椎間板ヘルニアと聞けば、腰部での椎間板ヘルニアをよく連想しますが、
頚部でも椎間板ヘルニアが発症します。
腰部とは少し違って、こちらは「頸椎症」と呼ばれる骨の変形から生じることが多く、
重症例になると、脊髄を圧迫する「頚椎症性脊髄症」と呼ばれる疾患になることがあります。
ここでは、頸椎部が原因で手がしびれる疾患について述べて、
他の疾患との鑑別と日常での注意点などについて説明していきます。
上の図のように、首を後ろや横に倒したときに腕に痛みやしびれが走るという症状が出る場合には、
頸椎椎間板ヘルニアを疑います。
何気なく首を動かしたとき、動きにくいなどといった症状が出る場合もあります。
そういった場合に、どのような現象が起こっているのかというと、
下の図の様なことが頸椎で起こっていると考えられます。
頸椎での椎間板ヘルニアは、
腰椎の椎間板ヘルニアとは違って、
上の図の様な突出したヘルニア塊が原因の場合と、
骨の棘によって神経が圧迫される場合とがあります。
以下で、頸椎椎間板ヘルニアについて詳しく見ていきましょう!
この図は頸椎の並びを横から見た絵です。
頸椎は7つの椎骨からなり、そのすぐ間を神経が複雑に走っています。
骨の並びだけでなく、他の組織との位置関係はこの絵のようになっています。
椎体の間を椎間板が埋め、クッションの役割をして、頭の重みを支えています。
椎体のすぐ後ろは脊髄が走っています。
一つの椎体のところでどうなっているのかを示したのがこの図です。
椎体の端は鉤状突起(こうじょうとっき)と呼ばれる椎体間を安定させる土手の様なものがあります。
そのすぐ後ろを神経根が走って、枝分かれをして、手の方まで神経が走って行きます。
真横から見た図ですが、椎間板の後ろには神経根や血管が走るトンネルができています。
これが上下の椎間で構成される椎間孔と呼ばれる トンネルです。
今度は輪切りにして一つの椎体を見てみると、椎間板の周りにある脊髄洞神経と、
そのそばにある脊髄神経節が頸椎の狭い空間に収まっているのがわかります。
脊髄神経節から出た前枝は主に運動の神経の役割を持ち、手の動きを支配しています。
一方、もう1つの枝の後枝は、脊椎の後ろを通って、首の周囲の感覚の支配をしています。
先ほどの脊髄洞神経は、椎間板の周囲をめぐっていて、何かしらの椎間板の異常信号が生じた場合、
図のように神経のいろんなルートをめぐって、肩甲骨周囲や首の周辺の筋肉の緊張をもたらします。
つまり、肩こりや肩甲骨周辺の痛みの原因の一つには、椎間板が原因である可能性もあるのです。
頸椎の椎間板に異常が生じると、神経を介して、左の図の圧痛点に反応が見られることがあります。
肩周辺や、肩甲骨周りに痛みがある場合には、実は首に原因があることが多いのです。
そして、後頭部周辺の痛みや、しびれ感も 、頸椎が由来であることが多いのです。
大後頭神経と呼ばれる、首の付け根あたりから出る神経は、上の絵の青色の部分を担当しています。
ですので、首の筋肉の緊張が強くなってしまうと、大後頭神経の通り道も緊張によって狭められてしまい、
後頭部の痛みやしびれの原因となるのです。
さらに、神経根を刺激するような状況になると、
この絵のように手のほうにまで痛みが出てくることになります。
そのきっかけは、些細なことでおこります。
スポーツの際に後ろを振り返ったり、車の運転中に後ろを振り向いたり、
デスクワークで常に首の緊張が強いられるような状態が続くと、頸椎の負担が大きくなります。
また、重労働や、ラグビーやアメフトなどで、頚部を圧迫することなどが原因になることもあります。
健全な首のレントゲンを撮ってみると、首は前カーブを描き、均一な椎間を保っています。
しかし、首を後ろへ倒すような動作をすると、椎間板の圧が増強し、後方にある脊髄や神経根を圧迫します。
そうすると、上の様な均一な首前方のカーブが失われ、椎体のなめらかな並びが失われます。
突出したヘルニアの出る方向によって、神経が圧迫されるところが違ってきます。
この絵のようにほぼ真後ろに突出してしまった場合には、
脊髄を圧迫するので、両手・足がしびれたり、両手の細やかな指の動きができなくなったりします。
さらに、歩行障害まで伸展する場合があるので、このような場合は「頚椎症性脊髄症」を疑います。
今度は、ヘルニアの圧迫部位がやや外側になった場合です。
同じく脊髄の一部分と、神経根を圧迫してしまいます。
