子供さんが、うんていや鉄棒などの高い所から転んで手をつき、
肘関節を骨折したときよくおこるのがこの上腕骨顆上骨折です。
この骨折が判明した場合、手術をするケースも見られますが、
当院では手術をせずに骨折を治すような方法に取り組んでおります。
以下で、その治療の流れについて説明させていただきます。
この骨折は5~10歳代の子供さんに多く、肘関節周囲の骨折の約60%ぐらいを占めています。
骨折部は変形して治ってしまうと、関節が変形してしまうので、
後遺症が残ってしまうことがあります。
ですので、できるだけ元通りの形に戻す必要があります。
手術療法ではピンニングといって、骨を串刺し状にして固定して治していきます。
当院では、基本的に、できるだけ手術はせず、
ギプスを用いて固定療法で治療するようにしています。
左は肘関節を構成する骨を示しています。
上腕骨の矢印で示した部分周辺は正面から見て
ちょうど骨が細く絞られている部分です。
子供さんの場合、
手をついたときに、地面から受ける力は、
上腕骨の細くなった部分に集中してかかります。
横から肘の関節を見ると、
尺骨が受皿のようになっていて、
そこに上腕骨の顆上部が組み合わさって入っています。
上腕骨の顆上部は尺骨に組み込みやすいように、
少し薄くなっている部分でもあります。
この骨折が生じた時に、
気をつけなければならないのは、
上腕骨の近くに神経と血管が走っており、
それらが傷つかないようにして、
扱わなければならないということです。
上腕骨顆上骨折の多くは、
左の図のように斜め後ろに
骨がずれる様な折れ方をします。
子供さんの場合、
この骨折のずれがほとんど分からないぐらいの
折れ方をする場合もあります。
この骨折の重症度は左の図のようになります。
できるだけずれを少なくして、
治すことが後遺症を防ぐことにつながります。
骨折部分はずれている場合が多いので、
左の絵のように、
麻酔をして、骨が基の位置に戻るように整復動作を行います。
固定するときは、肘を曲げて、
少しでも骨がずれないように肩のあたりから、
体の周辺も含め、固定を行います。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
実際に怪我をされた方の修復過程を見ていきましょう!
3歳の女の子ですが、
保育園でダンスをしていて転び、
手をついて受傷しました。
見た目に矢印部分で、
肘が少し後ろへずれていることがわかります。
レントゲンを撮ってみると、
矢印部分で骨折していることがわかります。
後ろの方に若干ずれてしまっているので、
元に戻す必要性があります。
正面から見てみると、
矢印で示したあたりがかなり腫れています。
一般にこの骨折をした場合、1~2cmぐらい、
良い方の肘と比べると骨がずれている場合が多く見られます。
正面から見ると、
矢印で示した部分が骨折によって
上腕骨の輪郭が変形してしまっています。
治療方法は、固定療法を試みました。
ただ単にギプスを腕から巻くだけでは、
元に戻した骨がずれる場合があるので、
身体の方からギプスを巻くようにして、
腕が動かないように固定しています。
横から見ると、肘を深く曲げて固定しています。
この固定を見ると一見大げさで、
お子さんも、親御さんも御心配になられますが、
手術せずに整復した骨がちゃんと元通りになるようにするには、
こうやって安定させることが大切です。
一見大げさなギプスですが、
このように完全に肘の固定をすることで、
手術や入院の必要性もなく、
患者さんが家庭に帰って普通の生活をおくりながら、
安全な治療を受けていただけるように取り組んでいます。
実際に、骨折の修復過程を見ていきましょう。
左のレントゲンが初診時のものです。
骨折部の整復を試みて、
ギプスで固定したときのレントゲンです。
肘を深く曲げた状態にして、
骨折の段差が消えて、
元通りの形を維持したまま固定されています。
3日後、再びレントゲン撮影をしたものです。
肘の周囲の腫れも引き、
ギプス内にゆとりができたため、
骨折部分を固定する力が弱くなり、
すこし骨折部分がずれ始めてきました。
ですので、再びギプスを巻きなおして、
元通りの状態になるようにしました。
矢印のように、押さえ気味にギプスを巻いています。
ギプスの外観を見ると、
矢印部分がへこんでいます。
この固定を2週間続けました。
入浴はできないので、
上半身は身体を拭くだけですが、
下半身の入浴はOKです。
寝るときは腕が重たくなるので、
周りにクッションをたくさん敷いて、
腕の重みがかからないようにしていただきます。
2週間後、レントゲンをとたっところ、
赤矢印で示したところに薄い線状の仮骨が見られました。
この仮骨ができれば、骨は完全に安定しているので、
体までギプスを巻く必要はありません。
左の写真のように腕だけのギプスに変わりました。
この状態だと、肩も動かせますし、
手先も自由に動かすことができます。
受傷後1カ月後のレントゲン写真です。
仮骨はさらにはっきりとしてきて、
分厚い骨に置き換わっています。
この時点でギプスを外しました。
初診から2カ月後のレントゲンです。
骨は完全に癒合しています。
ギプスを外してから、
肘の曲げ伸ばしのリハビリを行っていきました。
リハビリだからといって、
痛みを我慢して曲げ伸ばしする必要は全くありません。
お子さんの好きなように、
日常生活の中で遊びを取り入れたりしながら、
肘を曲げ伸ばししていただくだけで結構です。
外観で肘の曲げ伸ばしを確認しても、
痛みもなく、左右の動きの差もありません。
最初は固定が日常生活を送るのにつらいのですが、
整復して固定すれば、このようにきちんと治ります!
今度は7歳の男の子です。
受傷後、右肘がかなり腫れています。
初診時のレントゲンでは、
矢印部分で骨が折れていることがわかります。
肘を曲げた状態で、骨をもとの状態に整復して、
正しい位置に戻して固定しました。
固定から3週間後、レントゲンを撮ってみると、
骨折線もわからないぐらい奇麗に治っています。
ですので、肘だけの固定に切り替えました。
2カ月後のレントゲンです。
横から見ても、正面から見ても、完全に骨癒合しています。
この固定療法を行って、
平均して固定期間は約1カ月、
さらに、1か月のリハビリ期間で治ります。
(合計約2カ月で治ります。)
一口に上腕骨顆上骨折といっても、軽度な場合から重症まで症状は様々です。
もちろん、骨折がかなりひどい場合、すぐにしかるべき処置が必要なときには、
直ちに大きな病院へ御紹介いたします。
しかし、子供さんの骨折の場合、
成長期にあるため、潜在的に骨を治そうとする力が旺盛なので、
早めに骨折部を元通りにして、しっかりと固定を行えば十分に固定療法でも治せます。
ただ、ギプスが大げさなので
患者さん自身や、ご家族の心理的負担が大きいと感じています。
しかし、こうすることで手術しなくてもこの骨折は治ります。
当院では、患者さんの怪我の具合に合わせて、最適な治療を行うように心がけています。
また、リハビリについても、患者さんの負担にならないように、
なおかつ最短で治っていただける様なリハビリプログラムを考えています。