます。
さらに、関節症が進行していくと、上の写真の様に、つま先を下に向ける動作(足関節の底屈)が制限されてきます。
その結果、このような関節の運動制限が生じることで、歩きにくさが生じることになります。
変形性足関節症に対する足底板療法
変形性足関節症の保存療法には、足底板療法があります。
それぞれの足底板を入れる目的と作用について、以下でご説明します。
ヒールパッド
靴の中敷きとして、踵の部分に装着します。
傾斜が付いているので、背屈制限のある足関節症でも、体重が前方へ移動しやすくなり、歩きやすくなります。
ウェッジシート
足の外側が少し高くなっている足底板です。
関節症が進行してくると、内反変形してくるため、外側を高くすることで、元の足関節の状態に近づけ、荷重の分散を図ります。
その結果、歩きやすくなります。
ウエッジシートを入れると、以下の図のような効果が期待できます。
関節症が生じると、上図の真ん中の様に内反変形をきたします。
すると、足関節の一点に荷重が集中しやすくなります(赤色矢印)。
そこで、外側が高い足底板(ウエッジシート)を使用することで、
内反変形の傾斜角を正常の足関節の状態へ近づけ、荷重を足関節全体に分散することができます。
足底板はこのように、体重移動や荷重での痛みの分散を目的として使用します。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
59歳の女性です。
左足関節の痛みを訴えて、来院されました。
数年前より、歩行痛があるとのことでした。
こちらの写真は、初診時の外観です。
赤丸印で示した左足関節が健側に比べて腫れていることがわかります。
こちらの写真は、足関節を背屈しているものです。
写真ではわかりにくいかもしれませんが、左足関節を背屈しにくいため、しゃがみにくいと訴えておられました。
こちらの写真は、足関節を底屈しているものです。
健側と比較したところ、左足関節の可動域制限が著明に認められました。
こちらのレントゲン写真は、足関節を正面から撮影したものです。
赤丸印の足関節の関節裂隙の狭小化が認められ、赤矢印の部分には骨硬化像も確認できます。
こちらのレントゲン写真は、足関節を側面から撮影したものです。
健側と比較して、関節裂隙の狭小化と距骨の扁平化(赤縦矢印)が見られ、それに伴い、脛骨、距骨関節面が開大(横矢印)していることがわかります。
〜症例2〜
75歳の男性です。
左足関節内側の痛みを訴えて来院されました。
登山が趣味で、岩などを登るときに痛みが出るとのことでした。
こちらの写真は、初診時の外観です。
赤色矢印で示した部分に圧痛が認められました。
こちらの写真は、足関節を背屈した時のものです。
健側に比べて、患側で背屈制限が見られ、無理に上げると、足関節の内側に痛みが出るそうです。
こちらの写真は、足関節を底屈した時のものです。
健側に比べ、患側で可動域制限が認められました。
こちらの画像は、足関節の正面と側面から撮影したCTです。
どちらの写真にも、赤矢印で示した骨嚢胞(変形関節症にみられる骨変化)が認められました。
こちらのCT画像は、左斜め前から立体的に撮影されたものです。
赤色矢印で示した部分に、骨棘が点在していることがわかります。
山登りをこれからも続けたいという事で、足底板療法を行い、痛みが緩和し、山登りを続けておられます。
〜症例2〜
54歳の女性です。
左足関節の痛みと不安定感が強く、歩行障害を訴えて来院されました。
ポリオにより、左下肢の麻痺を患っておられるという事でした。
こちらの写真は初診時の外観です。
赤丸印で示した左足関節が腫れています。
こちらの写真は、底屈した時のものです。
左足関節に可動域制限が認められます。
こちらのレントゲンは足関節を正面から撮影したものです。
健側に比べ、患側では麻痺があるため、関節裂隙は開大しているように見えますが、距骨に内反変形が生じていることがわかります。
こちらのレントゲンは、側面から撮影したものです。
矢印で示した距骨の関節面は健側と比較すると、患側では扁平化してきていることがわかります。
治療は、足底板をすることで、痛みと不安定感からくる歩行障害を軽減する事が出来ました。
変形性足関節症は、初期の段階であれば、足底板療法や、装具療法で痛みを軽減することができます。
日常生活でしゃがみ込んだり、歩いているときの痛みによって、活動の制限を受けてしまう疾患ですが、
上手に付き合う事で、痛みなどは軽減できます。
関節症の進行度が重症化している場合や、足底板療法が無効な場合には、手術療法の選択もあります。
足首が徐々に痛くなった場合には、変形性足関節症も疑って、早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。