このような場合には、一側の手の障害が出ます。
しかし、一つ前の図の場合よりは、症状は軽くなります。
今度はさらに外側での神経の圧迫が生じた場合です。
神経根障害のみになります。
このような病状の場合には、まだ症状が軽いので、圧迫の刺激がひどくならないように、
頸椎カラーを使って頚部の安静を図ることで、痛みが軽減されます。
ヘルニアによって障害される場所の違いから、
障害される神経も異なるので、症状が出る場所も異なってきます。
例えば、5番目と6番目の間の椎間板によって、神経の通り道が障害された場合は、第6頚神経が障害されます。
第6頚神経が圧迫されて障害を受けると、この図のように親指から腕の前側に痺れが生じます。
ですので、椎間板ヘルニアのおこった部分によって、
障害される神経が違うので、出てくる症状も違いがあります。
画像での診断は、レントゲンを撮って確認すると、1か所の椎間が狭まってしまっている所見が見られます。
さらに、首を前後にしてレントゲンを撮ることで、
首の前カーブが失われて、十分な首の動きがとれていないこともわかります。
症状が長引いている場合や、痛みが強かったり、脊髄症様の症状が出ている場合には、
さらに詳しく病態を把握するためにMRI を撮影します。
脊椎を輪切りにしてMRI を撮ると、椎間板が神経を圧迫しているのがわかります。
では、実際の患者さんを見てみましょう。
54歳の男性で、首を少しひねっただけで右腕の痛みが強く出たため、受診されました。
腕を下に下げていると、神経が引っ張られて痛むので、腕をあげていると楽なので、
この写真のように腕をずっと上げたままにしておられます。
レントゲンを撮ってみると、比較的後ろへ頭を倒すのはできていましたが…。
前に倒すと、下の部分の椎間が上の部分に比べて狭くなっていました。
ですので、椎間板がへたってしまい、このように狭くなってしまったのではないかと思われます
なので、頸椎カラーを処方し、鎮痛剤も処方することで、
椎間板にかかる負担を減らし、患部の炎症による痛みを和らげる治療方針をとりました。
今度は 40歳の女性です。
左腕のしびれと、痛みによる首の運動制限がありました。
3週間前から様子を見ておられましたが、症状に変化がないために受診されました。
症状が強いのでMRI を撮ったところ、頸椎の椎間板が突出して神経を圧迫している部分が見つかりました。
(赤丸の部分)
輪切りにしたMRI では、赤丸の部分で、はっきりと椎間板が神経を圧迫しているのが見えます。
ですので、鎮痛剤を処方し、痛みが軽減したところで、頸椎の牽引療法を行いました。
だいたいの場合、急激に発症した強い痛みは4~5日で落ち着きますが、
腕のしびれ感や首を動かした時の痛みが軽減するには2~3週間かかります。
骨棘(こつきょく)による神経の圧迫が原因の場合
頸椎の変形の度合いを示したのが上の写真です。
段々と右へ行くほど椎間が狭まり、
骨の形もとげとげしくなっているのがわかります。
この骨の辺縁がとがっている部分を骨棘(こつきょく)といいます。
これは少しでも接触面積を広く取ろうとして起こる生体の反応です。
一番右の写真に至っては、骨粗鬆症化が生じています。
図で病態を詳しく見てみると、骨棘が形成された椎体では、椎間関節も摩耗して、変形をきたしています。
赤い丸で囲んだ椎間孔が骨棘と椎間関節の変形により、椎間孔が狭まってるのがわかります。
実際のレントゲンでは赤色矢印で示したように、椎間が狭まった上に、頸椎の前カーブも失われています。
前に頭を下げた状態でレントゲンを撮ると、
椎間の不安定性がはっきりとわかり、椎体の後ろの並びに段差が生じていることがわかります
また別の患者さんのレントゲンを見てみましょう。
レントゲンを撮ると、骨棘が生じているのがわかります。
首を前に倒すと、椎間板がへたって、椎間が狭くなっていることがはっきりとわかります。
頭を後ろに倒すと、骨棘がさらに明らかに写っています。
この方の症状は、首を後ろへ倒すと、左肩甲骨周辺と、左腕に放散する痛みが生じました。
また別の角度からレントゲンを撮ってみると、椎間孔の形を把握することができます。
右側から見た椎間孔は割と楕円形を保っています。
左側から椎間孔の形を見ると、骨棘によって通り道が狭められ、変形して見えています。
明らかに、骨棘が神経を圧迫しているのが、レントゲンからもわかります!
