手指基節骨骨折(こけて指が変形しちゃった!)
指の骨折ので多く見られるのが、この「基節骨骨折」です。
どの年代層にもみられますし、治療方法も手術からギプス固定まで幅広くあります。
今回ここで御紹介するのは、
当院で行っているギプス固定療法の一つで、固定中から手指を積極的に動かして、
早期に復帰することを目的とした治療方法です。
この方法は、他の施設や学会論文などでも掲載されておりますが、
実際にどのようにしてどのような結果が出ているのかを見ていただきたいと思います。

上の絵で赤で囲んだ骨が「基節骨」です。
それぞれの指の付け根の部分にあたる骨です。
横から見ると下の絵のようになりますが、
折れる場所は、基節骨の根元に近い部分で折れる場合が多いのです。

上の絵は、折れた時に指がどう変形するかをあらわしたものです。
上の赤丸印のようにくの字に曲がった骨を元通りの形にするために、整復を行います。
整復して、指を曲げたままの状態を保持して固定して治療します。

左の絵はギプス固定をした時のイメージ図です。
上で御紹介した骨折した指の状態から指を曲げて、固定をします。そうすることで、骨がまっすぐになります。
しかし、また指を伸ばすと骨折部分がもとに戻るので、指の背側にギプスを巻いて、指を曲げたままの状態を維持します。
そして、指全体を曲げたまま固定し続けると、指の動きが悪くなるので、指の先だけを動かせるようにしてギプスを巻きます。
これを「エクステンションブロック法」と言います。

左の写真は、実際にギプスを巻いたところです。
ギプスの素材は軽くて丈夫な素材なので、割れる心配はありません。
指先が自由に曲がるようになっていますが、完全に伸ばすことはできないようになっています。
例えば、この状態でペンを持ったり、お箸を持ったりすることは可能になっています。

ギプスを上側から見た写真です。
手の上からギプスが覆いかぶさるようになっています。
しかし、指先は自由に動かせます。
手首も自由に動かせるようにしています。

左の写真は骨折した直後のものです。
緑で示した健常な骨のラインから、赤で示した骨折した指のラインが外れていることがわかります。

骨折した骨を整復して、ギプスを巻いたままレントゲンを撮ったものが左の写真です。
骨折した骨の赤いラインが、健常な骨の緑のラインと並行に戻っています。
この状態で固定を3週間ぐらい行います。
緩みが生じたら、その時点でまた巻きなおします。
巻きなおしがあるとしても、1回ぐらいで済みます。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

左のレントゲン写真は55歳の女性の方です。
犬の散歩中に転倒して受傷されました。
受傷直後、右手の指の基節骨が3本折れています。

受傷後2週間のレントゲン写真です。
上の写真では曲がっていた骨が、ギプス固定を2週間行った後、まっすぐに治っています。

受傷後約1カ月のレントゲン写真では、
骨折部分に、赤色でなぞった仮骨(新しい骨による橋渡し)が形成されていることがわかります。

ギプスを外した直後に、手を動かしてみて、どれぐらい動くか、
骨折していない手と比べてみました。
手首の動きは左右でほとんど違いがありません。

指を伸ばす動きについては、小指と薬指が少し伸びにくいようです。

しかし、指を曲げるほうは、ギプスをとった直後でもかなり曲げられるようになっています。
このように、ギプス固定をしている間から指を曲げるようにしていたのが、固まらずに、指を曲げられるようになった原因であると考えられます。
ギプスを外した日から、本格的に指を伸ばすリハビリを始めます。固定除去から約1カ月で指を伸ばす方も元通りになりました。

左手の小指の基節骨の骨折です。(赤丸の内側部分)
正面から見たレントゲンでは、そんなに大きく横へずれているわけでもなく、
関節の中で粉砕されている状態でもありませんでした。
ですので、ギプス固定で治療が可能であると考えて、
固定療法を開始しました。

斜めからレントゲンを撮ると、隣の指と比較して、骨の軸が上向きになってしまっています。
ギプス固定を3週間行い、指を動かすことも指導していました。

ギプスを完全に除去した時のレントゲンです。
隣の指の骨の軸と比べて、ほとんど遜色ない状態まで回復しています。

怪我をしてから1カ月たった時点での手の写真です。
手を完全に伸ばしたときに、左手小指が若干伸び切らない感じはしますが、現在完全に伸びるようにリハビリを継続中です。

曲げるほうに関しては、まったく遜色なく指が曲がっています。

手のひらを返して指を広げてもほとんど腫れは見られず、
手先の運動にも支障がありません。
このように早い段階で、手が使えるようになっており、
指の機能を戻すリハビリも短くて済みます。

そこで、今まで当院で基節骨骨折に対して行ってきたギプス固定療法の結果をグラフ化したものが左の円グラフです。
折れた骨がどれぐらい曲がった状態になっているのかをグラフは示しています。
結果として、ほとんど変形してしまうことはなく、良好な状態で治っていました。

次に示した円グラフは、指を曲げた時の角度を示しています。
良い方の指の場合(緑の線の曲がり具合)は、 総合すると270度ぐらいになります。
そこで、当院での骨折後のリハビリを行って悪い方の指の曲がり具合(赤線の曲がり具合)を
調べると、円グラフで示した様な結果になりました。
指の機能をかなり取り戻してきたことがわかります。

最後に、ギプスを外してから1か月後に、
痛みと、変形と、関節の動きなどを総合評価をした結果、
日常生活に支障をきたさないように治った優となるものが6割以上を占め、少し曲げに制限が出た良を加えると8割以上を占めていました。
基節骨関節内骨折の場合

17歳の女性で、指の変形を訴えて御来院になりました。

レントゲンを撮ってみると、中指の関節に近い所で基節骨が複雑に折れていました。
このようなケースは、上で示した様な指を動かす固定療法は適応になりません。

そこで、こういった場合には、隣の指とつっくけて、指が並行になるようにギプス固定をします。
そうすることで、隣り合う指が支えになって、骨がずれることを防ぎます。
骨折直後、隣の指とくっつけて固定し、レントゲンを撮ったものが左の写真です。
折れた部分がまっすぐになっています。

約1か月半後の写真です。
指の変形もなく、少し腫れていますが、痛みもほとんどありません。

指を曲げても動きが改善されていて、ちゃんと曲がり、左右差もありません。

レントゲンを撮っても、骨折部分の骨が埋まっていることがわかります。

横から撮ったレントゲンでも、動きも申し分なく、骨もきちんと埋まっています。
指の部分の骨折は変形を残してしまうと、曲げたり伸ばしたりに支障をきたす場合があります。
ギプス固定療法か手術療法のどちらを選択するかは、患者さんに状態を御説明したうえで、
御相談して患者さんにとってより良い治療方法を選択するようにしています。
当院では極力機能傷害が残らないように、できるだけ固定療法で治すようにしています。
どうしても手術で治さなければならない場合は、
患者さんと御相談の上、手術治療になりますが、ほとんどの場合はギプス固定で治療します。
今回御紹介した手指の基節骨骨折はギプス固定療法で十分に治ります。
指をついたとか、指が引っ張られて痛くて腫れたり変形した場合には、
なるべく早く整形外科を受診されることをお勧めします。