上腕二頭筋腱断裂(力こぶの形が何かおかしい?)

肩の痛みの中で、そのほとんどは肩の関節を構成する腱板という筋肉の束が炎症を起こしたり、

損傷をうけたりすることで起こります。

しかし、中には、腕の腱が切れてしまい、肩の痛みや腕の脱力が生じる疾患があります。

その代表的なものが上腕二頭筋長頭腱断裂です。

このページでは、どういった状態でこの疾患とわかるのか、見ていただきたいと思います。

近位上腕二頭筋断裂

上の図は肘を曲げて力こぶをつくるような姿勢をとったときの図です。

力こぶを作る筋肉は「上腕二頭筋」と呼ばれ、「長頭」と「短頭」の2つの筋肉の束でできています。

上腕二頭筋の腱は肘の部分では橈骨(とうこつ)と呼ばれる前腕の骨についています。

肩の部分では、長頭腱は上腕骨の前を通り、肩甲骨の関節部分につきます(図の上の赤丸部分)。

一方で短頭は肩甲骨の烏口突起(うこうとっき)と呼ばれる骨の突起部分(図の下の赤丸部分)につきます。

下の図では、腱の断裂部分を示しています。

上腕二頭筋長頭腱は、上腕骨の結節間溝という溝の中を走ります。

ここで上腕二頭筋長頭腱は腕を上げる際に、
上腕骨を押さえつけて支点となるような役目を果たしていますので、
ストレスがかかりやすい場所でもあります。

その部分で腱が弱くなったり、傷ついた上にストレスが加えられ続けることで、断裂が起こります。

上腕二頭筋長頭腱の断裂の大半はこのような形の断裂です。

上の写真のように、力こぶを作ると、肩の方の腱が断裂して緊張がないため、
筋肉は先の方に引っ張られてしまい、力こぶは肘の方に落ちてきます。

では、以下で症例をご覧いただきたいと思います。

71歳の男性、右腕の痛みと脱力を訴えて来院されました。

前日、仕事で物を持ち上げた時に、
急に右腕が痛み、力が入らなくなったそうです。

右腕の検査として、エコー検査を行ったところ、
①の部分で切った画像には、結節間溝の中に、
上腕二頭筋の長頭腱はありませんでした。

②の付近で切った画像には、
皮下血腫と思われる映像がありました。

ですので、上腕二頭筋長頭腱が断裂し、
本来ある結節間溝の中には存在せず、
抹消の方に移動したことがわかります。

こちらは、良い方の腕です。

エコーの画像には、緑色矢印で示された幅で、
長頭腱が 写っています。


この方は、特に日常生活上で支障がなかったので、
痛みが取れた段階で、
肩関節が固まらないようにリハビリを開始しました。

その後も、痛みも出ず、
日常生活にも問題なく過ごされました。

次は73歳の男性です。物を持った時に、腕の痛みと、
肩の痛みが出て、来院されました。

肘を曲げてみると、右腕の力こぶの位置が明らかに肘側へ
移動しているのがわかります。

エコーを撮ってみると、
右腕の画像には、
赤色矢印で示す部分に何も映っていません。

したがって、腱が断裂し、
この部分に存在していないことがわかりました。 

この方も、リハビリにて経過を見ながら回復を待ちました。

回復後は、問題なく過ごされています。

73歳の女性です。2週間前に、物を持ってから、
右肩が痛むということで来院されました。

右腕の力こぶが若干末梢へ移動しており、
皮下出血も認めたため、上腕二頭筋長頭腱断裂を疑いました 。

エコーを撮ってみると、赤色矢印で示したように、
結節間溝部での腱の消失像が見受けられました。

この方も、リハビリで経過を見ましたが、
痛みの出る動作を避けながら、関節が固まらないように、
少しずつ動かしていくことで、回復していかれました。

以上のように、上腕二頭筋長頭腱の肩関節側(近位)で断裂した患者さんの多くは、高齢の方が多く見受けられました。 

つまり、腱そのものが変性し、弱くなっているところへ、

