ばね指というと、手の使いすぎによる腱鞘炎のイメージがあり、大人の病気のように思われますが、
子供さんの「ばね指」も存在します。
「小児ばね指」は、お母さんが子供さんの手の指が曲がったままになり、
指が伸びないことを発見され、御来院になられる場合がほとんどです。
「小児ばね指」は経過観察しているうちに大半が良くなっていく病気です。
手術などの必要性はほとんどありません。
お子さんの指が動かないという状況で、ひどくご心配になられる親御さんもいらっしゃると思います。
しかし、それほど神経質にならず、経過観察しているうちに、不自由なく治っていきます。
このページでは、当院での「小児ばね指」の治療と経過について御覧いただきたいと思います。
「日本手の外科学会・パンフレット」より参照
子供のばね指は上の写真のように指を曲げたり伸ばしたりする際に
引っかかり現象や曲げたままで指が伸びないなどの症状が出ます。
お子さんが指を自力で動かそうとしても指が伸びず、
お母さんが、指を伸ばしてあげると伸びるという状態もあります。
上図のように、腱の部分がほつれて、腫れてしまい、
腱鞘のトンネルを通らなくなり、指が引っかかる現象が生じます。
以下の動画は、大人のばね指と子供のばね指の比較です。
大人のばね指の外観
小児ばね指の外観
大人のばね指と、子供のばね指の違いを示したのが下の図です。
大人のばね指では腱鞘滑膜(トンネル)自体が腫れて腱の通りが悪くなります。
右の絵が子供さんのばね指です。
腱そのものが腫れて、腱鞘(トンネル)を通りにくくなっているのがお分かりいただけると思います。
これが大人ばね指と子供のばね指の違いです。
小児ばね指の治療
手術の適応となる小児ばね指の年齢は、6歳ぐらいが一つの目安といわれています。
しかし、実際には6歳を超えても症状の改善が見られるケースがあります。
以下で、実際の症例をご覧いただき、参考にしていただければと思います。
〜症例1〜
5歳の男の子です。
左母指の伸展制限を訴えて来院されました。
3歳半頃から、左母指IP関節が伸展できないということでした。
近隣の整形外科で小児ばね指と診断されたそうです。
しかし、1年半も症状の改善が見られないため、ご両親が心配になり、当院を受診されました。
この動画は、初診時のものです。
左母指を完全に伸ばせず、無理に行うと左母指とMP関節が過伸展していることがわかります。
左母指が伸びきらないということで、母指IP関節を伸展させた状態でこちらの写真のように固定を行いました。
この動画は、固定を行った1ヶ月後のものです。
人の手を借りれば、母指IP関節を伸ばすことができるようになりました。
この動画は、3年後のものです。
左母指を屈伸させてもひっかかりがなく、母指も伸展することができるようになりました。
ご両親は、経過が長いため、手術も考えておられたそうですが、固定療法で治って大変喜んでおられました。
〜症例2〜
5歳の女の子です。
右母指IP関節の伸展制限を訴えて来院されました。
2歳の頃に右母指IP関節が伸びないことに、ご両親が気づいたそうです。
ここ1年間は全く指が伸びないということでした。
こちらの写真は初診時の外観です。
赤色矢印で示した右母指IP関節が伸びていないことが確認できます。
こちらのレントゲン画像は初診時のものです。
外観写真と同部位で、右母指が伸びていないことがわかります。
こちらの写真のように、固定を行いました。
本来であれば、母指IP関節を伸ばした状態で固定を行っているのですが、
拘縮が強かったため、少し屈曲したままでの固定となりました。
こちらの写真は2ヶ月後のものです。
全く伸びなかった母指は赤色矢印のように、伸ばすことができるようになりました。
ご両親は手術を考えていたため、固定療法で、症状の改善が見られ、喜んでいらっしゃいました。
〜症例3〜
4歳の男の子です。
右母指の伸展制限を訴えて来院されました。
3ヶ月前より、右母指IP関節が伸展できないということに、ご両親が気づき、当院を受診されました。
右母指MP関節掌側部に腫瘤を確認できました。
こちらの写真は初診時の外観です。
赤色矢印で示しているように、母指は完全に伸びきらず、曲げるのもしづらいことがわかります。
こちらのレントゲン画像は初診時のものです。
赤色矢印で示した、母指IP関節が完全に伸びていないことがわかります。
この動画は初診時のものです。
右母指の屈曲制限が著明に見てとれます。
この動画は、固定7ヶ月目のものです。
