Dieterich病  (ディトリッヒ病・中手骨骨端症)

手指の疾患の多くは、使い過ぎによる腱鞘炎やスポーツによる関節の外傷が多いのですが、
稀に中手骨骨頭部で、阻血性の骨端障害が生じる場合があります。

この疾患をDieterich病(中手骨骨端症)と言います。

発症年齢は10代後半から50歳代ぐらいと、幅広い年代に見られますが、
20歳代の発症が多いと言われています。

罹患指は、中指が最も多く、母指が最も少ないと言われています。

国内での報告例も少ないので、詳しい病態や原因などはまだはっきりとわかっていません。

このページでは、当院で経験したDieterich病(中手骨骨端症)についてご覧いただきたいと思います。

Dieterich病(中手骨骨端症)の外観

上の写真は、Dieterich病として診断した方の外観写真です。

                            右手の握りこぶしに注目してみると、環指のMP関節周辺が腫れて中手骨頭の高さに違いがあることがわかります(赤色矢印の部分)。

このように、中手骨頭が変形してしまう疾患ですが、どうしてこのような疾患がおこるのでしょうか?

Dieterich病(中手骨骨端症)の発生メカニズム

Dieterich病の発生には、大きく二つのことが関与しているといわれていますが、定説は未だ定かではありません。

以下に、2つの要因について述べていきます。

中手骨の栄養血管分布

上の図は、中手骨の栄養血管の分布を示したものです。

中手骨の主栄養血管はそれぞれにあるはずなのですが、なかには、それが欠損している方もあるといわれています。

その場合には、主たる栄養血管は骨頭の小血管と関節周囲からくる微小血管がその役割を担う事になります。

そこに何らかの中手骨頭を圧迫するような原因が生じると、血管の血流が阻害され、骨頭への栄養供給が途絶え、徐々に骨頭壊死にいたると考えられています。

中手骨頭にかかるメカニカルストレス

また、中手骨頭に繰り返しかかるストレスが、先に述べた中手骨頭の栄養血管の血流を阻害することで起こると考えられます。

上の図は、当院で経験したDieterich病の患者さんの発生原因を図示したものです。

この患者さんの場合、ハンドボールの投球動作が誘因であったと考えました。

①ボールを握った際に、背側骨間筋などの作用によって、中手骨頭部に軸圧が加わり、

②そこへ、ボールを投げようと加速が加わる時、背側骨間筋などの牽引力がさらに強くなり、

③ボールリリース時には、MP関節の過伸展強制が加わり、中手骨頭に負荷がかかると考えました。

Dieterich病(中手骨骨端症)の画像診断

診断は通常レントゲンでわかりますが、MRI検査により障害が起こっている範囲や軟骨の状態も詳細に把握することができます。

以下が実際の患者さんのレントゲン写真です。

右手が患側です。右手と左手の第4中手骨頭を比べてみると、
右側の骨頭が扁平化していることと、骨硬化していることがわかります。

Dieterich病の方のレントゲン画像はこのように写ります。

Dieterich病のエコー画像

下の図は、Dieterich病の状態をエコー画像で確認している所です。

第3中手骨骨頭をあらゆる角度から見ています。

赤い枠で囲んだものが患側のエコー画像で、青い枠で囲んだものが、健側のエコー画像です。

指を伸ばした状態では、
骨頭軟骨の一部が途絶えるような
画像が背側部に見えます。
(赤丸印の部分)

指を伸ばした状態で、
手のひら側から見ると、
軟骨は温存されていますが、
全体的に骨頭は扁平化しています。

握りこぶしを作った状態では、
骨頭背側の軟骨は
温存できていますが、
扁平化が見られます。

上記のように、骨頭軟骨の状態と形状がエコー画像を撮ることで確認できます。

治療は痛みが強い間は、指を曲げることができないようにするためにスプリント固定を行います。

しかし、すでに可動域制限がある場合は、手術の適応となる事もあります。

この疾患は、比較的予後が良好であると言われていますので、
経過観察だけで治癒する場合も多いようです。

 

では、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。

16歳の男性です。ハンドボール部に所属しています。

右手、中指のMP関節の痛みを訴えて来院されました。

2週間前より、練習中にボールを握る動作で痛み出現しました。

来院された時は、右中指を反るように伸ばす動作で痛いという事でした。

レントゲンを撮ってみると、
赤丸印で囲んだ右第2中手骨骨頭部には、骨硬化像が、
第3中手骨骨頭部には、骨透亮像と、骨頭の扁平化が見られました。

年齢やスポーツ特性などからも、Dieterich病と考え、
病期の判断を行うためにMRI撮影を行うことにしました。

左はMRIの画像です。

上段はT1強調画像で、下段はT2強調画像です。

第2中手骨骨頭は、輝度変化が認められ、
第3中手骨骨頭にも、輝度変化が認められ、陥凹も確認できました。

治療は、ハンドボールをすると痛みが出現するため、
スポーツ中止を指示しました。

ハンドボール以外では全く痛みも無く、
日常生活での支障もありませんでしたので、
特に、固定などは行わず、経過観察をすることにしました。

左のレントゲンは初診から約3ヶ月後のものです。

骨透亮していた部分が骨硬化してきており、
修復過程に入ってきていると考えられてました。

この時点で、患者さんの自覚症状なども消失していたため、
スポーツ復帰を許可しました。

 

 

左のMRIは初診から約4カ月のものです。

第2中手骨の骨頭部の輝度変化はほぼ消失してきており、
第3中手骨の骨頭部は扁平化は認められますが、
輝度変化の範囲も小さくなってきていることがわかります。

初診時のMRIを再度見比べたところ、
初診時のMRIでT1強調像にて帯状低信号があり、
骨壊死に対する修復反応が生じてから、
一定の時間が経過しているという事がわかりました。

左の写真は、初診時から4カ月後のエコー画像です。

こぶしを握り、第3中手骨手背側よりエコー検査をしたところ、
健側と比較して赤丸印で示した部分に、
第3中手骨骨頭の扁平化が確認できました。

左の外観写真は初診から4ヵ月のものです。

中指をそらす動作を健側と比較したところ、
写真で示すように、若干の可動域制限(10°差)が認められました。

これは、関節包の拘縮、腱の癒着、滑膜の肥厚ではないかと推察し、
可動域訓練の指導を行いました。

現在は、痛みなく、ハンドボールの練習に復帰されています。


この方は16歳の男性です。

左の写真は患者さんの初診時の外観写真です。

右手の赤色矢印で示した部分の痛みと腫れを訴えて来院されました。

レントゲンを撮ってみると、赤矢印の先で示した右第4中手骨骨頭は
左と比べて扁平化していることがわかりました。

このレントゲンから、Dieterich病であると診断し、
痛みのある間は、痛みが出ないようにしばらくの間固定を行いました。

左の写真は初診時と6年後に別の疾患で来院されたときのものです。

6年後に再び来院されたときには、痛みや腫れもなく、
日常生活での支障も全くありませんでした。

レントゲンでは、初診時と6年後の画像は変わりませんが、
これから言えることは、症状が悪化していないという事です。

痛みや腫れも出ていないということですので、
予後は良好であると言えると思います。

 

Dieterich病は非常に稀な疾患です。

一定の時期まで骨頭の変形は進みますが、荷重関節ではないため、総てが変形性関節症に移行するものでもなく、
予後は比較的良好であると言われています。

握りこぶしの頭の骨の部分が痛いという場合には、こういった疾患も存在しますので、
気になる場合には、一度整形外科を受診されることをお勧めいたします。

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