自転車に乗っていて転倒した際に強く手をついたり、体操中などに誤って転んで手を強く突いたりするケースで、
手首の骨が骨折する場合があります。
骨折とはいえ、大人の場合と、子供の場合では少々骨折の仕方が違ってきます。
子供の骨折には特有の骨折のタイプがあります。
これを「骨端線損傷」と言います。
このページでは、特に頻度の多い橈骨での骨端線損傷の例をあげて、
当院で取り組んでいる治療法をご紹介したいと思います。
橈骨でみられる骨端線損傷とは?
手関節付近で見られる骨折は、橈骨遠位部での骨端線損傷である場合が多いのです。
上記に示した骨端線損傷の分類の中でも、橈骨ではⅠ型とⅡ型のタイプがほとんどを占めます。
ただ、骨折部の変形の程度はさまざまで、徒手整復を必要としないものから、徒手整復を要するものまであります。
橈骨遠位骨端線損傷の治療の流れ
下の写真に示すように、橈骨遠位骨端線損傷は、小児の赤矢印で示した部分に起こる骨折です。
患部である手関節の部分に痛みと腫れが認められます。
レントゲンで、健側と比較して、骨端線の損傷の程度を見て、徒手整復の必要性があるか否かを判断します。
徒手整復は、骨端線をなるべく傷つけないようにフィンガートラップを用いて愛護的に行います。
下のレントゲンが整復後のものです。
整復が完了すれば、フィンガートラップをしたままでギプス固定を行い、転位しないようにギプスの3点固定を行います。
ギプス固定の範囲は、前腕から手関節を含めたものにしますが、指先は自由に動かせるように固定しますので、
お箸を使ったり、字を書いたりすることが可能なものになっています。
その後、約3週間程度ギプス固定を行うと、ほとんどの場合骨折部は骨癒合します。
以下で、実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。
10歳の男の子です。
左手関節の痛みで来院されました。
受診当日、家の塀を登って、ベランダに手をかけたら、
つかんだブロックが壊れて、1m50cmぐらいのところから転落し、
手をつき受傷されたそうです。
左の写真は、受傷直後のレントゲン写真です。
赤色矢印で示したところで、
橈骨遠位骨端線損傷(Salter-HarrisのⅡ型)が認められました。
転位が認められたため、徒手整復を行い、ギプスによる固定を行いました。
左の写真は、徒手整復を行い、ギプス固定をした状態でのレントゲンです。
赤色矢印で示したように、
転位した骨が元の位置に戻っていることがレントゲンで確認できました。
左のレントゲンは、初診時から3週間後のものです。
ギプスを除去し、レントゲンで確認したところ、
転位していた部分の骨が元の位置に戻り、
骨癒合していることが確認できました。
7歳の女子です。
近隣病院より、紹介で来られました。
すでに、レントゲン写真を撮ってこられたのですが、
そのレントゲンで転位がわかっていたため、
転位を治す治療を行う目的で来られました。
左のレントゲンの赤色矢印で示す、
右橈骨遠位骨端線の損傷(Salter-HarrisⅠ型)が認められました。
左のレントゲンは、フィンガートラップ下で徒手整復を行い、
ギプス固定した後で撮ったものです。
赤色矢印で示した骨折部分の転位が元に戻った状態で、
きちんと固定されていることが確認できました。
左の写真は徒手整復後に行ったギプスによる固定の外観写真です。
赤色矢印で示した部分で、ギプスを押さえこみ、
転位しないように固定を行いました。
ギプスの範囲は、前腕部分から手関節を含み、
手指は物をつかんだりすることができるように工夫して固定をしました。
初診時から3週間後のレントゲンです。
ギプスを除去し、レントゲン撮影を行ったところ、
損傷していた赤色矢印部分の骨端線は元の位置にきちんと収まっており、
骨癒合が確認できました。
12歳の女の子です。
左手関節の痛みを訴えて来院されました。
前日、学校で馬跳びをしていて、倒れた時、左手をつき受傷されたそうです。
左の写真は、初診時の外観写真です。
左手関節の腫れが著明に認められ、赤色矢印で示した部分を押さえると、
強い痛みを訴えておられました。
レントゲンを撮影したところ、
赤色矢印で示した部分で、
左橈骨遠位骨端線の損傷(Salter-HarrisⅡ型)が認められました。
転位が認められたため、フィンガートラップで徒手整復を行い、
ギプスによる固定を行いました。
若干背側に転位が残っていますが、
後に自家矯正されることも念頭に入れて、
許容範囲であると判断して、この位置で固定を行いました。
左の写真はギプスの外観写真です。
骨折部を安定させる目的で、赤色矢印で示した部分での3点固定を行いました。
固定範囲は前腕から手関節を含めて行いました。
手指は自由に動かせるようにし、
血流障害が生じていないか確認しながら固定を行いました。
約1カ月後のレントゲンです。
ギプスによる固定は3週間行いました。
ギプス除去後、経過観察を行って撮ったレントゲンが左のものです。
赤色矢印で示した骨折個所の骨癒合が認められ、
水色矢印で示した部分に新しい骨(仮骨)が確認できました。
前のレントゲンと、今回のレントゲンを比較してみると、
骨折部分がより元の位置に近づきつつあり、
リモデリングが行われていることがわかります。
小児の骨折では、この方の例でもわかるように、
自家矯正する能力が旺盛なので、
後に大きく変形を残して治癒することは少ないと言えます。
小児の骨折は、骨端線損傷と呼ばれる特徴のある折れ方をする場合があります。
今回ご紹介した橈骨遠位骨端線の損傷の例にもあるように、最初の変形を徒手整復し、固定療法を行う事で十分に治せます。
自家矯正力する能力が旺盛なので手術をせずに、約3週間ほどのギプスによる固定で対処できる場合がほとんどです。
お子さんが骨折された場合、親御さんは非常にご心配になると思います。
転んで、手を強く打ちつけたり、手を強くついてお子さんが痛がっておられる場合、早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。