まだ少しひっかっかりが見られますが、母指IP関節が屈曲できるようになっていることがわかります。
その後、約2ヶ月ほどでひっかっかりも無く、ご両親も喜んでおられました。
〜症例4〜
実際の患者さんの例をごらんいただきたいと思います。
親御さんが「指を伸ばして」と言っても、写真の矢印で示している親指の関節が曲がったままになり、
完全に伸びていません。
上の写真と同じお子さんですが、矢印で示しているように、指を曲げることは自分でできることがわかります。
こういった患者さんがこられた場合、
まず、エコー検査をします。
腱が膨れているのが、どの辺にあるのかを画像で確認します。
こちらの写真の赤丸で囲んだ部分に、腱の腫れが確認できます。
今度は、別のお子さんです。
このお子さんの場合は、中指が思うように動かせない状態でした。
レントゲン写真も、お母さんに、お子さんの指を伸ばしていただいて撮影しています。
このお子さんの場合には、スタッフがポリキャストという素材で装具を作って治療することにしました。
装具を装着したお子さんの手の様子を手のひら側から見た写真です。
このようにして、装具を装着し、安静を保ちます。
装具を装着した状態を手の甲側から見た写真です。
日中は、子供さんは嫌がって装具を装着してくれない場合がほとんどです。
そういう場合には、子供さんが夜寝ているときだけ、
親御さんに装具をつけていただくようにお願いしています。
装具固定は夜寝ているときだけで十分です。
こういった場合、日中は、親御さんは子供さんと手遊のような感覚で、
指の曲げ伸ばしをしていただくといいと思います。
〜症例5〜
3歳女児の患者さんの写真です。
御来院になる3日前に、親御さんがお子さんの指が曲がらないことに気がつき、診察にこられました。
親指の関節が曲がったままで、自力で伸ばすことができません。
エコー検査をしてみると、赤丸で囲んだ部分に腫れが見られます。
腱が膨れ上がって、引っかかり現象がおきていることがわかります。
固定療法をして、治療の途中の写真です。
補助してあげると、写真のように指がのびる状態になっています。
子供のばね指は、8割ぐらいの確率で、6才ぐらいまでに症状が無くなる場合がほとんどです。
よほどのことがない限り、手術の必要性もありません。
ですので、親御さんはあまり神経質にならず、地道に経過を見て治療を続けるということが大切です。
〜症例6〜
5歳男児の患者さんの写真です。
1年半前に右母指の屈曲変形に親御さんが気がつかれ、近隣の整形外科にてばね指と診断を受けたそうです。
しばらくマッサージなどをしながら経過をみていましたが、
指が曲がったまま伸びないことが目立つようになったため当院に来院されました。
左の写真の様に、手指を伸ばした状態でも、曲げた状態でも右の母指が曲がっていることがわかります。
左の写真は指を伸ばした状態を保つための装具です。
日中だけでなく、夜間装具としてもつけていただきました。
左の写真は初診から約2週間後に来院していただいた時の外観です。
右母指は完全に伸ばすことができています。
この時期から日中は装具を外し、夜間のみ装具をつけてもらうように伝えました。
左の写真は初診から約2ヶ月後に来院された時の外観です。
日常生活にも支障はなく、引っかかり感も消失していました。
その当時の動画がこちらになります。
「小児ばね指」の患者さんの予後について、以下で例を見ていただきたいと思います。
2000年に、ある患者さんが「小児ばね指」で来院され、エコー検査を行ったときの画像です。
赤丸がついている部分に、腱の腫れが見られます。
ですので、装具療法を行いました。
2007年、別の部位が痛いということで上のエコー写真と同じ患者さんが御来院になりました。
その際、「小児ばね指」の状態も確認させていただきました。
2007年のエコーでは、赤丸で囲んでいる部分に2000年当時あった腫れがなくなっていることがわかります。
ほとんどの「小児ばね指」の患者さんも、この患者さんと同じように、数年の経過観察を行ってみると、指の曲げ伸ばしの不自由もなく、順調に過ごしておられます。
子供さんのばね指は、指の曲げ伸ばしができないという症状について、
親御さんが非常にご心配になられます。
しかし、神経質にならずに、経過を1~2年ぐらい見てあげて、
気長に治療してあげれば、8割以上の割合で治ります。
あせって手術する必要性はまずありません。
ですので、お子さんの指が曲がらない、もしくは曲がりにくいという症状がある場合には、
御来院いただき、お気軽にご相談ください。