この方は、変形性頸椎症由来の神経根炎であると診断できます。
治療の方針は、前の方と同じく、頸椎カラーの処方から始めました。
症状を軽減するために日常で注意できること
この図にあるような姿勢は、首の前後カーブを極端に必要とします。
したがって、こういった姿勢を長時間するのは首にとって負担が大きく、
神経症状を助長してしまうことになります。
横向きに寝るときは、頭の中心線が、背中の中心線同じになるようにしましょう。
首だけが曲がらないようにしましょう。
予防のための運動
首肩周りの柔軟性を保つことが予防につながります。
ですので、首肩周りのストレッチを行いましょう!
椅子に座った状態で、背筋を伸ばしながら両腕を上に上げていきます。
すると、腕の付け根あたりが伸びていく感じがします。
両腕を上げた状態で約5秒ぐらいキープしましょう。
次は首を伸ばします。
右にゆっくり首を倒して約5秒キープしましょう。
5秒キープしたら、ゆっくり真ん中へ首を戻します。
手の痺れがあり、神経の炎症がある場合には、この運動は控えてくださいね!
真ん中へ首を戻したら、次に左の方へ首をゆっくりと倒していきます。
倒した状態で約5秒キープしましょう。
5秒キープし終わったら、再び首を真ん中へゆっくりと戻していきます。
今度は両手を組んで胸の前でボールを抱える様な姿勢になります。
ボールを抱えるように腕を組んだままで息を吸い込みましょう。
そして、ゆっくりと息を吐きながら、おへそをのぞきこむようにします。
そうすることで、肩甲骨あたりが伸びます。
この姿勢で約5秒キープします。このとき自然呼吸を行ってくださいね!
息を止めないように意識してくださいね!
椅子に浅く腰をかけ、両手を椅子の両端に置きます。
そうすることで、胸の前方が伸びます。
意識して、胸を前に突き出すような感覚を持ちましょう!
この姿勢を約5秒キープします。
次は腕の後ろを伸ばします。
反対の首の付け根あたりに手を置いて、あいている方の手で、肘を体の方に近づけます。
これも5秒ぐらいキープしましょう。
反対側の腕も同じように伸ばします。
前の運動と同じ姿勢で、肘を上の方に押し上げて伸ばします。
こうすることで、脇のあたりが伸びます。
約5秒ぐらいこの姿勢でキープしましょう。
ストレスからくる筋肉の緊張などでも首は緊張します。
もちろんストレッチや体操なども必要ですが、日常生活の中で、リラックスする時間を作ることも大切です!
睡眠を十分にとったり、お風呂にゆっくりと入ることなどで、
日頃の疲れをとり、緊張した神経をリラックスさせてあげましょう!
こういったリラックスタイムを積極的にとることも、首の痛みの軽減に有効です!
頸椎の病変は手がしびれるとか、
指先が動かしづらいという症状が出るので、
鑑別が必要です!
同じように指先がしびれたりする疾患は他にもあります。
「手根管症候群」、「肘部管症候群」、「胸郭出口症候群」
のような症状でも、手がしびれます。
上記3つの疾患について詳しくは、それぞれのページでご覧ください。
頸椎の病気は手だけにとどまりません。
頸椎は歩行や姿勢を保つ意味でも重要な場所です。
ですので、たかが首の痛みと甘く見ずに、
一度整形外科を受診されることをお勧めします!