頚椎症性筋萎縮症

明らかな原因が無いにも関わらず、腕が上がらなくなったり、力が入らないといった症状を呈する疾患の一つに頚椎症を由来とする疾患もあります。頚椎症には頸椎の加齢性変化によって頸部痛や片側上肢のしびれ感が生じる頚椎症性神経根炎が多いのですが、なかには上肢の筋肉の萎縮が生じる「頚椎症性筋萎縮症」もあります。本疾患は腕が上がらなくなったり、力が入らないといった症状を呈するので他の疾患の鑑別を必要とします。

このページでは「頚椎症性筋萎縮症」の病態をお伝えし、実際に来られた患者さんの経過をお伝えします。

頚椎症に伴う神経根の圧迫

上の図は頸椎を上方からみた図です。椎体の加齢性変化に伴って突出した骨棘の一部が神経根を圧迫しているというイメージ図です。前根は運動をつかさどる神経、後根は感覚をつかさどる神経ですが、頚椎症性筋萎縮症では神経前根の単独もしくは前角の障害であるとされているため、上肢の運動障害が症状としてみられます。

上の図は頸椎から出た神経の走行を示した解剖図です。第5及び第6(C5、C6)神経根は上神経幹を形成したのち肩甲上神経が分岐します。この神経は棘上・棘下筋を支配しています。さらに遠位にいくと外側神経束を形成し筋皮神経が分岐していきます。この神経は上腕二頭筋を支配しています。そして、先の上神経幹からの枝と合流した後神経束から腋窩神経が分岐しています。この神経は三角筋・小円筋を支配しています。

以上の3つの神経はいずれも腕を挙げる動作に関与する重要な筋肉群を支配していますのでC5,C6神経根での障害は腕が挙がらないという症状となります。以下の写真は実際の患者さんの症状を表したものです。

他の疾患との鑑別

上の表は上肢の運動障害を主訴とする他の疾患との鑑別点をまとめたものです。表にもあるように前駆痛を伴うことなく発症し筋萎縮は障害される神経根に由来する筋肉群にみられます。

以下で実際の症例の患者さんを紹介していきます。

症例170歳男性、左の腕が上がらないということを訴え来院されました。当初は左肩の腱板損傷の診断で経過を見ていましたが、左の腕や肩関節周囲の筋が時々痙攣するような症状があったということです。上肢のしびれ感や知覚障害は認めませんせでした。

上の写真にあるように左上肢の自動挙上運動は完全にできませんでした。(左写真)また、肩関節周囲の筋萎縮を認めました。(右写真)すでに2ヶ月が経過した時点で上記の症状に変化がみられ無かったので鑑別診断をする目的でMRI撮影を実施することになりました。

上の写真は頚椎のレントゲン画像と同部位のMRI画像です。左の写真にあるように椎体の変形により骨棘形成が見られます。そこでさらに詳細に病態を知る目的でMRIを撮影したところC4/5間において椎間板の狭小化を認めました。

水平断撮影ではC4/5間で左側の神経根が椎体による圧迫を受けていることがわかりました。(左写真)一方で、C5/6間に明らかな圧迫所見認めませんでした。よってC5神経由来の筋群が障害を受けて上肢の挙上が困難となっていたと推察し、頚椎症性筋萎縮症と診断しました。

症例263歳女性、右腕が上がらないということを訴えて来院されました。1週間前より急に腕が上がらなくなったそうです。初診時に頚部の痛みは訴えておられませんでした。初診時の外観は以下のようです。

理学所見から頚椎症由来の神経根障害を疑って画像検査を行いました。

頚椎のレントゲン写真では椎体の変性がみられ骨棘形成は多椎体にみられます。(左写真)

MRI画像では矢状断で明らかな骨棘による神経の圧迫所見を認めます。(中央写真)同部位の水平断では右側の神経根の出口付近で狭窄を疑う所見を認めました。(右写真)以上の所見から頚椎症性の筋萎縮症と考えて経過観察を行いました。

上の写真は1ヶ月後の写真です。上肢の挙上はほぼ患健側差が無くなっています。

以上のように前駆症状が無く、上肢の挙上障害を認める場合には頚椎症由来の病変も考えられるので他の疾患との鑑別が必要です。

急に腕が上がらないという症状では直ちに整形外科を受診して相談してみてください。

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