物を持つなど外的力が加わったため断裂してしまったケースが多いことがわかります。

その後の経過も良好で、何ら日常生活に問題も残らない場合がほとんどです。

遠位上腕二頭筋断裂

上腕二頭筋の断裂は、下の図のように、肘の付近で断裂する場合もあります。

肘を曲げ、手のひらが上になった状態で強い負荷がかかった時に、橈骨付近で腱が断裂します。

こちらは、スポーツや作業中の事故などでの受傷が多く見られます。

以下では、肘側(遠位)で腱が断裂した場合をご覧いただきたいと思います。

上の図は、肘を前から見た図です。

上腕二頭筋腱は橈骨粗面(とうこつそめん)と呼ばれる骨の一部に付いています。

また、上腕二頭筋腱膜といって
別の筋肉の表面に広がるようにして別れて付いています。 

腱の付着部で断裂した場合は、骨との連続性がなくなるので、筋力は低下します。

特に、スポーツ選手にとっては、握って相手を引き寄せるとか、
抱え込むとかといった動作ができにくくなります。

ですので、手術になるケースが見受けられます。

以下で、当院に来られた患者さんの例をご覧いただきます。

54歳の男性です。

3週間前に、30kgの荷物を持つ作業中に
ブチっという音とともに肘の前あたりが痛くなったそうです。

肘の曲げ伸ばしが、辛くなったため、
他の整形外科を受診されましたが、
放置されたため心配になって来院されました。

肘を曲げると、力こぶはしっかりと出ていますが、
若干、肩の方にずれています。

腕に抵抗をかけて肘を曲げてみると、
腱が断裂した方は明らかに、力こぶが移動し、
腱が上に浮き上がるような形になってきます。

エコーで確認をすると、赤矢印で示したように腱の付着部周辺は均一な配列像が見受けられず、黒く写っていました。

この画像から、はっきりと腱が断裂したことはわかりにくかったのですが、上腕二頭筋腱膜の部分的な損傷が疑われました。

この方は、仕事上違和感が長く続きましたが、リハビリで経過を見ることで、手術することなく、経過も良好でした。

また、仕事も続けることができました。 

19歳の男性です。
ラグビー部で、筋トレ中に受傷されました。

バーベルを持ち上げた時に、プチっという音とともに、急に右肘が痛くなり、翌日、近くの整形外科を受診されましたが、痛みが引かないため、インターネットをご覧になり、当院へ来院されました。

肘を曲げた状態でいると、右肘の力瘤の位置が左右で違っています。

右側の赤色矢印で示した力瘤が、上に若干持ち上がっています。 

肘を伸ばした状態で、特に痛みはなかったのですが、
×印の部分を押さえると、痛みが出ました。 

レントゲンを撮ってみても、
特に骨に異常はありませんでした。

エコーを撮ってみると、
右側の赤い丸で囲んだ部分が、
健側(左側)と比べて黒く写っている部分が大きく、
何かしらの異常が見受けられることがわかりました。

以上のことから、上腕二頭筋腱の損傷であると考えて、
経過を見ています。 

以上のように、腱の断裂と聞くと、非常に重症のような気がしますが、
上腕二頭筋腱の長頭腱断裂は近位部では、ほとんど断裂したことに気がつかないくらい症状としては軽いものがほとんどです。

それは上腕二頭筋腱は短頭と長頭の2本立てでできているので、
筋力的には若干弱くなりますが、
長頭腱が断裂しても、動かすことに関しては支障なく過ごすことができるからです。

また、肩の関節の周辺は、ほかの筋肉が動きをカバーしてくれるので、
目立った肩の運動制限もありません。

しかし、遠位部での断裂は、肩や肘の動きに直結するので、
見逃さないように注意が必要です。

物を持ち上げ、肘や肩に違和感があった場合には、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めします。