半月板損傷はスポーツ中に明かな外傷歴があって、それを契機として膝関節が痛んだり、曲げ伸ばしが完全にできないなどの症状が見られます。一方で、中高年齢者にみられる半月板損傷は半月板自体の変性を基盤として発症することがあります。半月板が変性するという状態は、変形性膝関節症に至る過程で半月板自体が摩耗したり、支持性を失ったりしていきます。そこで軽微な外力でも半月板が傷ついてしまうことにつながります。
そこでこのページでは変性半月板損傷についてご説明します。
膝関節と半月板の位置
下の図は膝関節を正面からみたものです。半月板は大腿骨の関節軟骨に接する形で存在しています。半月板は線維性軟骨という成分であり、歩行をはじめとした移動動作の際に膝の関節軟骨や軟骨下骨へかかる負荷を吸収したり分散する機能を有しています。レントゲン写真では半月板の形態は映らないのでMRIを撮影して半月板の形態や損傷度合いを確認します。

変性した半月板の画像所見(MRI)



半月板の変性から水平断裂を起こすまで
下の図は変性した半月板からどういった過程で損傷に至るかを示した図です。

変性が進んだ半月板は度重なる力学的負荷を吸収や分散する機能が低下し、さらに同部位に負荷がかかり続けると水平断裂を生じます。この変性した半月板の断裂は、さらに半月板機能の低下や逸脱をきたして、軟骨下骨へ影響を及ぼし変形性膝関節症へと進んでいきます。
変性半月板損傷の症状
膝関節内の水腫は軽度で脛骨内顆部に圧痛点が存在します。また、軽度ですが膝関節の完全伸展ができず、屈曲する際も左右差を認めます。

上の写真は左膝関節が伸び切っておらず、軽度の水腫を認めています。

上の写真は別の方の外観写真ですが、膝関節屈曲時に関節可動域に左右差を認め、脛骨内顆に沿って圧痛点が存在しています。
以下で実際の症例をご覧いただきます。

70歳代の女性です。左膝の痛みで来院されました。小走りをした際に急に左膝が痛くなり始めて2日後に来院されました。膝関節の水腫を認め、伸展および屈曲の可動域制限を認めました。しかし、膝関節のロッキング症状はありませんでした。

上の写真は荷重位で撮影したレントゲン写真です。左右ともに膝関節の内側関節裂隙は保たれており、アライメントも特に問題ないと考えます。大腿骨軟骨面や脛骨内側関節面に骨棘等の変形関節症所見も認めません。そこで関節内の病態を詳しく確認するためにMRIを撮影しました。

上の写真は正面からみたMRI画像(左の写真)と側面から見たMRI画像(右の写真)です。内側の半月板後節に水平断裂像を認めます。大腿骨関節面や脛骨関節面の輝度変化がないことから、変性半月板損傷と考えました。治療としては、膝関節の可動時に痛みが生じないように弾性包帯による固定を行い、並行してヒアルロン酸関節内注射を1週間に一回行って経過をみることにしました。その後痛みが軽快した時点で膝関節サポーターを処方し、注射療法は2週間に一回行いました。
中高年齢層で明かな外傷の既往歴がない膝関節の痛みが生じた場合、レントゲン撮影を行っても変性などの異常所見がなく、特に問題がないという言葉で終わることがあるかもしれません。しかし、実は変性半月板損傷が存在していて膝関節水腫や可動域制限を認めて痛みが長引く場合があります。軽微な外力でも半月板が痛む場合があるので、整形外科に受診していただくことをお勧めします。